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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第10章 事の真相

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04 達也になったターク。~来てしまったガルベル様~

 場所:アーシラの森(精霊の遺跡)

 語り:イーヴ・シュトラウブ

 *************



 ファシリアがどこかへ消えてしまい、牢獄に取り残された私は、引き続きかたい床に転がっていた。


 なんとかタークの拘束を解いてやりたいが、自分も手足を拘束されたままで、どうすることもできない。


 タークは石の壁に分厚い錠で拘束されている。しかし、その程度の拘束は、普段のタークなら、腕力で簡単に抜け出せるはずだった。


「おうちにかえりたい」と、しばらくぐずぐず泣いていたタークは、突然気を失ったように眠ってしまった。



 ――私の自慢の弟子が、どうしてこんなことに……。


 ――タークは不死身の大剣士だぞ。



 立派に成長したはずの弟子が、子供のように泣く姿は、少し見ていられない。しかし、小さいころの泣き虫だったタークを思い出すようで、なんだか懐かしくもあった。



 ――あぁ、ターク、まさかまだ、消えたりしてないよな……?



 不安と焦りが、私の胸をざわつかせている。



 ――それにしても、ファシリアは、いつの間にあんな真っ黒なモヤになってしまったんだ?



 苦しい夜が明け、朝になると、死んだように眠っていたタークがゆっくりと目を開いた。



「ターク! 大丈夫なのか?」


「え!? ここどこ!? わ! 僕捕まってる?」


「きみは……。もしかしてタツヤ君か?」



 いつもとまったく、表情や話し方の違うターク。私は、ファシリアの言っていたタツヤ君が、タークに入り込んだのだと直感した。



「え、よかった。外人さん……。日本語が通じてる。そうです、どうして僕を知ってるんですか? おかしいな、僕、山にいたはずなのに……」


 ――なんて事だ……タークはどうなった?



 このままタークが別人になってしまったらと思うと、底知れぬ不安が私を襲う。


 タツヤ君は混乱した様子で、しきりに辺りを見回していた。それもそのはず、ここは蔦や苔が生えた石造りの牢獄のなかだ。


 縦桟の向こうでは、黒いモヤに包まれた闇魔導師たちが、じっとこちらを覗き込んでいる。


 なかに入ってくる様子はないが、かなり不気味だ。その奥には、数匹のガラマイラの姿も見えた。


 目の前には手足を拘束され、額から血を流した男、床に転がる鎧と大剣、足元に広がる大量の血の跡……。



「本当になんなの? この状況……」



 ポカンとするタツヤ君に、私は状況を説明しようと口を開いた。



「きみはこの国を救う英雄になる男、不死身の大剣士ターク・メルローズの心を修復するため、ここによばれた。きみは、もう一人のタークだ」



 しかし、タツヤ君はますます困惑した顔をした。



「はい……? なにを言われてるかよくわからないんですけど……。すみません、どうして僕、拘束されてるんですか?」


「拘束されてるのは君じゃない。その身体はタークのものだ」


「僕、なんだか変な夢を見てるみたいだな。妙に眩しいと思ったら、身体が光ってるし……あなたは……?」


「私はイーヴだ。タツヤ君、きみはタークの心を治せるのか?」


「そういえば、タークの心を治せば日本に帰してあげるとかって、言われる夢を見たかも……」



 学校行事で訪れていた山の中で、突然強い風に吹き飛ばされ、気を失ってしまったというタツヤ君。彼は夢のなかでファシリアから、タークの心を治せと言われたようだ。


 ファシリアに見せられたタークの心は、半分ほど粉々に砕けていたが、元は卵のような形だったらしい。


 その卵の割れた部分から漏れ出す、サラサラとした砂のようなもの……。その一粒一粒が、タークの記憶や想いのかけらだ。


 殻を修復し、溢れた砂が消えないうちにかき集めて詰めなおせば、タークの心はもとに戻る……と。



「できそうなのか?」



 私が不安に満ちた顔でタツヤ君を見上げると、彼はそっと瞳を閉じた。



「ターク君……これがきみの心か? ずいぶんこぼれてしまったんだね。ひどいな、そんなことがあったの? それから何日も食いちぎられつづけていたなんて……うんうん、それで小さくなったんだね」



