表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病毒の王  作者: 水木あおい
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/577

未来のために


「……すまぬな。随分と、恥ずかしい話を聞かせた……」


 リストレア様が、言葉通り恥ずかしそうにはにかんで、顔を伏せる。


 その表情は、四百年を生きているとは思えない。

 上位悪魔(グレーターデーモン)であるとも思えないし……こんな顔を見せてくれるようなひと達が、滅びるべき種族だとも、思えない。


 それはきっと、人間も同じなのだろうけれど。

 それでも、どちらかが滅びなくてはこの戦争が終わらないというのならば、私が選ぶのは、私を助けてくれたひと達だ。


 恥ずかしそうにしている彼女を見ていると、私も胸の内を話したくなった。


「……そうですね。お返しにと言ってはなんですが、私の話も、聞いてくれます?」

「もちろん。喜んで聞こうではないか」


 彼女が力強く頷いてくれる。



「私はうちの副官の事が、恋人になってほしい的な意味で好きなんですけどね。この戦局では中々言い出せなくて」



 リストレア様が、目をぱちくりさせた。


「……すまぬ。そなたの副官とは……今隣の部屋にいる暗殺者(アサシン)……"薄暗がりの刃ダークリング・ブレード"の事か?」

「ええ」


「女同士であろう?」



「好き、という気持ちと性別に、何か関係が?」



 ふっ、とリストレア様が笑った。


「そうであったな……」

 彼女が、自分の胸に手を当てた。


「この気持ちを、信じよう。――応援しておる。公私ともに、な」


「はい。……私もです」

 差し出された手を、固く握った。




「それでは、これで失礼いたします」


 私はリズと共に、並んだ陛下と"旧きもの(オールド・ワン)"に一礼した。


「うむ、体には気をつけよ」


「はい、陛下。"旧きもの(オールド・ワン)"様。……『ご武運を』」


 いつもの悪魔(デーモン)姿に戻っている彼女に、私はにやりと笑った。


「……そなたもな」


「ええ。――我らの未来のために」

「ああ。――我らの未来のために」


 二人して、胸に手を当てる。


 "旧きもの(オールド・ワン)"が。リストレア様が。


 ――恋する乙女が、にやり、と笑った気がした。




「マスター。なんでこの短時間であの"旧きもの(オールド・ワン)"と仲良くなってるんですか?」


 帰りの馬車の中で、リズが私に信じられないものを見るような視線を向けてくる。


「共通の話題があってね」


「趣味とか……ですか?」

「まあそう言えなくもない」


 あの人の趣味は『陛下』な気がするけど。


 私は、リズを見ながら微笑んだ。


 リズはどの角度も可愛いし、どこも見ていたいが、特につい、長い笹の葉のようなエルフ耳のラインをすっと目で追ってしまう。


 この喜びを、この世界の人間が知っていれば、こんな馬鹿な戦争は起きていないだろうに。


「……なんですか? その慈愛に満ちた笑顔は」



「私は、リズの事が大好きだよ」



「……知ってますよ?」

「うん」


 実の所、彼女が私の言葉の意味をどれだけ正確に理解しているのか、私には分からない。


 私とリズが、恋人同士になるような未来があるのかも、分からない。

 この国でも異種族間の恋愛は珍しいし、女同士もまた正式に認められた関係ではない。


 まして私は人間で、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"だ。



 ――でも、戦うなら、そんな未来のために戦いたい。



 戦争に負ければ、この国自体がなくなる。

 戦争に勝つという事もまた、両軍の屍を積み上げるという事。


 けれどそれでも、戦う理由がある。



 私が見たいのは、人間以外の全ての種族が滅ぼされた未来などではないのだ。




 ちなみに後日リストレア様からお手紙が届き、『万事順調である。』との事。


 一応誰に見られるかも分からないので肝心な所はぼかされてはいるが、『陛下に改めて信頼しているとのお言葉を頂いた。魔王陛下万歳。』とも書いてあったので、陛下との仲が深まったとの解釈で、いいと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 順調でよかったw 熱々隠れカップル。 胸のうちを明かされた陛下はどんな顔したんでしょうね [気になる点] ん゛?『中々言い出せなくて』?? 言ってませんでした? 確かに匂わせや好きはある…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 主人公さんが告白しまくる、中々甘くて治癒な事ですね〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