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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第12章 ドロドロの戦い

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05 ポルール奪還。~歌え!ミヤコ!~

場所:ポルール

語り:小鳥遊宮子

*************



 第二砦の屋上で、ターク様は一足先に、第一砦へ向かう準備をしていた。



「ミヤコ、ウィンドクイックを頼めるか?」



 ガルベルさんの作戦通り、私、小鳥遊(たかなし)宮子にウィンドクイックを頼むターク様。


 ガルベルさんはライルの報告で、私が使える支援を把握していたらしい。ライルが「お魚食べたい」とウィーグミンに付いてきた時は、本当に可愛かったけれど、彼はしっかり、ガルベルさんのスパイだった。



「任せてください!」



 私は、目を閉じると、あのウィーグミン領の手前の谷で歌った歌を、心の中で祈るように歌った。



 ――諦めないで マイヒーロー♪

 信じる力 風に乗ってー

 はやる心今は抑えきれないー♪



 声に出して歌うと、とんでもない早さになったり、効果が続きすぎる可能性があるので、あの時と同じように、心の中でワンフレーズだけ歌う。


 いつかこの歌を、ターク様に聞いてもらえる日が来るだろうか。


 動きがとてつもなく早くなったターク様は、エロイーズさんを小脇に抱え、大剣を振り上げて、屋上からポルールの街に飛び降りた。


 ものすごい速さで巨大な魔獣を切り裂きながら、そのまま一直線に、第一砦に向かって走り抜けるターク様。


 支援がかかっているとは言え、同じ人間とは思えない動きだ。


 一方、私とマリルさんは、ガルベルさんに抱えられ、上空から第一砦を目指す。


 彼女の手が身体に触れたとたん、フワリと身体が軽くなり、私達は空中に浮かび上がった。


 彼女は、重力を自在に操ることができるらしい。


 ドレス姿の私とマリルさんは、風に広がるスカートの裾を大慌てで抑えた。



「キャーー!」



 高いところが苦手だと言うマリルさんの、甲高い叫び声が上がる。


 目下には、大剣を振り回して豪快に戦うフィルマンさんと、風のように軽やかに移動しながら、雷の剣を飛ばし、魔獣を黒こげにするイーヴさんの姿が見える。


 二人は主に、第二砦を守る役目だ。


 英雄と言われるだけあって、フィルマンさんの迫力はすごい。あの大きな身体で、巨大な剣を振りかぶり、三メートル近くジャンプしては、ズシーン! と地面を揺らしている。


 一方イーヴさんは、本当に軽やかでスマートだ。カミルさんの鼻息が荒くなるのも納得のかっこよさだった。


 ターク様を追いかけて、空を飛んでいる鳥型の魔獣を避けながら、ガルベルさんの箒は進む。



「きゃー! ファイアーボールですわー!」



 両手が塞がったガルベルさんの代わりに、マリルさんは悲鳴をあげながらも、ファイアーボールを放ち、巨大な鳥を見事に撃ち落としている。


 大きく乱高下する箒に、私は意識を保つので精一杯だった。


 いつのまにかターク様を追い越した私達は、第一砦の残骸を少し通り過ぎた場所に降り立った。



「バーニングアイアンウォール!」



 マリルさんが両手を空にかかげながら叫ぶと、高さ十メートルはありそうな、燃え上がる巨大な鉄の壁が、ポルールと沼地の境をしっかりと塞いだ。


 これで、これ以上、新しい魔獣がポルールに入ってくる心配はないだろう。


 それにしても、こんな小さな少女が、長さ数百メートルに及ぶ鉄の壁を召喚するなんて、本当に尋常じゃない。


 だけど、やっぱり、魔力消費がとてつもないようだ。


 ――驚いてる場合じゃないわ! 歌わなくちゃ!


 そう思って振り返ると、超速で走るターク様に抱えられたエロイーズさんが、必死に叫んでいる声が聞こえてきた。



「ぎゃー! マリル様ー! 今行きますーー!」



 砂煙を巻き上げながら近づいてくるターク様。大剣と瞳が金色に光り、剣先から放たれる光の斬撃で、左右から迫り来る魔獣を、複数同時に切り裂いている。


 二人のあまりの様子に、またポカンとしてしまう私。


 そうこうしてる間にも、私達の周りに魔獣が群がって来て、ガルベルさんが必死に応戦している。



「マリル様、お待たせしましたー!」



 私達の元にたどり着いたターク様は、エロイーズさんをマリルさんの隣に降ろすと、私にくるりと背を向け、目の前の魔獣を次々と切り倒した。



「歌え! ミヤコ!」

「歌うのよ! 歌姫ちゃん!」

「歌ってくださる!? ミヤコさん!」



 ――は! はい! はい!



 必死に心を落ち着けて、大きく息を吸い込んだ私は、ようやく歌い慣れたあの歌を歌い始めた。



「頼ってよー 僕の力ー♪

 頼りなく見えるかもしれないけど

 意外と役に立つよー♪」



 目の前には、襲いかかる魔獣を次々に倒すターク様。後ろには必死に鉄壁を維持するマリルさん。


 私とマリルさんを大きな盾で守りながら、光る槍で鳥獣を突くエロイーズさん。


 砦の残骸を重力魔法で持ち上げ、次々と立て直していくガルベルさん。


 皆の魔力が尽きないよう、ひたすら歌い続ける私。



「こんなに側にいるのに

 眩しくて君が見えないー♪


 伝えたい想いは言葉にしよう

 目を細めてもいいからー♪


 あーワーカホリックの君ー

 頼ってよー 僕の力ー♪


 歌に乗せて君に届けたいよー

 誰より大好きだとー♪」



 昼を回り、ガルベルさんが砦を全て立て直した頃、ポルール内の魔獣は、皆の活躍により一掃された。


 第二砦に居た兵士達は第一砦に移動し、ポルールは見事に、奪還が果たされたのだった。



第一砦を立て直し、ポルール内に居た魔獣を一掃した宮子達。長年戦いの場となっていたポルールがついに取り戻されました。


次回はイーヴの語りです。皆が喜びに沸く中、上空からルカラ湿地帯を見たガルベルは一人顔色を曇らせます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ターク様、マリル様、ガルベル様の頼り所みやこ! 彼女の活躍もあってなんとかこの戦況を乗り越えたようですね! さすがみやこですね! 俺も花車様の作品で癒され力をいただきますね( *˙ω˙*)و…
[良い点] とてつもない勢いの戦いでしたね! 圧巻でした! けれどところどころ宮子がかわゆい仕事をなさる( *´艸`) 癒されました(●´ω`●)
[良い点] 戦いの様子が分かりやすくて面白かったです。歌詞部分がしっかり入っていることで宮子も必死で歌っていたこともよく伝わってきました。宮子の視点からなので戦闘メインでなく、歌メインになるのが現実味…
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