12 忘れちゃ嫌です。~この気持ち、特大すぎる~
場所:ポルール
語り:小鳥遊宮子
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――うん、お料理食べよう。こんなときはやけ食いよね。
ターク様に横を向かれた私は、テーブルの上にたくさん並べられたお料理を、盛れるだけお皿に盛った。
それは、戦地の基地に並んでいるとは思えないような、豪華なお料理だった。
ガルベルさんが、魔法をふんだんに使って調理してくれている間、私も歌を歌ってお手伝いした。
生活魔法とやらをはじめて見た私の感動は、かなりのものだ。食材が空を飛び、切れたり煮えたり、驚くほど自由自在だった。
――ガルベルさんってすごい。
今さらながらにそんなことを考えていると、私の周りに、兵士たちが集まってきた。
「青薔薇の歌姫様! 今日はありがとうございました! あの歌も、ラストリカバリーも、本当に素晴らしかったです」
「噂にたがわぬ美しさですね! 戦場に花が咲いたみたいです。あの、よかったら僕たちと、一緒に食べていただけませんか?」
「うふふ、ありがとう……」
めったに褒められない容姿を褒められ、少し浮かれる私。
ニコニコと兵士たちに歌姫スマイルを振りまいていると、「ミヤコ」と、後ろからターク様に声をかけられた。
「一緒にあっちで食べよう……」
「あ、はい! あ、ちょっと……?」
ターク様に腕を引っ張られ、「ごめんなさいねー」と言いながら、兵士たちに手を振る私。
ターク様は前を向いたまま、どんどん歩いていく。あまりに早足で、盛りすぎたお料理をこぼしてしまいそうだった。
「ターク様、どうしたんですか? ソーセージが転がっちゃいますよ」
「す……すまない。つい……」
私たちは戦勝の宴に盛り上がる会場を出て、ずいぶん人気のない場所まできていた。
ベッドから遠く離れたせいか、ターク様がさっきより、かなり明るく光っている。
「ターク様はやっぱり、光っていたほうが、ターク様って感じがしますね」
思わず変なことを口走ってしまったせいか、「あぁ。そうかもな」と呟いたターク様は、横を向いたままだった。
「一緒に食べよう」と、言ってくれた割には、お料理も持っていないし、少し不機嫌そうにも見える。
「どうしたんですか? なにかありました?」
ターク様の顔を覗き込んでみると、彼は少し身を引きながら、顔を赤くして言った。
「いや……。お前が兵士たちに囲まれていたから……つい……妬いてしまった」
「ふぁっ……?」
危うく料理をはなしそうになる私の手元を、「落とすなよ」と、抑えるターク様。私から料理のお皿を取りあげると、近くのベンチにそっと置く。
それから、改まった顔で私の前に立ち、小さくひとつ咳払いした。彼の真剣な眼差しが、今度はまっすぐに私を見詰めている。
「ミヤコ、今日の礼をきちんと言えていなかったな……。今日は本当に、お前のおかげで助かった。お前がいなければ、この戦いは終わらなかった」
「そんなことは……。私、歌ってただけで……」
「いや、本当に助かったんだ。ありがとう、ミヤコ」
少し照れながらも、優しく微笑むターク様。皆の前で恥ずかしい言葉を叫んだ私を、ウザがっていたわけではなかったようだ。
私が少しホッとしていると、ターク様はジリッと私に歩み寄り、私の顔を覗き込んだ。
「ところで……ミヤコ。さっき、私を好きだと叫んでいたな……?」
――ぎゃー! それ聞きますか?
思わずビクッと肩を揺らしながら、「はひっ……聞こえてました?」と聞き返す私。ターク様は「聞こえないわけないだろ……?」と、少し不満そうに首を傾げた。
「あれは……なんだ……?」
ジリジリと近づいてくるターク様……。思わず少し後退りすると、ガシリと肩を掴まれた。
「信じていいのか? それとも……忘れてほしいのか?」
なぜだか少し不安そうな顔で、私の真意を確認する彼。
恥ずかしい……。だけど、街ひとつ包み込むほどの思いを、忘れて欲しいはずもない。
「わっ、忘れちゃ……嫌です」
そう答えた私を、ターク様がふわりと引き寄せた。気が付くとターク様の腕のなかに、すっぽりと抱きしめられていた私。
慌てる私の耳に、彼の切ない声が響いた。
「あぁ……。なんとかして忘れるつもりだったが……。あんなふうに叫ばれてはとてもできない」
「ひゃっ……ターク様……?」
――なに? この展開……!
パニック寸前の私の耳元で、彼の甘い声が震えている。
「タツヤに塗り込まれた想いなんがじゃない……。私が、お前を好きなんだ……」
――う、嘘でしょ……? 本当に……?
予想外の展開に、胸が飛び出しそうなほど高鳴っている。
だって、あの告白は、私の恥で終わるはずだったのだ。
いまではすっかり、贅沢になってしまった私。だけど、「はぁ」と、ため息のひとつでも吐いてもらえれば、そのうちきっと、気持ちも落ち着ついて……。
想いを伝えられただけでも幸せだった、なんて思いながら、いつかは賢く日本へ帰る。そして、遠く離れた日本から、異世界にいるターク様の幸せを願うんだろう。
そんなふうに思っていた。
だけど、こんなに優しく抱きしめられてしまっては、溢れかえった気持ちを、止めることなんてできない。
「ターク様が好き! 大好き……!」
少し腕を緩めて、熱っぽい瞳で私を見詰めたターク様。彼の切れ長の大きな目にうっとりと見惚れていると、その唇が、私の唇に重なった。
輝く吐息を漏らしながら、愛おしむように優しくキスする彼に、身体がとろけてしまいそうになる。
それは、いままでにターク様と交わした、どのキスともまったく違っていた。
彼に求められている実感が、全身を駆け巡り、喜びが胸に押し寄せる。
――もう無理、意識が飛んじゃう。
癒しの光を流し込まれた私の足元が、ふらりとふらつくと、ターク様は、慌てた様子で私をベンチに座らせた。
「すまない……我慢できなくて……」
苦々しい顔をして謝るターク様。
私がブンブンと首を横に振るのを見て、ホッとしたように笑う。
「好きだ……ミヤコ」
「私も大好きです。ターク様」
「まずいな。幸せすぎて顔がにやける……」
私の前にしゃがみ込んだまま、真っ赤になって口を手で抑えたターク様。照れた彼は、心臓が止まりそうなくらい可愛い。
――この気持ち……特大すぎる。いまなら世界中でも癒せそう。
私の隣に座りなおしたターク様が、私の前にガルベルさんの料理を突き出した。
「一緒に食べよう。慌てていて、自分の分を取り忘れたが……量は十分だな」
「はい……!」
闇夜のベンチの上で、もぐもぐと料理を頬張った私たち。
――どうしよう、どうなるの? ごめん! 達也……。私、日本に帰れないかも……。
ドキドキが止まらない胸に、少しずつ不安が込みあげはじめていた。




