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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第11章 いざポルールヘ

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06 辛気臭いのは嫌い。~ターク!君ってやつはぁ!~

 場所:メルローズ本邸

 語り:カミル・グレイトレイ

 *************



 ――五年前、王都にあるメルローズ本邸にて。



 僕はカミル・グレイトレイ。世界一かっこいいイーヴ・シュトラウブ先生のもと、魔道剣士を目指して修行中の十三歳だ。


 だけど、半年前から始まったポルールの戦いのせいで、イーヴ先生は戦場に出かけたまま帰ってこなくなってしまった。


 僕とタークはいま、先生に言われたとおりの練習メニューで、自主練習の日々を送っている。


 練習場は、メルローズ家本邸の広い敷地内にあった。


 当主のアグス様が、一人息子のタークのために準備した場所だ。


 たとえ先生がいなくても、僕は立派な魔道剣士になるため、努力は惜しまない。先生が戻ったら、成長した僕を見てもらって、思いっきり褒めてもらうつもりだ。


 だけど、兄弟子のタークときたら、最近全然気合いが入っていないんだ。


 今日も堂々と練習を抜け出したかと思ったら、またミアと一緒にサボるつもりみたいだった。



      △



 僕は得意の透明化スキル、()()()()()()()()を発動しながら、こっそりとタークの様子を伺っていた。あいつのせいで、僕まで練習に身が入らないのは本当に迷惑だ。


 ふらふらしながら屋敷から出てきたミアを、タークが出迎えている。



 ――好きな子に会うっていうのに、またずいぶん辛気臭い顔をしているな……。



 そんなことを考えながら、二人の会話を盗み聞きする僕に、タークはまったく気が付かない。



「ミア……またそんなにふらふらになって……。どうして父さんはきみにこんな酷いことをするんだ……」


「ターク様、これは私がアグス様にお願いしていることです。どうかアグス様を責めないでください」


「どうしてなんだよ……ミア……!」



 ――あー! なんて切なくて情けない声を出してるの? ターク!



 僕は背中がゾワゾワして、一人で頭をかきむしった。タークは()()なんてよばれているイーヴ先生の一番弟子で、僕の唯一のライバルだっていうのに、なんだかちっともカッコよくないんだ。


 それに、僕が思うに、ミアが好きなのはタークじゃない。もしタークのことが好きなら、あいつにあんな顔はさせないはずだ。


 思ったとおり、ミアはタークから目を背けた。



「ターク様はいま、剣の練習の時間の筈です。私にかまわず行ってください」


「嫌だよミア、父さんのところにはもう行かないで……」



 タークはますます切ない声を出して、屋敷に戻ろうとするミアを抱きしめた。アグス様のサキュラルで弱ったミアを、癒しの光で回復するつもりらしい。



 ――練習をサボって好きな子とイチャイチャしてるなんて、不死身の神童はいいご身分だよね、まったく。



 そう思いながらも、僕は大きなため息をついた。


 アグス様がどうしてミアをゴイムにしてしまったのか、僕だって疑問だったんだ。


 以前はすごく優しかったアグス様が、最近はすっかり人が変わったみたいになってしまった。


 ミアは確かに、無尽蔵な魔力の持ち主だけど、これじゃタークがあんまり可愛そうに思える。


 タークがミアを好きなことは、この屋敷にいる(みな)が知っていることだ。


 タークはもともとすごく人懐っこいやつだったけど、ミアといるときはとにかくニコニコして、優しくして、好きな気持ちを隠そうともしなかった。


 アグス様がそれを知らないわけもないのに。



 ――まぁ……タークのことなんてどうでもいいんだけどね。



 僕はいつまでもミアを抱きしめているタークに呆れながら、だれもいない練習場に戻った。



      △



 タークが練習しないなら、僕にとっては好都合だ。いまのうちにいっぱい練習して、僕がイーヴ先生の一番弟子になればいい。


 僕は一人、水属性魔法の練習をはじめた。



 ――だけど、あんな奴に勝ったって面白くないかもな。


 ――うまくやって一撃くらわせたってどうせ不死身だし……。どう考えてもあれはずるいよね。



 僕はそんなことを考えながら、上空に向けアクアボールを次々に放つ。



 ――あー! まったくつまらない!



