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第10話 寛解への道(7) ~皇都ウォーキング?~

 城の門を出たところで、ラパツィンスキ様は「お嬢様。お手を……」と言うと手を差し出してきた。


 私は何も考えずにごく自然に手を取ったのだが……。


 あれっ?


 ラパツィンスキ様はそのまま手を離してくれない。


 これではラブラブな恋人カップルのようではないか……。

 意識してしまった私は、顔が真っ赤になり、背筋の神経が少しぞくっとした。ずいぶんと改善はしたが、緊張するとまだ少し背筋がぞくっとするのだ。


「あのう……アマンドゥス……」


 ラパツィンスキ様は困り顔で(つな)いだままの手を見つめる私の視線に気付いて言った。


「万が一にも人ごみに紛れてお嬢様とはぐれるようなことがあってはなりませんから、町を歩いている間は、失礼ながら手を繋がせていただきます」


 う~ん。確かに箱入り娘の私が町で一人きりになってしまったら途方に暮れてしまうだろう。これは正論だ。


「わかりました……」


 仕方がなく、私は引き下がった。


 ──でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!


 後ろを歩くロタールの生暖かい視線が感じられ、それが恥ずかしさを一層助長する。


 皇城の門を出たところは、貴族向けの高級店が立ち並んでいるが、この辺りはあまり興味がないのでスルーする。


「アマンドゥス。私、庶民街の方に行ってみたいの」

「わかっておりますよ。お嬢様」


 庶民街に着くと人出が多くなってきた。


「はぐれるといけないので手をしっかり繋ぎましょうね」


 ラパツィンスキ様は繋いでいる手の指を絡めてきた。

 これって、いわゆる恋人繋ぎってやつでは!?


 顔を赤くしながらラパツィンスキ様の様子を上目遣いで(うかが)うと全く平然とした様子だ。

 別に意識はしていないのかな……。


 ちょっと寂しい気もしたが、もし照れていたら、いつもクールなラパツィンスキ様らしくない気もする。

 まあいいや。ここは気持ちを切り替えて町の様子を楽しもう。


 少し進むとお洒落(しゃれ)そうな服飾店を見つけた。

 ラパツィンスキ様が察してくれ、声をかけてくれる。


「気になるならご覧になってみますか。ワンダから十分な軍資金を預かっていますので、好きなものがあればお買いになっても結構ですよ」

「そうね。お忍び用の服ももう少し欲しいし。見てみようかしら」


 入ってみると、「いらっしゃいませ」と女性店員が寄ってきた。見るからに金持ちそうなカモがやってきたと思われたのだろう。


「お嬢様ですと、こんな服はいかがでしょうか」と次々と勧めてくる。

 庶民用の服ってよくわからないけれど、それなりに工夫されたデザインのものばかりで迷ってしまう。


「これなんかいいんじゃないですか?」とラパツィンスキ様が言ったのは、中でも一番気になっていたワンピースだった。


 相変わらず察しがいい。私の心が読めるのかしら……。

 それとも趣味が合うってことなのかな? そうだとうれしい。


「どうぞお召しになってみてください」と店員が勧めるので、着てみることにする。


 更衣室で着てみると、案の定背中のボタンが留められない。

 いつもメイドにやってもらっているからな……。


 そこは女性店員に手伝ってもらったが、本物の箱入り娘と思われたに違いない。


 着替え終わったので、ラパツィンスキ様に見てもらう。


「どうかしら?」

「似合っていると思いますよ」


「でも、ちょっとスカート丈が短くないかしら?」


 7分丈で生足のふくらはぎが見えてしまっている。

 私が持っているスカートはすべて10分丈のロングスカートなので、初めての体験だった。


「あら。お嬢さま。最近の若い娘の間ではこのくらい普通ですよ。もっと短いのを履いている娘もいるくらいです」

「そ、そうなのね……」


「もし恥ずかしいようでしたら、ストッキングを履かれてはいかがですか?」

「そうね。それがいいかもしれないわ」


 結局、成り行きでストッキングの他にも、これを止めるガーターベルトとそれに合わせた下着も買わされてしまった。

 下着は思っていたものよりもセクシーなデザインで少し恥ずかしかったが、女性店員に「万が一、彼氏さんに見られる事態になったら、あまりお子様なものは恥ずかしいですよ」と(ささや)かれ、逆らえなかった。


