05 ターク様の弱点。~感動!本物の達也だわ!~
場所:タークの屋敷(客室)
語り:小鳥遊宮子
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「と、言うわけで……、私達はガルベル様の箒で、ようやく遺跡を脱出したのだ」
客室のソファーに座り、ひとしきり話をしたイーヴさんは、やれやれといった様子で、アンナさんの用意した紅茶を口に含んだ。
テーブルを囲んで座っているのは、イーヴさん、ガルベルさん、ターク様の三人。ファシリアさんはイーヴさんの周りを気まぐれに飛び回っている。
私は、少し離れたソファーで、まだ具合の悪そうな達也の頭を膝に乗せ、彼の手を握りながら話に耳を澄ませていた。
達也をこんな風にしてしまったガルベルさんに、ふつふつと怒りが湧いてくる。
――やっと動けるようになったのにね……こんなの、可哀想だよ……。
イーヴさんの話によれば、やはり達也はターク様を助けるために、この世界に呼び出されたようだ。
そう言えば、あの林間学校の日、朝から変な風が吹いていたけれど、あれはファシリアさんが達也を探していたのかもしれない。
謎の遺跡で、手足を拘束された状態で目覚めたという達也。
牢屋の外には恐ろしい魔獣までいたと言うんだから、その驚きと恐怖は、きっと大変なものだったはずだ。
――かわいそう。
私が達也の手をギュッと握ると、達也は「みやちゃん……」と小さく呟いて、くんくん鳴く子犬みたいな瞳で私を見上げた。
――うう! 達也だ! 本物の達也がここに居る!
何度かターク様の体で動く達也を見たけれど、光っているせいか、日本にいた頃とは少し印象が違って感じた。
だけど、今この膝の上に居る彼は、まぎれもなく幼馴染の達也だった。
私が本物の達也に感動していると、ソファーテーブルの方から、困惑するターク様の声が聞こえてきた。
「あまりの内容で、いったい何処から理解すればいいのか……」
ターク様は、ソファーの配置的に私たちに背中を向けていて、その顔を見る事は出来ないけれど、彼はずっと、落ち着いた声で、イーヴさんの話に相槌を打っていた。
――ターク様が何日も魔獣に食いちぎられていたなんて……。そんな目に遭ったら、記憶を失くしてしまうのも無理はないわ……。
彼の不死身の力は一歩間違えると、とんでもなく恐ろしい拷問になってしまうようだ。
ターク様は落ち着いているけれど、私は想像しただけで、気持ちが落ち込んでしまいそうだった。
「結局、僕を拘束したのはシュベールでもファシリアでもないんですね?」
「あぁ、お前が何故捕まってあそこに居たのか、私には未だに分からない。もしかするとモヤの中でゼーニジリアスに会ったんじゃないか?」
「うーん……全然思い出せません。しかし、そうだとしたら、ゼーニジリアスはやはり恐ろしいやつですね。私を簡単に拘束してしまうとは……」
信じられないという声を出して、首を傾げるターク様。確かに、あんなに強い彼を拘束するなんて、とんでもないパワーが要りそうだ。
そんな事を考えていると、ファシリアさんがイーヴさんの後ろから、得意げに身を乗り出して言った。
「あの拘束具は、昔私が捕まった檻と同じ、緑の石が付いていたわ。あれは、精霊狩りのオゾが使っていた道具と似たような物かもね。タークが動けないのも当然よ」
「あぁ、あの時はあんな風に言っていたが、ファシリアはあの拘束具のせいで、お前を助けてやることが出来なかっただけなんだ」
すかさずファシリアさんをかばう、イーヴさん。彼はまるで映画スターのようにかっこよくて、その上うっとりするような優しい声で話す。
ファシリアさんはイーヴさんにメロメロのようで、イーヴさんが何か言うたび、嬉しそうに彼の周りを飛び回った。
「なるほど…僕にそんな弱点があったなんて。なら、僕を捕らえたのは、精霊狩りの仲間ですかね……?」
低く唸るような声を出して、静かに驚くターク様。
「うーん……きっとそれ、今は思い出さない方がいいんじゃないかしら? 貴方の心を砕いたのは、魔獣の噛み付き攻撃なんかじゃないわ。下手に思い出して、また心が砕けても知らないわよ?」
明らかに何か知っていそうな口ぶりで話していたファシリアさんだったけれど、ターク様に「君は何か知っているのか?」と、質問されると、「知らないわ」と言って、プイッと横を向いてしまった。
ターク様は無理には聞けないと思ったのか、それ以上何も聞こうとしない。
見ている限り、ファシリアさんはターク様の事が、あまり気に入らないようだった。
イーヴさんには楽しげに話しかけているのに、ターク様を見る目つきがずいぶんと鋭いし、突き放したような、トゲトゲしい話し方をする。
――精霊って、見た目は可愛らしいのに、やる事がひどいのね……。
なんだかイメージと違う風の精霊。勝手に達也を連れ去っておいて、異世界の事はどうでもいいなんてあまりにも酷い。
しかも、達也を材料だなんて呼んでいるけれど、もしかして達也は本当なら、消えてしまうところだったのだろうか。
ずっとターク様が消えてしまう心配ばかりしてきたけれど、達也の方こそ、よほど危うい状態だったのかもしれない。
ターク様を治療するためとは言え、突然達也が消えてしまったあの日のことを思い出すと、頭からどんどん血の気がひいていく。
身体がぐらぐらと前後に揺れるのを感じながら、私は黙って彼らの話を聞いていた。
久しぶりの本物の達也に感動する宮子ですが、勝手なことをする精霊やガルベルさんにイライラしているようです。そして、ターク様を拘束したのはいったい誰なのでしょう。それが分かるのは11章になります。
次回、イーヴ先生が何度もシュベールに会いに行っていたことを知ったターク様は……?




