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病毒の王  作者: 水木あおい
3章

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地下の実験室で二人きり


 異世界の情報を欲しがっているのかという問いに、リズは首を横に振った。


「いえ、個人的な興味です。……担当は、妄言を聞かされる方の身にもなれ、と。さじを投げましたね」

「ははは」


 私は、リストレア魔王国では唯一の『異世界召喚』された人間だ。

 この国で魔法を研究する者は、理論上は出来るはず……程度の召喚術を、不用意に使用しない程度の良識を持っている。



 人間達は、そうではなかった。



 危険な種族を呼び寄せてしまうリスク、他の世界と繋がる際の不安定さからくる暴走のリスク、そういった危険を承知の上で――あるいは無視して――召喚術をテストし、かつそのまま『実戦使用』した。


 外来種問題が深刻な国から来た身としては、強制召喚にまつわる倫理面の問題を無視してさえ、正気を疑う。


 今の所、私の知る限り人間――と思われる種族――しか喚べていない。


 その使い方としてはまあ、素質や人格を無視して魔力タンクとして使うというのは、よく考えられている。


 なるべく潰すようにはしているのだが、最新魔法の研究をしている魔法使いともなれば花形で、詳細を把握しきれてはいない。


 ただガナルカン砦は、結果的には私の功績で、人間達の期待よりも少ない損害しか与えられず陥落した。


 その結果も受けて、召喚術は、戦争の局面を変える技術というほど優遇されている部門ではない――との報告なので、ひとまずは安心してもいいだろう。



 そしてリズは、信用を損ねない範囲で、私から可能な限り異世界の知識を聞き出すように、との命令を受けていた。



 この辺を何故私が知っているのかというと、リズにカマを掛けた結果だ。


 私があまり軍事や政治に詳しくないのもあるが、適当な情報を流し続けた結果、そのプランは打ち切られた。


 主にお仕事の合間の雑談として、私が面白おかしく脚色したしょうもない内容を聞かされたのでは、仕方ない。


 きつめの尋問や、精神魔法を使って無理矢理、というパターンもきっと考慮されたのだろうが、陛下は私をそのまま使った方がよいとお考えになられたようだ。


 人道的な常識を持った合理主義者、というのが私の陛下への評価だが、それゆえに、私の価値がリスクを超えない限り大切にしてもらえるはずだ。



 少なくとも、それまでは精一杯面白おかしく生きると決めている。



「それで、マスターの世界、眼鏡が普及してるんですか?」


 今もリズが私の世界の話を聞きたがるのは、本人の言葉を信じるなら、興味本位だそうだ。


「うん。魔法がないからね。目の悪い人は普通に使うよ。ファッションとして掛ける場合もあるけど」


「ファッション?」

「眼鏡が?」



「ほら、眼鏡を掛けた女の子って賢そうで可愛いよね!」



「発言は頭悪そうですが」

「まあ賢そうというか、製作特化の魔法使いには見える……」


「他に、コンタクトレンズってのもあってね」


「こんたくとれんず?」

「どういうものだ? 眼鏡の一種なのか?」


「そう。薄くて丸い……眼球に沿う形のレンズを、こう、目にはめるの」

 コンタクトレンズをはめる動作を実演してみせる。


「……え? 眼球に? はめる?」


 リズが眉をひそめた。

 レベッカも首を傾げる。


「それはどういう原理だ?」


「……原理っていうか……普通にこう……いや、私は使った事ないからよく分からないけど……涙で乗っかる? はず」


 涙の表面張力、と聞いた事がある。


「ふむ……。眼球に? 装備? そうかその手があったか……」


「レベッカ?」



「すまないマスター。コンタクトレンズというものをしばらくじっくりと教えてくれ。私の実験室で」



「え? レベッカと二人きり? 実験室って地下室だよね。暗い密室で二人きりって、それはもう恋の実験をしちゃうしか」


「リズ。すまないが通訳兼護衛として来てくれるか」


「申し訳ありませんが食事の支度があるので……マスター、真面目にして下さいね、真面目に。でないとマスターだけ晩ご飯抜きですよ」


「え、そんな。うちのメイドさんが非道の悪鬼すぎる」


「そう呼ばれてるのはマスターですよね。……真面目にすればいいだけですよ」


 リズにじっとりとした視線を向けられる。


「分かったよ。ご飯よろしくね」




「では頼む」

 その後、光を嫌う素材のために薄暗いのだという地下の実験室で、みっちりとコンタクトレンズについて語る私。


 大体のサイズ、形状、ソフトタイプにハードタイプ、使い捨てタイプ、洗浄液、うっかり落とした時に生まれるささやかな交流、花粉症の際に訪れると聞く地獄、砂嵐とコンタクトレンズの絶対的な断絶……などなど。


 レベッカは、質問を挟みながら、何事か手元の紙に羽根ペンで、忙しそうに走り書きしていた。

 私は話している間、彼女が書いている間、レベッカの眼鏡ルックを鑑賞するのに忙しかった。




「お二人とも。そろそろ夕食、どうですか?」


「あ……すまない。もうそんな時間か」

「いいよ。お腹は減ったけど、リズのご飯を美味しく食べるスパイスだよね」


「前向きだな。……大体、重要な事は聞いただろうか?」

「多分」


「では、これで終わろう。ありがとう、マスター」


 そこで、ふと思い出したように眼鏡を外すレベッカ。ちょっと残念。

 でも素顔も可愛いなあ。


「何を笑っている?」

「ちょっとね」


「……深くは聞かない事にするよ」


 レベッカが外した眼鏡を畳み、眼鏡ケースにしまう。

 異世界でもやっぱり眼鏡ケースってあるんだな、とふと。


 それにしても、レベッカはコンタクトレンズのどこに食いついたのだろう?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報に潜む危険を知っているマスター。 うっかり話したことがどんな結果をもたらすかわからないのでかなり情報を絞ってるようですね。 大丈夫と判断した情報がかなりアレのようで妄言扱いされていま…
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! 引き続き楽しみにしています〜
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