48、いざ、初めてのダンジョンへ
「すみません。私はまだジェイド(翡翠)級なので、エクスはその点を心配してくれているのだと思います」
「あら、アナタジェイド級なの?」
「はい、少し前に冒険者登録したばかりなので。その時に魔の山の魔獣と遭遇してしまいまして、一時期魔物との対峙に恐怖を抱いていたからだと思います」
今までの経緯を軽く説明する。
マルセルさんに話しながら感じていたけれど、白いクマの時に恐怖は克服できたような気がする。それ以上の存在……真っ黒なローブに中折れ帽を被っていた男の方が、むしろ黒いライオンと白いクマよりも脅威を感じた。
あの存在以上のモノが出てきたら……うん、怖い。けれど、言ってしまえば、あの男以上の魔獣は滅多にお目に掛かれないと思うのだ。
そんな話をしたところ、マルセルさんも顎に手を当てて悩み始めていた。
「うーん、それは無理しないで欲しいわね。それじゃあ、エクスちゃん。一応入手して欲しい素材の紙は渡しておくから、手に入れることができそうだったらお願いできる?」
「まあ、それなら。最悪俺一人で取りに行っても良い」
予想外の言葉を告げるエクスに、私は目を丸くした。
「あれ、意外。エクスはあまり興味がないのかと思ってた」
先ほども乗り気でないから口を濁したのではないかと思っていたけれど、案外関心はあったようだ。エクスもことのほか、ファッションに興味があるのかもしれない。
実は私は気が付かなかったけれど……エクスが見ていた先に、私の服が描かれていたデザイン画があった。そしてマルセルさんがエスクの視線に気がついたのか……一旦手を止めて、改めて私たちに絵を見せてくれた。
「こっちがマリちゃんで、こっちがエクスちゃんの絵よ」
描かれている絵は、今着ている服よりも確かに動きやすそうなものだった。それだけでなく、可愛い。エクスの服にも目を通すと、あるひとつの服に私の目は惹かれた。
「あ、これエクスに似合いそう!」
軍服を模したような服装……まるで騎士のように格好いいではないか! 黒髪のエクスには似合うだろうな、と頭の中で服を着た彼を想像してみる。
「うふふ、どれになるかは楽しみにしててね!」
「はい! 頑張ります!」
満面の笑みを浮かべる私とマルセルさん。それを見ていたエクスの頬が少し赤くなっていたのだけれど、気がついたのはニアちゃんだけだった。
翌日。
許可証を得た私たちは、 【ラクリス】のダンジョンの前に辿り着く。目の前には大きな洞窟のような穴がある。そこは階段になっており、エクス曰く降りた最初の層が一階層なのだという。
【ラクリス】のダンジョンは地下五十階層まであるのではないか、と言われている。一階層から五階層までは草原エリアなのだとか。
やはり王国最大のダンジョンだからだろうか。私たちが止まってダンジョンを見ている間も、多くの冒険者チームが階段へと進んでいく。その中には熟練者チームと思われる者たちもいれば、新人なのかワイワイと楽しそうに話しているチームもいる。
私は後者のような気がする。日本ではR P G系が好きだったのだ。まさか本当に自分がダンジョンへと足を踏み入れるなんて……!
「マリ、そろそろ行くか」
「うん、行こう!」
私ははやる気持ちを抑えながら、エクスと共に階段へと向かっていった。
階段を降りると、そこは草原だった。
所々に木が生えていたりするが、大部分が見通しの良い広場のような場所である。そして何より驚いたのは、空があることだ。ダンジョンは洞窟の中であるにもかかわらず、天井には青空が広がっている。不思議な空間だ。
遠くを見てみると、冒険者と魔物らしきものが戦っていた。
この草原エリアに出現する魔物は、RPGでお馴染みのゴブリン、スライムなどもそうだが、アリのような姿をした魔物、てんとう虫に似ているような魔物、姿はカマキリ、でも二足歩行の魔物などがいる。
日本でも草っ原で捕れる昆虫に似た魔物が現れるようだ。大きさは日本のソレの何十倍もあるけれど。
エクスと共にダンジョン内を歩いていく。今回一階層では私が一人で魔物を倒すということになっている。まあ、私の訓練であるということもあるが……エクスは過去に三十階層辺りまでは制覇していると言うのだから、一階層なんて余裕だろう。
そして五分ほどしたところで、第一魔物を発見したのである。
それは棍棒を持ったゴブリンだった。五匹ほどの集団で行動する彼らは、私たちを見つけるとすぐに棍棒を振り上げて襲ってくる。
私はこちらに走ってくるゴブリンたちを見ながら、風で切り裂くイメージを頭に浮かべる。そう、見えない風の刃がゴブリンに襲いかかる想像だ。
「鎌鼬」
エクス曰く、多くの魔法使いは詠唱をしているそうだ。私は無詠唱でも魔法を発動できるのだけれど、現在色々と隠している身ではあるので、人の多いダンジョンでは詠唱を使うことにしている。
幸いよくある長い詠唱ではなく、短くても問題がないのはありがたかった。確かに詠唱を使用することで、魔法の発動時間が短くなっているような気もする。
目に見えない風……かまいたちがゴブリンたちを襲う。全てのゴブリンに攻撃が当たったようで、ゴブリンたちの肉がまるで切れ味の良い包丁で斬られたかのように細かく裁断されていく。
血が噴き出る様子を細目で見る。幸い気持ち悪くなることはなかったので、このままダンジョンで戦っても問題なさそうだ。
肉片になったゴブリンたちは、身体が光になって消えていく。どうやらゴブリンの死骸は魔力となり、ダンジョンに吸収されている……ようだ。身体が消えると肉片が落ちていた部分が光り、そこに何かが落ちていた。
拾い上げると、牙のような何かだ。
「エクス、これ何?」
「ああ、それはゴブリンの歯だろうな。地上と違って、解体しなくても素材を落とすんだ」
歯を見ながら便利な仕組みだなぁ、と思う。
つまりゲームのドロップ品というやつか。ああ、冒険者が倒した魔物の魔力が循環して、また新たな魔物を生み出しているような感じなのかな。
「ダンジョンでは、これが討伐証明になる。そして今回は歯が出たけれど、落ちる素材は何種類かある」
「そうなんだ、ランダム……何が落ちるかはその時の運、ってことかしら?」
「ああ、そうだ」
ゲームでもそうだった、と納得していた私にエクスが教えてくれた。
やはり強い魔物になるほど、良い物を落とすのだとか。これもゲームと似たような感じなのね、と思う。けれどもゲームと違うのは、リトライできないところである。そこは気をつけなければならない。
「力試しに他の魔物も倒してみたいわ」
「それなら、あっちへ行くと他の魔物がいると思う」
エクスの案内で、私は一階層の探索を続けたのだった。




