02 達也との思い出1~幼馴染は可愛い子犬~[挿絵あり]
場所:タークの屋敷(ベッドルーム)
語り:小鳥遊宮子
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ターク様の部屋での一日は、退屈との戦いだった。
――ターク様遅いな……。あんなキラキラで目立つのに、外でいったい、なにしてるんだろう。
窓際で外を眺めていた私は、今朝のターク様のキラキラした姿を思い出していた。
まるで御伽噺に出てくる王子様のような姿で、出かけていったターク様。髪も綺麗に整えて、ため息が出るほどクールだった。
昨日は怖いくらいかたかった表情も、今朝サーラさんたちと話していたときは、ずいぶんと優しく見えた。
サーラさんから聞いた話では、ターク様は由緒ある伯爵家のご子息らしい。大剣士様になる前からずっと、一流の貴族だということだ。
部屋にいるターク様は、まったく着飾る様子がなく、シンプルすぎるくらいの恰好をしている。
だけど、生まれながらに貴族な彼にとっては、今日みたいな服装が、案外普段のファッションなのかもしれない。
――貴族の社交パーティーかぁ……。ステキなドレスで着飾ったお嬢様が、いっぱい来てるのかな? きっとターク様、モテて仕方ないんだろうな。
美しいご令嬢たちに、キャーキャー騒がれるターク様を想像して、私はぶんぶんと首を横に振った。
――だって顔が、達也と同じなんだもんね。
ちいさなため息をついた私は、今度はいなくなってしまった幼なじみ、達也のことを思い出していた。
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達也とは、家がとなりで歳も同じ。
物心つくころから、一緒にいることが当たり前だった私たちは、喧嘩をすることもなく、毎日長い時間を二人ですごした。
高校での達也は、その端正な顔立ちと、物腰のやさしさで、それはそれは、ものすごくモテたけれど、小さいころの達也は身体も小さく、泣き虫で甘えん坊だった。
「みやちゃん、ぼくといっしょにあそぼ!」
おねだりする可愛い子犬みたいな眼差しで、下から私をのぞき込んでは、毎日私を誘う達也。
私がほかの子と遊ぼうものなら、ヤキモチを焼いて泣き出してしまう達也を、私はとにかく可愛がっていた。
あんな顔で甘えられると、ついついなんでも許してしまうのは、きっと私だけじゃないと思う。
同い年にも関わらず、私は達也のお姉さん気取りで、可愛い弟の面倒を見ているくらいのつもりだった。
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「タッ君、早く早く、遅れちゃうよ!」
「待って、みやちゃん、ぼく靴が脱げそうだよ」
「タッ君、靴紐がほどけてるじゃない。私が結んであげる!」
五年生になったあの日も、私はいつもどおり達也と並んで登校していた。
まだまだお姉さんぶっていた私は、達也の靴紐を結んであげようとした。私より背の小さい達也を、道の脇の花壇に座らせた私は、自信満々の笑顔を浮かべていたはずだ。
だけど、靴紐はなかなかうまく結べない。
「もう! 早くしなくちゃ、遅れちゃうのに……!」
焦る私の指先はもつれるばかりで、時間だけがどんどんすぎていった。
「みやちゃん、泣かないで。大丈夫だよ」
いつだって泣き虫なのは達也のほうだったけれど、その日、泣き出したのは私だった。
達也はおろおろしながらも、泣いている私を一生懸命慰めてくれる。私が靴ひもを結び終わるまで、励ましながらじっと待ってくれていた。
ようやく靴ひもを結び終わっても、いつまでも拗ねてしゃがみ込んでいる私。
そんな私の頭を撫でながら、達也はまた、可愛い笑顔を見せてくれた。
「きれいに結んでくれてありがとう」
「うん、時間かかって、ごめんね」
――それから、達也に手を引かれて学校に行ったんだっけ。
結局遅刻して、二人で怒られたけれど。「みやちゃんと一緒だから平気だよ」なんて、優しく微笑んで、達也はまた私を励ましてくれた。
今思えば、あのころから、達也は私よりずっとしっかりしていた。私が偉そうにしていても、泣いていても、いつだって優しかった。
△
学校が終わってからも、私は毎日達也の部屋に誘われて遊びに行った。一緒に宿題をしたり、ゲームをしたり。なにをするのも一緒。
「みやちゃんと一緒なら、なんでも楽しいからね」
なんて言って、やりたいことも、食べたいものも、大抵私にあわせてくれる達也。
だけど、ここぞというときは「みやちゃん、おねがい!」と、子犬モードでおねだりしてくる。
お互い居心地がよすぎた、あのころの私たち。
私は達也に甘々で、達也のほうも私にべったりだった。
――だけど、いつからだっけ……? もう私にかまわないでって思うようになったのは。
――自分の思ったようにすればいいのにって、そう思ったのは……。
私がそう言ったときの、達也の悲しそうな顔を思い出す。
暇すぎてついつい、嫌な出来事を思い出しそうになってしまい、私はまた、ぶんぶんと首を振った。
――いけない。楽しいことを考えるつもりだったのに。
そのとき、書斎の扉が開く音がして、ようやくターク様が帰ってきた。