 冷静になってみて、(万が一の事態って何よ!)と突っ込みを入れたくなったが、それも絶対にないとは言えないというか、ちょっとだけ期待する自分もいたりする。


 さらに、女性店員には「お貴族様のご令嬢なんかは、もっと凄い下着を着けていますよ」と教えられ、自分のお子様加減を思い知ることになった。

 今度、ワンダに相談してみようかなあ……。


 それから服飾店を出て、面白そうなお店を見て回っているとお昼時になった。


「そろそろ昼時なので、昼食にしましょうか。私が予約しておいた店がありますので、そこにいきましょう」

「どんなお店なの?」


「それは行ってみてからのお楽しみです」

「えーっ。意地悪っ」

 私は頬を膨らませて見せた。


「そういう顔もお可愛いですよ。お嬢様」と言うとラパツィンスキ様は微笑(ほほえ)んだ。


「もう。揶揄(からか)わないでよ」

 私は、恥ずかしくて赤くなってしまう。


 ああ。気がつけば、いつの間にかラパツィンスキ様とため口をきく仲になっている。それに感情の起伏も豊かになったような……。

 以前の私は、おとなし過ぎてつまらない女だったような気がするのは気のせいだろうか……。


 お店に着くと結構な行列ができていたが、ラパツィンスキ様は構わずお店に入っていく。

 すると予約してあった個室に案内された。


 部屋に置かれたテーブルの中央には鉄板が置かれている。


「これは?」

「この鉄板で野菜と肉を焼きながら皆で取り分けて食べるんですよ」


「へえ。楽しそう……」


 宮中では基本的に一人ずつに取り分けたコース料理しか出ないので、こういうことは初めての体験だ。


「お肉は何の肉なの?」

「マトンですね」


「マトンってなんだっけ?」

「ラム肉は宮中でも食べた事があるでしょう。あれは子羊の肉で、マトンは大人の羊の肉です。子羊よりは癖がありますが、慣れると美味しいですよ」


 店の人が炭に火を入れてくれて準備ができたので、鉄板に油を引き、野菜を入れて蓋をして蒸らす。

 野菜が少ししんなりしたら真ん中を開けて、肉を入れ、タレを野菜にかけて蓋をして蒸らし、混ぜたら完成だ。


 ラパツィンスキ様は作り慣れているようだった。


「アマンドゥスはこういうところはよく来るの?」

「我が家は伯爵家といっても一代貴族ですからね。もともと庶民的な家で、こういうところにもよく来るんです」


 その後、ロタールも一緒に3人でワイワイと美味しくいただいた。


 その後も庶民街を散策して歩く。

 雑然としているけれど、活気があって面白い。


 しばらく歩くと、甘くていい匂いが漂ってきた。


「何の匂いかしら?」

「あそこで、パン屋が露店を出して作りたてのラスクを売っているようですね。食べてみますか?」


「ええ。お願いするわ」


 そしてラパツィンスキ様がラスクを買っている間、露店のお手伝いをしていた10歳くらいの女の子が私のところにやって来て、囁いた。


「お姉さんの彼氏さんカッコいいね。お似合いだよ」


 ええっ! 彼氏さんって……。

 突然のことにドギマギしてしまう私。


 客観的に見て、やっぱり私たちって恋人どうしに見えるのかな?

 嬉しいような……恥ずかしいような……。


 それからはおとなしく皇城へ戻った。

 さすがに初日で私の疲れが出てしまったので……。


 城の部屋に着くなり、はしたないと思いながらもベッドにダイブしてしまった。

 ああ。疲れた……。


 相当歩いたからな。

 でも、嫌な疲れじゃない……。


 すると侍女のワンダに苦情を言われた。

「まあまあ姫殿下。お召し物くらいお着替えになさってください」

「わかったわ」


 ワンダに手伝ってもらって、いつもの部屋着に着替える。


 そしてワンダに思いがけないことを聞かれた。


「いかがでしたか? 今日のデートは?」

「デート? 今日はウォーキングで皇都まで遠出しただけだけど……」


「でも、いろいろなされたのでしょう?」

「それは、いろいろなお店を見て回って、お洋服を買ったり、昼食を食べたりはしたけど……」


「やはり、それはもはやデートと言うのでは?」

「いや。でも、ロタールもいたし……」


「ロタールはいつもどおり空気に徹していたのでしょう?」

「それは……そうなのだけれど……」


 ふいに露店の少女に言われた言葉が脳裏に蘇る。

 やっぱり第三者から見たら、私たちって恋人どうしで、今日のはデートにみえるのかな……。


 意識してしまうと、また恥ずかしくなってきた。


 ど、どうしよう……。

 今日もラパツィンスキ様がお風呂のお湯張りに来てくれるのよね。


 そして……。

 疲れているだけに、今日のマッサージは一段と効きそうだ。

 また、あの声をあげてしまうのだろうか……。

お読みいただきありがとうございます。


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