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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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可愛い女の子の耳を触りたいのは当然


 お仕事がスムーズに進むというのは、ありがたい事だ。


 こちらの要望は、それが道理に適ったものであり、筋の通った依頼であるからなのはもちろんだが、全て通りそうだ。


 さらに遠慮なく追加の要望を述べろとまで言ってもらえるとは。


 しかし、公的な要望は既に述べた通り。

 ならばここは。


「では遠慮なく一つ」

「はい」



「耳触ってもいいですか?」



「……はい?」

 カトラルさんが、笑顔のまま首を傾げる。


「ええと……聞き間違い……? では……」

「ないです」


 私が断言すると、戸惑いながらも頷いてくれた。


「まあ……構いませんが……」

「ありがとうございます!」


 食い気味に答えて、気が変わらないうちにさっと距離を詰め、耳に手を伸ばす。


 いっぺん、獣人の人の耳を触ってみたかった。


 軽く一撫でし、先っぽをちょいと崩し、内側を覆うような毛のほわほわを指の腹で感じ。

 一通り堪能したところで、耳の付け根を親指と人差し指で軽く揉む。


「あの……マスター。魔獣師団の師団長と言えば、"第三軍"の中でも偉い方ですよ。分かってます?」

「当たり前じゃないリズ。だからきちんと許可を頂いたよ。レベッカの時に怒られたから」


「普通、お仕事中に偉い人の耳触りたいとか言い出さないんですよ」


「大丈夫。最高幹部だから許される」

「その最高幹部観は危険思想なので今すぐ捨てて下さいますか」


「分かった。それでは陛下宛に魔王軍最高幹部に関する規定変更の嘆願書を出そうか。もちろん正式な書式で」

「大人げないという言葉を体現していらっしゃいますね」


「ふふっ……」


 大人しく耳を触られていたカトラルさんが笑みを漏らす。

 そして慌てて口元を押さえた。


「あ……失礼しました。つい」


「いいえー。これでも自覚ありますので」

「自覚あるなら、そろそろ師団長様のお耳触るのやめたらどうですかね」


 にこやかな私と、冷めた目のリズ。


「はーい……」

「あ……」


 言われるがままに、カトラルさんの耳から手を離すと、彼女が一瞬名残惜しそうに手を伸ばした。


「……何したんですマスター」

「耳触らせてもらった……」


「失礼な事してないでしょうね」

「耳触るのがどの程度失礼かは分からないけど、リズが見てた以上の事はしてない」


 耳や尻尾に触るのが、求婚や、侮辱ではないぐらいは、あらかじめ調査済みだ。


 カトラルさんが、すまなさそうにリズと私のいつものやりとりに口を挟む。


「あ、いえ、その。大丈夫ですよ。恋愛感情とかではありませんので。マッサージ的な意味で気持ちよかっただけです」

「……どうしてそれを私に言うんです? ええ、初対面で芽生える恋愛感情があっても構いませんよ」



「じゃあ、可愛い暗殺者(アサシン)さんに一目惚れしてもいいんだよね。最近見る機会少ないけど、あの頃のリズの無表情な目も好きっていうか」



「あの頃の事は忘れて下さいって言ったじゃないですか!」


 リズがちょっと顔を赤くして叫ぶ。

 私はにこやかに答えた。


「それはちょっと難しいって言ったよね?」

「ちょっとなら努力して下さい!」


「黙っておこうと思ったけど言っておこうかな。私の故郷で『ちょっと難しい』は『無理です』の婉曲的表現なんだよ」


「ここはリストレアですからね! 現地の習慣に従うのがマスターの故郷の伝統だって聞きましたよ」


「ここはリストレアだって言っといて私の故郷の伝統に従わせようとは、中々リズも話の持って行き方が巧みだね」


「うっ、それは」


「でもいいよ。……私は、この国で生きていくって、決めたから」


 両手を伸ばして、リズの長い耳に触れた。


「ま、マスター?」


 そのまま軽く撫でて付け根まで指を持っていくと、軽く揉む。

「あ……マスター、マッサージ上手いですね……じゃなくて」


「やっぱりダークエルフも耳の付け根疲れるんだね。犬猫はよく聞くけど、やっぱりよく動かすからかな」

「人間は耳、動かないんですよね……じゃなくて」


「さてリズ。現地の習慣に従えという事だったね」

「……まあ」



「さて。私はリストレア魔王国、魔王軍最高幹部、"第六軍"軍団長、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"なんだけど?」



「わ、私は副官ですからね。最高幹部に意見具申する権利と義務を持ちます!」


「分かった。私は、部下の意見に真摯に耳を傾ける上官でありたいと思っている。正確に要望を述べなさい」


「まず、私の耳から手をお離しになって下さいますか?」


「これは部下と仲良くなるための一手段としてのスキンシップだが?」


 心底不思議そうに――わざとらしく――首を傾げて見せる。


「今は"第三軍"にお邪魔している最中で、お仕事中です! もう十分に仲は良いですし、そもそもこういうのはプライベートでやるべき」


 リズがそこまで言ったところで、はっと口をつぐむ。

 私は彼女の耳から手を離すと、微笑んだ。


「そういうとこも大好きだよ」


 余裕を奪うと、言うつもりでなかった事まで口走る所とか。



 そういう、嬉しい事を、言ってくれるのとか。




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― 新着の感想 ―
病毒の王ェ………w
[良い点] じっくりおさわりマスター。これが後々のラブアイテムへの発想の元かもなー。 リズの嫉妬は当然。マスターにとっては触ってよし、リズの可愛い嫉妬もよし、いいことずくめ。 [気になる点] レベッ…
[一言] 耳を触られて(マッサージ的な意味で)少し気持ちよかったと思ったら 目の前で濃厚なイチャつきを見せられてるカトラルさん……
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