11 癒しの加護、再び。~どうしてベッドなんですか?~
場所:ポルール
語り:小鳥遊宮子
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満天の星が広がるポルールの空の下。
第二砦の外に置かれたテーブルには、たくさんの料理が並べられ、皆がワイワイと食事をしている。
泥だらけだった兵士たちも、さっぱりと体を流し終わって、会場には笑顔が溢れていた。カミルさんが再び、ウォーターボールの雨をふらせてくれたのだ。
第一砦はまた壊れてしまったけれど、魔獣の消えたポルールは、とても安全なようだった。
「光ってるよね?」
「光ってますわね……」
「光ってますね……」
鎧を脱いでシャツに着替えたターク様を見て、女子一同がポカンと口を開ける。
すっかり不死身じゃなくなったはずの彼が、星空のもとキラキラと輝いているのだ。
「おかしい……。確かにシュベールは元に戻ったんだが……」
不思議そうに首を傾げるターク様。
そこに、ヒュンっと風を巻きあげて、ファシリアさんがやってきた。
「シュベールはね、自力で力を取り戻したのよ。タークに嫌われてないと分かって、嬉しくなっちゃったのね。感謝の言葉じゃ、念じても力は移動しないわよ。よかったわ! シュベールが元に戻ってくれて!」
嬉しそうにくるくると回るファシリアさんを、イーヴさんがにこやかに眺めている。
――ターク様に癒しの力を与えた光の精霊さんかぁ。できることなら、一度会ってみたいかも。
そんなことを考えている私の隣で、カミルさんが首を傾げた。
「なるほどね……。だけど、ターク。きみ、さっきは光ってなかったよね?」
背後から「当然だ」という、渋い声がして振り返ると、いつの間にかそこに、アグスさんが立っていた。
「父さん、どういうことですか?」
不意にお父様が現れて、少し緊張した顔をするターク様。
「分からんのか? 今日鉱山から引っ張り出したベッドだよ。あのベッドは、闇や光の力を吸収し、凝縮するレア鉱石、シェンガイトでできている。あの鎧を着て近くにいれば、お前の光は即座に吸収されてしまうというわけだ」
「アグス様、すごすぎます! どうやってあんな大きなシェンガイトを見つけたの?」
「ふふふ、カミル、私の技術と執念を舐めるなよ」
瞳を輝かせてアグスさんを見上げるカミルさんの頭を、ニコニコしながら撫でるアグスさん。
なんだか仲のよさそうな二人を見て、ターク様は眉を顰めた。
「だけど、あの巨大な闇のモヤを払うほどの力は、いったいどこから来たんですの……?」
マリルさんが尋ねると、アグスさんは得意げに答えた。
「タークのあの鎧はな、癒しの光をすべて吸収していたわけじゃない。ほとんどはあの、ベッドに力を転送していたのだ。今日使った癒しの力は、七年かけて、タークがベッドに溜め込んだものだよ」
「わぁー! そうなんですの!? 素晴らしいですわ!」
「さすがアグス様! こうなることを見越してたんですね! 僕、本当に感動しちゃったよ!」
「いや……そういうわけでもないんだが……。研究途中で取りにいけなくなって、結果的にそうなっただけだ……」
女子二人に力一杯褒められたアグスさんは、タジタジと後退りしながらも、嬉しそうに目尻をほころばせた。
ラストリカバリーの影響なのか、今朝よりもずいぶん顔色がよく見える。
「だけど……どうしてベッドなんですか?」
私が一番疑問に思っていたことを尋ねると、なぜか皆が口を閉じ、一瞬辺りが静まり返った。
「そりゃぁね……アグス様、タークにぐっすり眠って欲しかったんだよね」
「嫌ですわ、ミヤコさん。今さらそんな、わかりきったことを聞いて」
――えっ!? そうなの?
思わずアグスさんの顔を見上げると、彼は顔を赤くして横を向いた。
「私は、不眠症と精霊の加護の関係性を、少しばかり研究していただけだ……べ、別に、タークのためってわけじゃないんだからな……!」
――パパさん、ツンデレなの!?
思わず興奮してターク様を振り返ると、こちらも恥ずかしそうに赤い顔を歪めている。親子揃って可愛すぎないだろうか。
「五年前、これを渡すつもりでお前をポルールによんだんだがな……。タイミング悪く、鉱山に入れなくなってな……遅くなってしまった……」
「そうだったんですね……。あ……りがとう……ございます、父さん……」
照れながらも素直にお礼を言うターク様は、本当にすてきだ。
アグスさんは「ふん」と一つ頷くと、食事の席に戻ってしまった。
なるほど、このベッドがあれば、ターク様は光らずに眠れるらしい。
――ターク様、よかったですね!
ニコニコしながらターク様を眺めていると、私の視線を感じたターク様は、すっと横を向いてしまった。
――ガーン……。やっぱり……あの告白はさすがにウザかったかな……。
皆を救うためとはいえ、あまりにも恥ずかしい黒歴史になってしまった愛の告白。思い出すだけで顔から火が吹き出しそうだった。
――うん、お料理食べよう。こんなときはやけ食いよね。
そう思った私は、ガルベルさんの用意してくれた料理を取りに、すごすごとテーブルに向かった。




