09 青薔薇の歌姫。~ワーカホリックの君~[挿絵あり]
場所:王都
語り:ターク・メルローズ
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あの日から毎日、ミヤコは街に出かける私についてきた。
私たちは、ガルベル様を探し回ったが、彼女の姿は見えず、カミルやマリルを戦地に連れていった様子もなかった。
ライルの話では、ガルベル様は私に会いに来た夜にはポルールへ戻っていったということだった。
彼女はこの世界で唯一人の、空を飛べる本物の魔女だ。
馬車で何日もかかるポルールへもあっという間に移動してしまう。彼女をこちらから捕まえようと動き回るのは無駄なことに思えた。
いつまた戻るともしれないが、私たちはガルベル様が戻るまでの間、とりあえずはいままでどおり、待っているケガ人を治療したり、止まっていた街の魔道具に魔力を込めて回ったりすることにした。
「頼ってよ〜 僕の力~♪
頼りなく見えるかもしれないけど
意外と役に立つよ~♪」
彼女が歌うと、私の魔力は一分と待たず全回復してしまう。メルローズの街のケガ人は、あっという間にいなくなり、三日目には私たちは王都に足を伸ばした。
私たちの噂を聞きつけ、王都の大きな集会場には、治療を求める人々と、魔力を回復したい魔法師達が大勢詰めかけていた。
予想を超えた騒ぎに、ミヤコは緊張に強ばりながらも、舞台に上がり、いつもの歌を歌った。
「こんなに側にいるのに
眩しくて君が見えない~♪
伝えたい想いは言葉にしよう
目を細めてもいいから~♪
あーワーカホリックの君~
頼ってよ~ 僕の力~♪
歌に乗せて君に届けたいよ~
誰より大好きだと~♪」
それは、私の好きな、元気の出る歌だった。
曲名は「ワーカホリックのきみ」だという。意味はわからないがとにかくいい歌だ。
半信半疑で集まった大勢の観客たちは、はじめこそガヤガヤと騒がしかったが、ミヤコが歌いはじめると、みな口を閉じ、熱心に聴き入った。
青い薔薇のドレスを着て歌うミヤコは、凛としてとても美しかった。
彼女の心が歌に乗り始めると、辺りは虹色の光に包まれ、不思議な音符が流れるように現れて、光っては消える。
それは、魔法を見慣れている魔導師達たちの目にも、とても不思議で幻想的に映ったようだった。
魔導師たちの魔力があっという間に全回復すると、会場に響めきが起こり、それから拍手喝采が沸き起こった。たくさんの観客が感動に涙を流している。
まるで奇跡のような光景を前に、雷に打たれたような衝撃が私を貫き、息も出来ないほどに胸が高鳴った。
私はまた、彼女のチャームにかかってしまったようだった。
不死身の大剣士とともに現れる、青いドレスを身にまとった歌姫の噂は瞬く間に広がり、それは日を追うごとに王都中で盛り上がった。
そして、数日後には、私が大剣士になったとき以上の騒ぎになっていた。ミヤコは観衆たちの声援に笑顔で応えた。
少しおどおどとして、言いたいことを言えずに口をパクパクさせることも多かったいままでの彼女からは、想像もつかないほど、舞台上の彼女は堂々としている。
何度も舞台にあがり、ミヤコが自信をつけるにつれ、あの幻想的な虹色の光が美しさを増し、効果範囲も広がっていった。
彼女の歌にあわせ、集まった人たちが次々に楽器の演奏をはじめ、終いには音楽隊を結成し、私たちの行く先々に現れるようになった。
何日か目には、私もミヤコの歌にあわせてバローナを弾いた。すると、彼女の歌声はますます伸びやかに響き渡った。あまりの盛り上がりに、興奮が私の胸を熱くしていく。
「なんてありがたいのかしら! 青薔薇の歌姫も大剣士様も最高に美しいわ!」
私たちは行く先々で、そんな称賛の声に包まれた。しかし、たくさんの人が喜んでくれる一方で、私たちへの視線には一部厳しいものもあった。
「青薔薇の歌姫はゴイムだったって話じゃないか。ゴイムはポルールの防衛に必要な魔力供給源だろう。いますぐゴイムに戻して戦地に連れていくべきだ」
「戦況は悪くなっているって話なのに大剣士様はなぜずっと街にいるんだ? 治癒魔法は治癒魔法師に任せて早く戦いを終わらせてくれればいいのに」
私たちはなにを言われても、黙々と活動をつづけた。なにも出来ないよりは、できることをしていたかった。
ミヤコはそんな私に、文句ひとつ言わず付き合ってくれていた。
ほかの魔法師たちの活躍もあり、長い間病気やケガに苦しんでいた多くの人々が治療を受け、王都はしだいに元気を取り戻していった。




