01 見放されたゼーニジリアス。~心底ホッとしたみたいよ~
場所:第二砦
語り:小鳥遊宮子
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兵士達の宴がいよいよ盛り上がる中、私、小鳥遊宮子と、ターク様は、イーヴさんに声をかけられ、ゼーニジリアスの監禁されている牢屋に向かった。
第二砦の地下に向かう螺旋階段を下りて行くと、「くそー! 早くここから出せ! 私を解放しろ!」と、男の喚く声が聞こえてくる。
ターク様と顔を見合わせながらも、階段を下り切ると、牢屋を覗き込んでいるカミルさんとアグスさんの後ろ姿が見えた。その横には腕を組んで立っているガルベルさん、ファシリアさんも居る。
「まさか、タークを捕まえるためにアグス様に作らせた拘束具で、自分が捕まっちゃうなんてね、かっこつかないやつだよ」
「うーん、こいつが精霊と契約していたとはなぁ……」
「タークと違って、光ってないし一見分からないよね」
どうやら、彼が契約していた相手が大地の精霊だった為に、彼は一見普通の人に見えたらしい。水の精霊の輝きも、泥になって消えてしまっていたようだ。
「私もファシリアに言われないと分からなかったわ」と、ガルベルさんが頷いている。
もし気がついていたら、精霊の遺跡で会った時に、息子ではなくゼーニジリアスを拘束していたのにと、悔しがるアグスさん。
あの日、お父様に拘束された事を思い出して、泣いていたターク様の事を考えると、私も本当にそう思う。
カミルさんの後ろから牢屋を覗いてみると、拘束具をつけられた彼は、力無く床に倒れていた。眉だけはしっかり顰めて、必死に声を張り上げている。
「ふん、私はアクレアとドルゾレに愛されているんだ! 早く解放しないと、ここもすぐ泥にのみ込まれるぞ!」
『残念。アクレア姉さんもゾルドレ姉さんも、貴方にはもう、愛想が尽きたみたいよ』
「そんな……! 嘘だ! ドルゾレ……! アクレア……」
ファシリアさんに呆れたように言い放たれて、ゼーニジリアスは絶望したように涙を浮かべた。
――一見イケメンっぽいのに、酷く残念な人だわ。
そんな事を思っていると、アグスさんが男に向かって楽しそうに話しかけた。
「お前は私の実験のモルモットにしてやる。ふふん。お前がタークに与えた以上の苦痛を存分に味あわせてやるからな。楽しみにしておけ」
「わー! アグス様の実験、こわいよー? なんて言ったってしつこさが違うからね。ひゃー可愛そう!」
ニヤリと笑うアグスさんと、アグスさん以上に楽しそうなカミルさん。
さっきちらりと、カミルさんは時々、アグスさんの助手をしているのだと言う話を聞いたけれど、この二人は本当に気が合いそうだ。
「ひぃー」と涙を流すゼーニジリアスを、ターク様はただ、拳を握りしめて睨んでいた。
「だけど、精霊達は、どうして急に手を引いたの?」
カミルさんが振り返ってファシリアさんに尋ねると、彼女は苦々しい顔をして答えた。
彼女の話では、大地の精霊ゾルドレは長年ゼーニジリアスの言いなりだったけれど、本当は誰よりも心優しく、愛の深い精霊なのだそうだ。
『ニジルに濁流を強要されて、砦を押し流した事を後悔していたわ。ニジルが捕まって心底ホッとしたみたいよ。こんな顔だけの浮気男にほだされて困った姉さんよね』
そう言ったファシリアさんを、イーヴさんが「ハハハ……」と引きつった顔で見ている。精霊と言うのは、かなりの面食いなのかもしれない。
「で、アクレアは?」と、尋ねるカミルさんに、ファシリアさんがまた答える。
そもそも始めにゼーニジリアスと契約していたのは、水の精霊アクレアだったらしい。
彼女はもともと、とても清らかな心を持っていたけれど、愛するゼーニジリアスと、妹精霊に裏切られた事を知り、怒りに任せて精霊の力を投げ出してしまった。
長い間精霊の闇に苦しんでいた彼女は、ベッドの癒しの力で浄化され、我に返ったようだ。
『貴方の降らせた清らかな雨で、沼地に虹が架かったのを見て、水の在り方を思い出したって言っていたわ』
ファシリアさんの言葉に、カミルさんは「へー?」と驚いた顔をした。
『姉さん、今は力を失っているけど、闇からは抜け出せたし、きっと回復するわ。カミル、良かったらたまに姉さんに会ってあげてくれる?』
「もちろん」そう、笑顔で答えたカミルさんを見て、ファシリアさんは嬉しそうにくるりと回った。
そんな二人のやりとりを、精霊達って本当に人騒がせだな……と思いながら聞いていた私。
少し前なら、どうしてそんな事に? と思ってしまいそうな話だけれど、ただ、好きな人と一緒に居たいという気持ちは、どうしようもなく膨れ上がるものだという事を、私は知ってしまった。
「結局、悪いのは全部ゼーニジリアスだね」
カミルさんがそう言って、皆がうんうんと頷いたところで、私達は彼の管理をガルベルさんに任せ、その日は休む事にした。
捕らわれたゼーニジリアスの様子を見に行った宮子達は、彼が精霊達から見放されたことを知ります。彼はこれから、アグスさんの実験のモルモット生活を送るようです。
次回、メルローズ領のターク様のお屋敷に戻った宮子達。帰りを待っていた達也とミレーヌは……?