 タツヤ君は目を閉じたまま、幼児化したタークと話しているようだった。



「タークはそこにいるのか?」


「ええ。幼児化してるし、かなり消えかかってますけど」


「タツヤ君、お願いだ。タークを助けてくれないか?」


「えぇ……? 彼はかわいそうだと思うけど、こんなの僕には無理ですよ……。僕、一刻も速く、みやちゃんのところに戻りたいんです」



 タツヤ君が迷惑そうに顔を(しか)めたとき、突然どこかで、扉が開いた音がした。コツコツと靴音を立て、だれかがこちらに近づいてくる。



 ――この足音は、まさか……。



 牢屋を覗き込んでいた闇魔導師達が、慌てたように身構える。しかし、強力な火柱が立ちあがり、一瞬で皆燃え尽きてしまった。


 飛びかかる魔獣も一撃で倒しながら、ツカツカと牢屋の前までやってきたのは、大魔道師ガルベル様だった。


 彼女はなにか詠唱するでもなく、まるで最初から開いていたかのように牢屋の扉を開け、なかに入ってきた。


 私の前に立った彼女は、不満そうに腕組みをし、床に転がる私を見おろして言った。



「やっと見つけたわ! イーヴ、まったく、ちゃんと行き先を言って行きなさいよ! こんな情けない姿になっちゃって!」


「ガルベル様、なぜここに来てしまったんです!?」



 私は「最悪だ」という顔で項垂れた。


 この遺跡を知ってしまったものは、私と同じ苦しみを味わうからだ。欲望まみれのガルベル様が闇に堕ちたなら、それはもう、世界滅亡の危機だろう。



「ポルールを離れる段取りをしてから、水晶であなたの痕跡を追ってきたのよ。すごく時間がかかっちゃったわ!」



 ガルベル様は私たちの(かせ)易々(やすやす)とはずし、パパッと私に治癒魔法をかけた。


 そして、「もう、タッ君ったら。捕まっちゃダメじゃないの」と、言いながら、タツヤ君の方を振り返った。


 ガルベル様のやることを、ポカンとした顔で眺めていたタツヤ君。たとえ異世界の住人でなくても、ガルベル様にはじめて会ったなら、だいたい皆、こんな顔になる。


 タツヤ君も大きく目を見開いて、かなり戸惑っているようだ。



「えっと……すごいですね。あなたは魔法使いさんですか?」



 タツヤ君の発した言葉に、ガルベル様はショックを受け、ふらりとよろけた。



「えぇ!? タッ君、どうしちゃったの!? きれいなお姉さんを忘れるなんて……。悪い冗談はやめて……!」


「それが、タークの心が壊れてしまって……」



 状況を説明しようとすると、ガルベル様は私とタツヤ君をぐいっと両腕に抱え、箒にまたがった。床に転がっていたタークの大剣と鎧が、私に向かって飛んでくる。



「これ持って! 話はあとで聞くわ! この遺跡、本気ですごくやばい気配がするじゃない。とにかく速く脱出しましょ!」



 ガルベル様に抱えられた私たちは、まるで重力がなくなったかのように軽くなり、ふわりと浮きあがった。


 思わず「うわっ」と声をあげた私たちを乗せ、箒はそのまま猛スピードで遺跡を飛び出す。


 木の葉の中を突き抜けるように上昇した私達は、大空へ高く舞いあがった。



 達也になってしまったターク様を見て、「タークを治せるのか?」と、尋ねるイーヴ先生。ですが、「みやちゃんが心配だから早く日本に帰りたい」と、達也に言われてしまいました。


 次回のお話は宮子目線になります。ターク様を窮地(きゅうち)に追いやった彼の弱点とは……?


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ターク様の心を修復することが日本へ還してもらう条件でしたか。 とすると、おそらく、それは未だ完全には果たされていないんでしょうね。 異世界から呼びつけられ難題を押し付けられた達也は災難ですが、人助け、…
[良い点] 達也もとんだとばっちりを受けてしまいましたね。 彼にとってはいい迷惑でしょうが、頼みを受け入れてくれてイーヴたちは助かりました。 混乱もせず魔法という異世界仕草を受け入れるとは、流石現代っ…
[一言] なるほど! こんな事があって達也は異世界に呼ばれたのですね! ターク様を救うために! するとみやこはどうなるのでしょう!続き楽しみです(*´︶`*)ノ 花車様お疲れ様です!(´▽`)
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