 そう思ったとき、自分が放ったアクアボールが僕のうえに降ってきた。ぼんやりしてる間にサイズが膨れあがって、小さい池ならひとつで満水にできるくらいに大きくなっている。



「うぁぁ! イタタタ!」



 バシャーン! と水面に叩きつけられたような衝撃が走り、仰向けに倒れた僕は、全身ずぶ濡れになってしまった。


 ゲホゴホとむせながら目を開けると、いつの間にか戻ってきていたタークが、呆れた顔で僕の足元に立っていた。



「まったく、なにしてるんだよ」


「う、うるさい! この、サボり野郎!」


「顔、赤くなってるぞ? 打ったのか?」


「触るなバカー!」


「いいから起きて」


「待って、きみまで濡れるよ」



 問答無用でひっぱり起こされた僕は、癒しの光に包まれた。さっきミアを抱きしめたばかりのその腕で、ずぶ濡れの僕を抱きしめるきみ。どうして少しも躊躇(ちゅうちょ)しないんだろう。



 最近急に背が伸びたタークは、ずいぶん逞しくなったみたいだった。


 だけど、僕は気付いてしまった。


 タークが僕の濡れた肩で、こっそり涙を拭いてるって。



「もう治ったから離してよ」


「ぐす……まだ治ってない」



 ――もー! ターク! きみってやつはぁぁ!



 結局僕は、タークが泣き止むまでずっと掴まれたままだった。


 泣き止んだタークは素知らぬ顔で、ブンブンと大剣を振り回していたけれど、またすぐにサボりに行ってしまった。



      △



 ――これはもしかして、ライバルの僕を不抜けにする作戦か? それにしたって卑怯な手だ。



 僕はすごくもやもやして、そのあとも全然集中できなかった。



「なんなんだよ!」



 僕がそうぼやいたとき、突然僕の心臓がドクンドクンと波打ちはじめた。


 目の前がチカチカして、不気味な声が頭に響く。



『――お前の願いを叶えにおいで――』


 ――僕の願い……?



 嫌な気持ちに胸がザワザワして、冷たい汗が背中を流れていく。



 ――僕はいったい、なにを願ってるんだろう。



 首を傾げた僕の心に、少し懐かしいタークの笑顔が浮かぶ。癒しの加護を受ける直前の、十歳のタークだ。



「そういやあいつ、スアの実を美味しそうに食べてたっけ。あのころのタークはいまよりもっと面白いやつだったな」



 僕は練習場を抜け出すと、果物を入れるカゴを持って、ふらふらとアーシラの森を目指した。

 ミアを抱きしめるタークを透明化スキルで覗き見るカミル。タークが気になって仕方ないようです。


 そんな彼女をタークは治療と称して抱きしめたうえ、こっそり涙まで拭いてしまいます。苛立ったカミルになにかが呼びかけました。


 次回、なにかに呼ばれ、森へ出かけたカミル。彼女はなかなかとんでもない少女だったようです。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] カミルの闇堕ち。 こうしてカミルは闇堕ちして行くことになるのでしょうか。 続きが気になりますが…明日! 花車様の作品また一気読みするぞ( *˙ω˙*)و グッ! 花車様の話マジ今の俺のマイブ…
[良い点] なんと罪深きターク様(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) 振り回される女の子たちも大変ですね。 自覚がないっていうところが何とも,罪深い(´・ω・`)笑
[良い点] ターク様のお坊ちゃまぶりが面白かったです。傍から見ているとあんな感じなのですね。たしかに腑抜けだったと思えました(笑) [一言] カミルさんのヤンチャさが語り口によく出ていて面白かったです…
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