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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第11章 いざポルールヘ

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07 闇に堕ちたカミル。~ピカピカのタークは気に入らない~

 場所:アーシラの森

 語り:カミル・グレイトレイ

 *************



 メルローズ本邸にある練習場を抜け出した僕は、一人アーシラの森に来ていた。


 僕が考えた作戦はこうだ。


 スアの実をいくつか見つけたら、それをエサにしてタークのやつを練習場に誘き出す。そして、油断してるところをカーンと一発くらわせてやるんだ。決め台詞は、「イーヴ先生の一番弟子の座は僕がいただいた!」がいい。


 そしたらあいつも、少しは身を入れて練習する筈だ。サボったことを謝ったら、スアの実を食べさせてやってもいい。



 ――タークはどんな顔をするだろう。悔しがるかな?


 ――スアの実を見たら、喜ぶかな?



 そんなことを考えながら、僕はどんどん森の奥に入っていった。


 こう見えても僕は森には慣れている。なぜなら僕は、小さいころからときどき、こっそりイーヴ先生のあとを追っているからだ。


 僕はイーヴ先生の全てが大好きだ。あの美しすぎる顔も、優しい声も、かっこいい魔導の剣技も、僕たちみんなを愛してくれるところも。


 それに、先生は僕がケガをすると、いつもあたふたして泣いちゃうんだ。可愛いよね?


