05 ポルール奪還。~歌え!ミヤコ!~
場所:ポルール
語り:小鳥遊宮子
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第二砦の屋上で、ターク様は一足先に、第一砦へ向かう準備をしていた。
「ミヤコ、ウィンドクイックを頼めるか?」
ガルベルさんの作戦通り、私、小鳥遊宮子にウィンドクイックを頼むターク様。
ガルベルさんはライルの報告で、私が使える支援を把握していたらしい。ライルが「お魚食べたい」とウィーグミンに付いてきた時は、本当に可愛かったけれど、彼はしっかり、ガルベルさんのスパイだった。
「任せてください!」
私は、目を閉じると、あのウィーグミン領の手前の谷で歌った歌を、心の中で祈るように歌った。
――諦めないで マイヒーロー♪
信じる力 風に乗ってー
はやる心今は抑えきれないー♪
声に出して歌うと、とんでもない早さになったり、効果が続きすぎる可能性があるので、あの時と同じように、心の中でワンフレーズだけ歌う。
いつかこの歌を、ターク様に聞いてもらえる日が来るだろうか。
動きがとてつもなく早くなったターク様は、エロイーズさんを小脇に抱え、大剣を振り上げて、屋上からポルールの街に飛び降りた。
ものすごい速さで巨大な魔獣を切り裂きながら、そのまま一直線に、第一砦に向かって走り抜けるターク様。
支援がかかっているとは言え、同じ人間とは思えない動きだ。
一方、私とマリルさんは、ガルベルさんに抱えられ、上空から第一砦を目指す。
彼女の手が身体に触れたとたん、フワリと身体が軽くなり、私達は空中に浮かび上がった。
彼女は、重力を自在に操ることができるらしい。
ドレス姿の私とマリルさんは、風に広がるスカートの裾を大慌てで抑えた。
「キャーー!」
高いところが苦手だと言うマリルさんの、甲高い叫び声が上がる。
目下には、大剣を振り回して豪快に戦うフィルマンさんと、風のように軽やかに移動しながら、雷の剣を飛ばし、魔獣を黒こげにするイーヴさんの姿が見える。
二人は主に、第二砦を守る役目だ。
英雄と言われるだけあって、フィルマンさんの迫力はすごい。あの大きな身体で、巨大な剣を振りかぶり、三メートル近くジャンプしては、ズシーン! と地面を揺らしている。
一方イーヴさんは、本当に軽やかでスマートだ。カミルさんの鼻息が荒くなるのも納得のかっこよさだった。
ターク様を追いかけて、空を飛んでいる鳥型の魔獣を避けながら、ガルベルさんの箒は進む。
「きゃー! ファイアーボールですわー!」
両手が塞がったガルベルさんの代わりに、マリルさんは悲鳴をあげながらも、ファイアーボールを放ち、巨大な鳥を見事に撃ち落としている。
大きく乱高下する箒に、私は意識を保つので精一杯だった。
いつのまにかターク様を追い越した私達は、第一砦の残骸を少し通り過ぎた場所に降り立った。
「バーニングアイアンウォール!」
マリルさんが両手を空にかかげながら叫ぶと、高さ十メートルはありそうな、燃え上がる巨大な鉄の壁が、ポルールと沼地の境をしっかりと塞いだ。
これで、これ以上、新しい魔獣がポルールに入ってくる心配はないだろう。
それにしても、こんな小さな少女が、長さ数百メートルに及ぶ鉄の壁を召喚するなんて、本当に尋常じゃない。
だけど、やっぱり、魔力消費がとてつもないようだ。
――驚いてる場合じゃないわ! 歌わなくちゃ!
そう思って振り返ると、超速で走るターク様に抱えられたエロイーズさんが、必死に叫んでいる声が聞こえてきた。
「ぎゃー! マリル様ー! 今行きますーー!」
砂煙を巻き上げながら近づいてくるターク様。大剣と瞳が金色に光り、剣先から放たれる光の斬撃で、左右から迫り来る魔獣を、複数同時に切り裂いている。
二人のあまりの様子に、またポカンとしてしまう私。
そうこうしてる間にも、私達の周りに魔獣が群がって来て、ガルベルさんが必死に応戦している。
「マリル様、お待たせしましたー!」
私達の元にたどり着いたターク様は、エロイーズさんをマリルさんの隣に降ろすと、私にくるりと背を向け、目の前の魔獣を次々と切り倒した。
「歌え! ミヤコ!」
「歌うのよ! 歌姫ちゃん!」
「歌ってくださる!? ミヤコさん!」
――は! はい! はい!
必死に心を落ち着けて、大きく息を吸い込んだ私は、ようやく歌い慣れたあの歌を歌い始めた。
「頼ってよー 僕の力ー♪
頼りなく見えるかもしれないけど
意外と役に立つよー♪」
目の前には、襲いかかる魔獣を次々に倒すターク様。後ろには必死に鉄壁を維持するマリルさん。
私とマリルさんを大きな盾で守りながら、光る槍で鳥獣を突くエロイーズさん。
砦の残骸を重力魔法で持ち上げ、次々と立て直していくガルベルさん。
皆の魔力が尽きないよう、ひたすら歌い続ける私。
「こんなに側にいるのに
眩しくて君が見えないー♪
伝えたい想いは言葉にしよう
目を細めてもいいからー♪
あーワーカホリックの君ー
頼ってよー 僕の力ー♪
歌に乗せて君に届けたいよー
誰より大好きだとー♪」
昼を回り、ガルベルさんが砦を全て立て直した頃、ポルール内の魔獣は、皆の活躍により一掃された。
第二砦に居た兵士達は第一砦に移動し、ポルールは見事に、奪還が果たされたのだった。
第一砦を立て直し、ポルール内に居た魔獣を一掃した宮子達。長年戦いの場となっていたポルールがついに取り戻されました。
次回はイーヴの語りです。皆が喜びに沸く中、上空からルカラ湿地帯を見たガルベルは一人顔色を曇らせます。




