11 絶対秘密よ!~それ、タークが怒りませんか?~
場所:ガルベルの小屋
語り:イーヴ・シュトラウブ
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「イーヴ先生、なぜ僕はガルベル様の小屋にいるんですか?」
起きてきたタークが、まったくいつもどおりのタークに戻っているのを見て、私、イーヴ・シュトラウブは顎が外れるほどに口を開いた。
声にならない声でガルベル様を呼ぶと、彼女も口を開けたまま、黙って立ち尽くした。
――タークがもとに戻っている!
タツヤ君が頑張ってくれたのだろうか? だが、あんなに日本に帰りたがっていたのに、彼はどうなってしまったんだろう。
タークがもとに戻ったのは嬉しかったが、消えたくないと不安がっていたタツヤ君のことを考えると、私たちは手放しでは喜べなかった。
「ターク、お前は闇魔導師に捕まり、精神攻撃を受けたんだ。まだ調子が戻らないだろうからここでしばらく休もう」
不思議そうな顔で首を傾げるターク。
「なぜイーヴ先生やガルベル様まで戦線を離れているんですか? ポルールはどうなったんです? 大丈夫なんですか!?」
「ポルールなら、フィルマンを置いてきたから大丈夫よ」
ガルベル様がそう言うと、タークは不安に満ちた険しい表情をした。
「フィルマン様はもう二年も前から隠居しているのに? イーヴ先生、僕に休養は必要ありません。早くポルールに戻りましょう。戻って戦わないと……!」
「ターク、お前はまだ本調子じゃない、焦ることは……」
私が止めようとすると、タークは突然頭をおさえて暴れはじめた。
「いたた……頭が割れる……! だれだ! 私になにをしている!? この頭に響く音は……?」
叫びながら頭を抱えてのたうちまわるターク。
「ちょっと、タッ君、大丈夫なの? 落ち着いて!」
タークがテーブルをひっくり返し、テーブルのうえの花瓶が落ちそうになると、ガルベル様は花瓶とタークに魔法をかけ、その動きを止めた。
テーブルと花瓶はすうっともとの位置に戻り、タークはゆっくりと床に倒れ、そのまま眠ってしまった。
「ガルベル様、タークにいったいなにを?」
私が不安げな顔をすると、「スリープをかけただけよ」と、ガルベル様はため息をついた。
「一見普通に見えたけど、まだ様子が変だわ。タツヤも、タッ君の心を修復するのに何ヶ月かはかかるって言っていたし。その間、タッ君が戦線に出たがらないようにしないといけないわ」
「そんなことできるんですか?」
「暗示をかけるのよ。あなたはポルールで戦えなーい、やる気でなーいってね」
「そんなものがタークに有効ですか?」
「あら、知らないの? タッ君はこの手の攻撃にめちゃくちゃ弱いのよ。すっごく簡単にコンヒュやチャームにかかっちゃうし、一度かかるとずーっと効いてるの。いまだって簡単に寝ちゃったでしょ? 多分三日は起きないわ。私にチャームで連れ回されて以来、ものすごく警戒してて、あの鎧もあるから普段は効かないけど、油断してると全然ダメなのよね」
「そんなことして、タークが怒りませんか?」
「そんなの、絶対秘密に決まってるでしょ! 寝てる間にかけるのよ! あと、都合の悪い記憶は忘れてもらわなくちゃ」
――やっぱり怖い! この魔女!
私が恐怖に震える瞳でガルベル様を見ると、彼女は「あなたの記憶も消してあげましょうか?」と、ゾッとするような恐ろしい顔をして、魔法の杖を私に向けた。
私が震えている間に、ガルベル様はちゃちゃっとタークに暗示をかけてしまった。ステータスにも表示されないとは、本当に恐ろしすぎる。
「これでいいわ。とにかく、タッ君の言うとおりよね。あんな隠居したジジイに何日もポルールは任せておけない。私たちも早く戻りましょ。そしてタッ君はやる気が出ないのを自覚させてメルローズに帰らせるのよ。最低でも三ヶ月、しっかり休ませましょう」
そう言うと、ガルベル様はまた、私とタークを両腕に抱え、箒にまたがった。