 僕は、ずっと、そんな先生を見ていたかった。


 イーヴ先生は、ポルールの戦いが始まるまで、シュベールさんに会うため何度も森に来ていた。僕はその様子を、美しいなって思いながらずっと木の影から眺めていたんだ。


 女神様みたいに綺麗なシュベールさんと、金色の髪と神秘的なグリーンの瞳をもつイーヴ先生は、本当にお似合いに見えた。


 もし、イーヴ先生がシュベールの加護を受けてたら、タークよりずっと似合ってたって思う。


 先生なら美しいまま、永遠を生きるのもいいかもしれない。だって先生は、特定の人のものにはならないから。


 だけどシュベールさんは、なぜかタークに癒しの加護を渡してしまった。


 彼女が真っ黒になって、それでも変わらず森に通いつづけるイーヴ先生を、僕はやっぱり追いかけた。


 先生にバレない僕の潜伏魔法はかなりすごいでしょ? ウォーターイブルの透明化は気配だって消せるんだ。


 だから僕は知っていた。


 あの癒しの光が本当は呪いだってこと……。


 そして、あの優しいイーヴ先生が、いつかタークを殺すため、あの遺跡の鍵を隠し持っていることも。


 だけど、先生はきっと、タークを殺せないだろう。先生は愛する弟子を殺せるような人じゃない。


 たとえ、あの寂しがり屋のタークが、孤独と苦しみのなか、永遠を生きることになったとしても……。



 だけど僕は、おばあちゃんになってから、若くてピカピカのタークに見送られるなんてゴメンだな。あいつがピカピカなのはどうも気に入らない。ミアだってきっとそうだ。


 それなのに、タークはもう、すっかりあの光を受け入れてしまっている。


 いつもそうだ。あいつはなんだって自分のなかに受け入れて、大切にしてしまうんだ。



      △



 気がつくと僕は、精霊の遺跡に来ていた。


 この遺跡は、この場所を知り、力を欲するものを強力によび寄せる。


 僕も何度か、頭に響く声によばれ、吸い寄せられるようにここに来ていた。



「シュベールさん、タークを殺す以外に、あいつから光を取りあげる方法はないの?」



 鬱蒼(うっそう)と繁る背の高い草の影から、彼女が僕の様子を伺っていることに、僕は気づいていた。



「カミル、また来たのね。坊やを救うのは諦めたほうがいいわ。あなたが闇に堕ちるだけよ」



 おずおずと現れた彼女は、もう闇のモヤを放ってはいなかった。光を失い痩せこけて、かつての美しさは失われていたけれど、彼女はしっかりした口調で話していた。



「きみ、もうすっかり闇を乗り越えたんだね」


「そうね。ファシリアとイーヴのおかげよ」



 ボサボサの髪の隙間から、大きな窪んだ目を覗かせて、シュベールさんは儚げに微笑んだ。彼女はいま、失った癒しの力を必要としているはずだ。



「癒しの光をきみに戻すことはできないの?」


「そんなの無理よ。力の移動には大きな愛が必要だもの。きっとタークは私を憎んでいるわ」


「シュベール、タークはきみを憎んだりしないよ。ねぇ、タークに会ってあげて!」



 僕は彼女を説得しようとしたけれど、彼女はゆっくりと首を横に振った。



「私はあの坊やに呪いをかけ、イーヴやあなたに遺跡の鍵を渡し、タークを殺せとけしかけたのよ? 可愛い坊やに愛されるわけがないわ」


「なら僕が、秘宝を使ってタークを殺してもいいの!?」


「やめておいたほうがいいわ、カミル。あなたが傷つくだけよ。あなただって、坊やを愛してるでしょう?」



 シュベールが突拍子もないことを言い出すものだから、僕は驚いて思わず赤くなってしまった。



「ち、違う! 僕が好きなのは、イーヴ先生だ! 僕はイーヴ先生を助けたいだけだ!」



 僕はそう叫んで、一年前にシュベールから渡された鍵を使い、遺跡のなかへ駆け込んだ。



      △



 遺跡のなかは、秘宝を守る闇魔導師と魔獣の巣窟だった。僕はウォーターイブルを使って、スルスルと遺跡の奥へ入り込んだ。


 秘宝によび寄せられ、たどり着いたその場所には、石の台座にセットされた、禍々(まがまが)しい黒い宝石が飾られていた。


 僕は秘宝を手にとって叫んだ。



「お願い! タークを元に戻す方法を教えて!」



 途端に周りにいた闇魔導師や魔獣たちが僕に気付き、一斉にこっちを見た。



 ――しまった。ウォーターイブルは声を出すと効果が切れるんだった!


「ひぃっ」



 僕は青ざめて尻餅をついた。手に持っていた秘宝が遠くへ転がっていく。魔獣たちが僕目掛けて飛びかかり、もうダメだ……と思ったとき、黒いモヤの塊が飛んできて、僕に絡みついた。



「うぁあぁ! 嫌だ、なにこれ!」



 僕は黒いモヤに包まれ、遺跡の外に引きずり出された。緑の風が僕の周りを吹き抜けていく。



 ――なにかに助け出された?



 その時僕は、そんなふうに思った。


 そして僕は、ふらふらしながら森のなかを彷徨って、必死にその場から逃げ出した。ピリピリとひび割れを起こす僕の体から、どんどん闇が噴き出してくる。



「お前……カミルか……? その姿……いったいどうしたんだ……」



 黒いモヤを吐き出しながら、森を彷徨う僕に声をかけたのは、タークの父、アグス・メルローズ伯爵だった。

 実は何度もイーヴ先生を尾行していた様子のカミル。彼女は先生の秘密を知っていただけでなく、彼女自信もシュベールから遺跡のカギを渡されていました。


 遺跡に踏み入り、秘宝を使ってしまった彼女の前に現れたのは、タークの父、アグスでした。この続きは十二章でお話しします。


 次回、ポルールに戻ったイーヴとガルベルのもとに、ついにあの男が姿を見せます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 花車様おはようございます! カミルにそんな出来事があったのですね。 そしてターク様は本当の不死身で不死になってしまうこと。 これを思えばカミルも考えてしまう事でしょう。 今日の休みも花車様の…
[良い点] パパーン( ´Д`)y━・~~ もといお父様! やっと会えましたイケメン紳士様! この日をどれほど楽しみにしていたでしょう。 ここから物語も少し解きほぐされていくのですね。 楽しみです!
[良い点] カミルの冒険がとても面白かったです。シュベールのやつれた姿の描写もひどくリアルで良かったです。カミルがいま、物語をかき乱してくれていてとても面白いです。 [一言] アグズ様の行動、どうする…
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