07 廃坑に隠された秘策。~ぎゃー!虫だらけですわ!~
場所:ポルール
語り:小鳥遊宮子
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ポルール奪還の役目を終えた私、小鳥遊宮子と、カミルさん、マリルさん、エロイーズさんの四人は、アグスさんに連れられ廃坑の入り口に来ていた。
第一砦が壊されて以来、使われていなかったこの坑道は、沢山の魔物が入り込み、まるでダンジョンのような状態になっているらしい。
「七年前、私が隠したあるものが、この奥にある。ポルールが陥落して以来、取りに行けなくて困っていたが、今こそあれが必要だ。お前達、手伝ってもらえないか?」
少し切れ味の悪い話し方をしながらも、私達に頭を下げるアグスさんに、カミルさんが驚いたように首を傾げた。
「アグス様、いったい何を隠したんですか? 採掘の再開が目的じゃ無かったの?」
「黙っていてすまなかったな、カミル。私が坑道を使いたかったのは、あるものを運び出すためなのだ」
「一体何を……?」
皆が首を傾けた時、ものすごい旋風が吹いて、風の中からイーヴさんが現れた。何だかとても、慌てた様子で、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
「わ、イーヴ先生、タークに何かあったんですか!?」
あの映画スターみたいな美しい顔がこんな事に!? と、動揺する私を他所に、カミルさんは慣れた対応だった。
イーヴさんが言葉を発しないうちから、ハンカチを出して彼に駆け寄り、慣れた手付きで彼の顔を拭う。
「ぐふぅ……アグス様……タークが闇のモヤの中にっ……引きずり込まれてっ……ぐふ……精霊の、拘束具っでっぐひ……」
興奮状態のイーヴさんを落ち着かせようと、カミルさんがイーヴさんの背中を摩っている。
「そんな……ターク様が……」
私とマリルさんが、青い顔を見合わせると、アグスさんは、落ち着いた声で言った。
「あいつは、闇のモヤに耐性がある。不死身だし、どうという事はないだろう。それより、廃坑に入るのが先だ」
アグスさんの冷めた態度に、イーヴさんがキッと目尻を吊り上げ食ってかかった。
「アグス様……タークは痛みや苦しみを感じない訳じゃないですよ」
眉間に皺を寄せ、イーヴさんがアグスさんを見据えると、アグスさんは顔を顰め、声を荒げた。
「そんな事は分かっている。あいつの父親は私だぞ」
驚いた顔で彼を見上げるカミルさん。
――何だかイーヴさんとアグスさんの間に、バチバチと火花が散っているような……!?
イーヴさんの、ターク様への愛は本当に深い。アグスさんも、態度は厳しいけれど、きっとターク様を大切に思っているはずだ。
アグスさんに睨まれたイーヴさんは、落ち着きを取り戻し、立ち上がった。
「アグス様、タークを救う方法を教えて下さい。貴方には秘策があるはずだとガルベル様が……」
「あぁ。任せておけ。とにかく遺跡の奥から私の隠したあるものを運び出すんだ。時間がない。話はそれからだ。イーヴ、お前は砦を守っていろ。代わりにベルを呼んでこい」
こくんと頷いたイーヴさんが、ガルベルさんを呼びに戻って、私たちは、よく分からないながらも、とにかく廃坑に足を踏み入れた。
△
――ターク様……ご無事でいてください! 貴方のお父様の秘策とやらで必ず助けますから!
アグスさんを守るように、先を歩くカミルさん。
エロイーズさんはマリルさんと私をガードしながら、キョロキョロと周りを警戒して歩く。
――いったい、どんな魔物が現れるの……?
真っ暗な坑道を、マリルさんの炎が照らすと、壁にぎっしりとくっついている、大きな芋虫の大群が見えた。
「ぎゃー! 虫だらけですわ!」
「あひゃ……き、気持ち悪い!」
悲鳴をあげる私とマリルさん。ここの魔物は殆どが昆虫型のようで
サッカーボールくらいのサイズがある大量の蜘蛛やムカデが襲って来る。
半べそ状態の私達とは反対に、カミルさんは「こんなのが怖いの?」と不思議そうな顔をしていた。
彼女の専門は水属性らしく、水で出来た変幻自在の剣で、次々に魔物を倒していく姿は、ため息が出るほど美しい。
それを見て、最初はビクビクしていたマリルさんも、「怖がってる場合じゃないですわね。早く終わらせて、ターク様をお助けしますわよ」と、激しい炎で魔物を燃やし始めた。
やはり虫は火に弱いようで、気合いを入れ直したマリルさんは、本当に強かった。
――私はとにかく歌うのみ!
アグスさんは迷う事なく秘策のある場所に進み、私達は順調にその場所にたどり着いた。
△
「ここは、私の第二研究室だ」
誰も気付かないような、岩の壁の奥に、隠されるようにその扉は存在した。重い重い鋼鉄の扉は、魔道具で厳重に封印されているようだった。
アグスさんが石板に手をかざすと、大きな金色の歯車が回り始め、ゴゴゴ……と音を立てて扉が開く。
――え? まさか指紋認証? ターク様のお父様、凄い……!
私達は口をあんぐりと開けながら、その扉をくぐった。
「ななな!? 何ですかこれは!? あり得ない……あり得ないですよ!? アグス様!」
真っ先に叫んだのはカミルさんだった。
目を輝かせた彼女の視線の先には、本当に、本当に意外な物体が置かれていた。
宮子達に坑道に入るのを手伝ってほしいというアグスさん。彼が七年前に隠したあるものとはいったい何なのでしょう。タークが連れ去られたと報告を受けた彼は、一見冷静そうに見えましたが、内心とても焦っていたようです。
次回はターク様の語りです。泥沼のモヤの中に引きずり込まれたターク様の前にゼーニジリアスが現れます。




