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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第10章 事の真相

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03 イーヴの願い。~闇に堕ちたって構わない~

 場所:アーシラの森(精霊の遺跡)

 語り:イーヴ・シュトラウブ

 *************



「あぁ……ターク。可哀想に……」


「うわぁーん、いたかったよ、はやくおうちにかえりたいよぉ……」



 治癒の光で身体が癒えても、タークは子供のようにぐずり、泣きわめいていた。



「なんてことだ……。心が壊れただと……? 私の可愛い弟子が……。この国の希望が……」



 涙を流す私の周りを、黒いモヤが、くるくると飛び回る。



「普通なら闇堕ちするところだけど、癒しの光のせいで闇に逃げれなかったのね。代わりに幼児化して逃げるなんて、さすがあなたの弟子よね。イーヴ」


「タークが闇落ちなんてしたら、ゼーニジリアスとの戦いは絶望的だ……やはり私の弟子は賢いな」



 弟子の賢さにあらためて関心していると、黒いモヤはまたタークの周りを飛び回りはじめた。



「だけど、あなたの望みがタークを殺すことじゃなかったなんて。意外だわ。タークがいなくなれば、秘宝のことを忘れるかと思ったけど、違ったのかしら」


「なぜそうなる! 私がタークを愛しているのをお前は知っているはずだ。タークに近づくな!」


「愛してるから殺す、なんてよくある話じゃない? だけど違うなら、あなたの望みはなぁに? やっぱり癒しの力が欲しいのかしら? それとも風の力? あなたは欲深いわね!」


「私はお前たちから、なにかを奪ってやろうなんて考えたことはない!」


「嘘よ。人間は精霊を(だま)して力を奪い取る! 人間は嘘ばっかり!」



 黒いモヤは悲痛な叫びをあげ、燃えるように揺れた。たくさんの仲間を精霊狩りに奪われた怒りが、いまもなおシュベールを狂わせているのだろうか。



「なぁシュベール、何年もきみのところに行かなかったのは悪かった。私にはすべてを守り切る力がなかったんだ。だがタークだけはこの手で守りたい。頼むから拘束を解いてくれ」


「だめよ……あなたはまだ秘宝を欲しているわ。見て……。秘宝があなたの欲望に反応している」



 黒いモヤがクルクルと移動して、私はその先に目をやった。壁にかけられた鏡に、祭壇のうえで黒く光る妖しい宝石が映し出されている。



 ――あれが……すべてを叶えるといわれている精霊の秘宝……。



 鏡ごしにでもそこに、ものすごい魔力が内包されているのが感じられる。しかし、それを使ったものは、皆等しく闇に堕ち、闇の精霊に呪われるといわれているのだ。


 その黒い宝石から発せられる強い波動。それが、私の鼓動に応じるようにドクドクと波打ち、『私を使え』と呼びかけてくる。


 遠くはなれた戦地にいても、その呼びかけはいつもいつも私の心に聞こえていた。



「そうだ……私にだって望みはある! たとえ私が闇に堕ちたとしても、かなえたい大切な願いだ。その秘宝の誘惑は強い。在処(ありか)を知ってしまった以上、忘れることもできない。だが、私はもう何年も持ちこたえてきた! 望みがかなったところで、私が闇に堕ちたのでは誰も喜ばないとわかっているからな」


「そうね、あなたは強いわイーヴ。そしてものすごく愛が深い。でもいつまで持ちこたえられるかしら? 私はあなたを闇に堕としたくないの」


「く……。勝手なことばかり……。私に秘宝の在処を教えたのはお前だろう!」



 私は床にうずくまり「あぁ! くそう!」と叫んだ。


 黒いモヤがゆっくりと私に近づくと、目の前にあの鍵が現れた。



 ――あの日シュベールにこの鍵を渡されたりしなければ、こんなに苦しむことはなかったのに。



 私が恨めしい気持ちでその鍵を見据えていると、黒いモヤが耳元で囁いた。



「そんなものを何年も大事に持ち歩いて……。あなたの望みを教えてちょうだい。この秘宝を使って、戦いを終わらせたいのかしら?」


「それはもちろんだが、私が闇に堕ちては意味がない」


「それじゃぁ……壊れたタークの心をもとに戻せるって言ったら? あの光を取り除いてあげられるって言ったら?」


「……そんなことができるのか?」



 うずくまっていた私は、期待に満ちた表情で顔を上げた。それに反応するように、黒いモヤがブワッと広がり、怒ったように蒸気を上げる。



「ほら見なさい、あなたはやっぱりタークのために闇に堕ちるのよ!」


「そうだな……」



 私は吸い込まれるように、秘宝の映し出された鏡に見入っていた。



「タークのためなら、私は闇に堕ちたってかまわない……。タークを治してやりたい……。タークは英雄になるべく生まれた男なんだ。私は戦いを終わらせたいんじゃない。タークを……私の可愛い弟子を英雄にしたい。タークが子供になってしまったのでは意味がない!」



 黒いモヤは私の前でゆっくりと上下していた。まるで、取り憑かれたようにブツブツと話す私を(なだ)めているようだ。



「だめよイーヴ。持ちこたえて。あなたの望みはすべて私がかなえてあげる。あなたはここで待っていて」



 その言葉を聞いた私はハッとわれに返った。



「シュベール、なにをするつもりだ!?」


「心を修復する材料を取ってくるわ。異世界にいるもう一人のターク、タツヤよ。彼を材料にして、タークの壊れた心の殻を作りなおすの」


「なんだって? そんなことをして、もう一人のタークはどうなるんだ?」


「ウフフ、異世界のことなんてどうでもいいじゃない。私たちには関係ないわ。急がないとタークの心が完全に壊れて無になっちゃう。そうなったらおしまいよ」


「し、しかし……。これ以上きみを闇に晒すわけにはいかない。待ってくれ!」



 私が頭を床につけると、黒いモヤがため息を吐くように蒸気を吹き出した。



「イーヴ、あなたの土下座はもう見飽きたわ」



 聞き覚えのあるその言葉に、顔を上げた私は、黒いモヤを凝視した。



「まさか……お前、ファシリアなのか……?」


「やっと気付いたの? 行ってくるわ……」


「まて! まてまて! ファシリア!」



 必死に呼び止めた私の声は彼女に届かず、黒いモヤはスゥっと消えてなくなってしまった。

 タークを元に戻すためなら、闇に堕ちても構わないと言うイーヴ。そんな彼を牢屋に残し、闇のモヤは「材料を取って来るわ」と達也を迎えに行きます。モヤの正体がファシリアだと気付き必死に呼び止めるイーヴでしたが、彼女は行ってしまいました。


 次回、イーヴの前で突然目を覚ましたタークは、また様子が違っていました。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
えぐい……ターク様、なんて酷い目に……。 達也が喚ばれたのはこういう状況だったんですか。 壊れてしまった心を補うため、宮子とミレーヌの関係を思い出します。 濃い闇をまとってしまったファシリアのことも…
[良い点] イーヴの愛もターク様に対しては歪んでおりますね。 愛するあまりに、弟子を英雄に仕立て上げたい念が強まりすぎてしまったのか。 達也を使ってターク様を治そうとしているとは。 ターク様の心は治…
[一言] ターク様を治すためにタツヤを犠牲に!? イーヴ先生もこれには本当にみやこの事を考えたら困惑してしまいますね(´;ω;`) どうなるのか楽しみです! なんかとばして読んだところありますがまた読…
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