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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第9章 青薔薇の歌姫

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08 私、ついていきます!~眩しく見える君~

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 朝日が昇りはじめ、薄明かりが漏れるカーテンの向こうから小鳥のさえずりが聞こえている。


 昨日私が隣に寝かせたミヤコが、メイド服姿のままスウスウと寝息を立てている。


 いつも私より先に目覚めていた彼女が、こんなふうに寝顔を見せるのは珍しい。


 彼女が私の手をしっかりと握りしめていることに気付いた私は、小さくため息をついた。


 マリルに婚約破棄を言い渡されたのも、まだほんの六日前だというのに、私はまた強引に彼女を隣に寝かせてしまったのだ。



「ミヤコ……」



 私が呟くと、彼女はゆっくりと目を開いた。持ち上がった長いまつ毛のしたから現れた黒い瞳が、私から漏れ出る光を反射してキラキラと光っている。そのしたの(ほお)にはうっすらと涙のとおった跡が見えた。



「ふぁ……おはようございます。ターク様……ですよね?」


「なんだ? そんな当たり前のことを聞いて……」


「あっいえ、ターク様、パンですよね? あっ……朝御飯……」



 寝起きから少し様子がおかしい彼女は、さっきから私の手を握ったままだ。



「これはなんだ?」



 私がつながれた手を指差すと、ミヤコはハッとした顔で私から手を離した。



「すみません、ターク様があんまり(うな)されていたので……」



 ミヤコが言うには、私は夜中中(よなかじゅう)ひどく(うな)されていたらしい。苦しむ私の手を、彼女はずっと握ってくれていたようだ。



「ターク様、いつもあんなに苦しんでいたんですか……?」



 少しショックを受けた様子のミヤコが、心配そうな顔で私を見ている。



「泣いたのか?」


「少し……。驚いてしまって……」


 ――なんだ……? 妙だな。



 彼女を泣かせたというのに、タツヤがなにも言ってこない。


 そもそも、昨日、私がミヤコを隣に寝かせた時点で、耳鳴りのひとつも起こさないのがすでにおかしい。


 タツヤの気配はするが妙に静かだ。


 私はのそのそとベッドのうえで身体を起こした。あんなに早く寝た割りには、まだかなり頭が重い。


 だが、ずっとまともに眠れていなかった私には、ずいぶん調子がよくなったように感じる。



「心配させたみたいですまないな。ここのところ眠るとあまりよくない夢を見てしまうんだ」


「かなりつらそうでしたよ」


「あぁ、だがお前のおかげで今日はほとんど覚えていない。助かったよ」



 彼女が嬉しそうに微笑んだのを見て、私はその頭をくしゃくしゃと()でた。


 少し顔を赤らめた彼女の姿が、私の心をジワジワと温めていく。



 ――やっぱり、ミヤコがいないとダメだ。タツヤではなく……私が彼女を必要としている。



 わかっていたようで、わからないふりをしてきた自分の感情が、タツヤが静かなことで、はっきりと浮き彫りになってしまっている。



 ――参ったな。



 ぼんやり考え込んでいる私を置いて、ベッドから抜け出したミヤコは、テキパキとカーテンを開きはじめた。



「ターク様、ずいぶん寝汗をかいてますから、お水を入れてきますね。あと風邪をひくといけないので、お着換え用意しますね」


「私は風邪は引かないぞ」


「そうでした」



 いそいそとベッドルームを飛び出したかと思うと、水と着替えを持って戻ってきた彼女。


 昨日のままの姿だというのに、そのまま働きはじめるつもりだろうか?



「ミヤコ、今日は休みにしていいから、自分の部屋で休むといい」


「ありがとうございます。でも私もたくさん寝たので平気ですよ? ターク様は今日、どうされるんですか?」


「そうだな……なん人か治療して回って、それからガルベル様に会いに行く。考えなおしてくれるように説得しなくてはな」


「私、ついていっていいですか?」



 ミヤコの唐突な申し出に、私がポカンと口を開けると、彼女は「私、ついていきます!」と言いなおした。



「あぁ……かまわないが、どうしたんだ?」


「私、ターク様をお手伝いしたいんです。ほら、私がいれば魔力も使い放題ですよ? 私、歌いますから!」



 そう言って、にっこりと私に微笑みかける彼女。開けた窓から差し込む朝日に照らされ、かなり眩しく見える。



「それはいいな。いろいろ(はかど)りそうだ。まだ早いから、ゆっくり準備してから行こう。お前も着替えてこい」


「はい!」


「どうせならドレスを着てこい」


「えぇ!?」



 顔を真っ赤にして眉をひそめた彼女だったが、しばらくすると、私のリクエストどおり、青いバラのドレスを着て戻ってきた。


 首元には私が先日贈ったネックレスが光り、団子に結われた髪には、タツヤに言われて買った髪飾りが挿されている。


 やはり彼女には、この色がよく似合う。



「歌姫って感じがしていいな」



 私はいつもの鎧を着こみ、大剣を背中に担ぐと、ミヤコを連れてメルローズの街に出かけた。



 悪夢に(うな)されるターク様の手を握ったまま寝てしまった宮子。その様子を見たターク様は、自分が宮子を必要としていることを実感したようです。


次回、ドレスを着こんだ宮子が街で歌を歌うと……!?


挿絵(By みてみん)

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[良い点] 達也は苦渋の決断をしたのか、ターク様と宮子を同衾させることを許しましたか。 そしてターク様も自分の感情に気づいてしまいましたか。 恋しているのかはあやふやですが、これはドロドロ展開の始まり…
[一言] とうとうターク様はみやこが必要だと実感してしまいましたね! 確かにそんな子が居てくれたら俺も嬉しいもんな笑 現実世界ではそんなにあまくないぞ! と思いながら楽しませていただきました٩(ˊᗜˋ…
[良い点] つ、ついにあの挿絵が見られるんでしょうか! Twitterできれいだなぁって思っていたのですが^_^ 遅くなりましたが100話の節目おめでとうございます。 これからも楽しみに読ませていただ…
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