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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第10章 事の真相

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15 日本に来たイーヴ。~余計なことはしないでね~

場所:日本

語り:イーヴ・シュトラウブ

*************



「なんだこの世界は……!」


 風になって日本の街の上空に浮き上がった私は、想像もしなかったその光景に息を呑んだ。


 所狭しと並ぶ四角い建物の間を、網の目のように張り巡らされたグレーの道。そこに、小さな粒のようなものがひしめきながら移動している。



「何か動いてるぞ?」


「あれは車よ。もっと近づいて見てみる?」



 ファシリアに促された私は、ビュンと音を立てて急降下した。身体に当たる空気のにおいまで、元居た世界とは随分違って感じる。


 近くで見た車は、本当に不思議な乗り物だった。



「馬がいないようだな……?」


「この世界は魔法の代わりに化学が発展しているの。だから、馬の代わりに科学で車を引っ張ってるのよ?」


「ふーむ、魔道具みたいなものか……?」



 分かったような分からないようなファシリアの説明に「うーん」と唸り声をあげると、私の周りに生暖かい風が渦を巻く。



「イーヴったら、考え込むと妙な風が起きるのね」



 ファシリアがくすくすと笑いながら、私の背中を押すように少し前へ押し出した。



「行きましょ。面白い世界だけど、ゆっくり観光している暇はないわ! タツヤがタークに取り込まれて消えちゃう前に、ミヤコを元気にしないと」


 

      △



 私はファシリアに引っ張られ、ミヤコ君の居る部屋の窓辺に降り立った。私たちの起こした風が、窓にかかっていたカーテンを大きく揺らす。



「しっ。びっくりさせちゃうからもっとそっとして。あれがミヤコよ」


「タークみたいに髪が黒いな」


「この国の人たちはだいたい黒いわよ?」


「えぇ!? そうなのか……」



 私達は風になったまま、息を凝らしミヤコ君の家の中に忍び込んだ。家の中は珍しいものがいっぱいだ。どれもこれも気になるが、今はそれどころではない。



「彼女、今日は泣いてないみたいね」


「この様子をタツヤ君に伝えるか?」


「でも表情が暗いわ。もう少し様子を見ましょう」



 その時、パチンと音が鳴って、壁に掛けられた四角く黒い板に、人間の姿が映し出された。



「わ! なんだあれ?」



 驚いた私の周りに、ブオンっと風が巻き起こリ、部屋の中をガタガタと振動させる。そのあまりにも不自然な風に、ミヤコ君は驚いたのか、手に持っていたカップを落としてしまった。


「イーヴ! 何してるのよ」


「すまない、風が思った以上に反応するんだ」


 彼女は悲しそうに項垂れながら、割れたカップを片付けている。瞳に涙がたまっているが、なんとか持ちこたえているようだ。


「これはもう、いつ泣き出してもおかしくないな」


「もう……イーヴったら、逆効果じゃないの」


 ファシリアが呆れたようにため息をついたが、私のようにおかしな風は起こらなかった。彼女は流石に、私よりうまく風を制御出来るようだ。


「彼女、どこかへ行くみたいよ」


 準備の終わったミヤコ君が家を出て、私達はそれを追いかけた。


 道の脇のベンチに座り、何かを待っている様子の彼女は、手のひらサイズの四角い板を(いじ)っている。


「あれは何だ?」


「あれは本じゃないかしら? いつも文字を読んでるみたいだもの。だけど、話しかけると返事をするのよ」


「ひどく不思議だな。まさか、生きてるのか?」


 彼女が背中に背負った鞄にそれをしまうと、私は好奇心に負けそれに手を伸ばした。


「イーヴ、余計な事しないで。また驚かせちゃうでしょ」



      △



 彼女は長い車に乗り込み、グレーの道をどこまでも進んでいく。


 この長い車は馬よりも早く、沢山の人間をいっぺんに運べるようだ。科学と言うのはすごいものだ。私がファシリアと契約していなければ、全く追いつけなかっただろう。


 しばらくすると、ミヤコ君がペコペコと謝りながら長い車を降りてきた。何かトラブルがあったらしい。


「益々表情が暗くなってるわ」


「なんだか困ってるみたいだな。彼女がケガをしたりしないように見守らないと」


 とことこと山道を歩いていたミヤコ君は、暑さのせいかどんどん顔色が悪くなって行く。


「涼しい風でも送ってみる?」


「また驚いて転んだりしないか?」


 私達がそんな相談をしていると、彼女はとうとう道端に倒れこんでしまった。


「お、おい、倒れたぞ!? 助けに行かないと」


「まって! イーヴ」


「どうした?」



 慌てて飛び出そうとする私を、ファシリアが引きとめた。



「異世界ゲートが閉じかけているわ! 戻らないと私達、日本に取り残されてしまう!」



 空を見上げると、紫の渦のように見えていたゲートの光がどんどん小さくなっていくのが見えた。



「なんて事だ! でも彼女をあのままにしておくわけには……!」


「そうね、仕方ないわ、こうなったらもう、連れて行きましょう!」


「連れて行くって!?」


「連れて帰って直接タツヤに会わせるのよ!」


「えぇ!?」



 ファシリアはそう言うと、倒れたミヤコ君を抱え、戸惑う私を引っ張って、消えかけのゲートを一目散にくぐった。



      △



「……ふぅ、なんとか間に合った。危なかったわね!」


「どうして急にゲートが閉じたんだ?」



 ファシリアがゲートを調べると、まがまがしく光っていた秘宝は、すっかりその力を失っていた。



「あら……闇の魔力がすっかり切れたみたいね」


「そんな……!」


「何度も異世界と行き来したんだから、当然と言えば当然だわ」


「ええ!? 秘宝には無限の魔力があるんじゃなかったのか?」


「誰が無限だなんて言ったの? 魔力なんだから使えば無くなるわよ」



 気を失ったミヤコ君を抱きかかえたまま、私たちは互いに顔を見合わせた。



宮子を元気付けようと日本にやって来たイーヴですが、まだ風の力に慣れていない部分もあり、余計な事ばかりしてしまいます。結果倒れてしまった宮子を連れ元の世界に戻った二人。精霊の秘宝は魔力を使い切り、力を失ってしまいました。


次回は宮子の語りになります。あの日の不運がだいたいイーヴ達のせいだった事に気付いた宮子はイライラします……。

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― 新着の感想 ―
ああ、プロローグの裏ではこんなことが起きていたんですね。 宮子が元は生身で連れてこられていたことには驚きました。 この後どうなるのやら。
[一言] なるほど! こうしてみやこは異世界に連れてこられたのか!? でもこうなると召喚者のご主人様は一体。 続き楽しみです(*´︶`*)ノ
[良い点] ひー! 衝撃!点と点が繋がった気分です。 なんてことでしょう。 お節介、とはまさにこのことですね(゜ω゜)笑
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