46、苦労しているのね……
ガリオンさんの宿に宿泊した私たちは、翌日ギルドへと来ていた。
ちなみにガリオンさんの商会の名前は、ガリオネア商会というらしい。エクス曰く、現在はこの街だけでなく、王都や他の領地にも進出している大規模な商会なのだとか。
宿の隣にはガリオネア商会が併設されているため、宿に泊まった冒険者が商会で買い物をしていく……そんなサイクルができていそうだ。きっと売り上げも上々なんじゃないかな、と思った。
ギルドに入ると、ラクリスのギルドはガルムのそれとはまた違っていた。ガルムは宿と食堂が併設されていたので、建物自体が非常に広いイメージだった。ただ、こちらのラクリスのギルドは、掲示板と二階に待合室があるくらいで、ガルムの半分もないくらいの大きさだった。
ラクリスの街は、ラクロワ領の中でも有数の街。宿屋や食事処が非常に充実しているため、ギルド側が宿を併設しなくても人が集まるようだ。
少し時間を遅めにずらしたからか、朝ほどの賑わいはないようだ。エクス曰く、昔は掲示板が人で隠れて見えないほど、混んでいたらしい。ガリオンさんも同意していたので、混雑時は今でもそうなのだろう。
エクスと二人で掲示板を見る。
すると、常設依頼なのか薬草の依頼が幾つか出ていた。私たちはその中から二枚ほど依頼表を取り、受付へ持っていく。
ふたつの場所が近いようなので、一緒に受けた方が楽だろうとエクスの言葉だ。
私が依頼表を提出すると、感じの良いギルド嬢が私を見てニコリと微笑んでくれた。
「こちらとこちらの依頼ですね。承知いたしました。冒険者カードを見せていただけますでしょうか?」
「お願いします」
私とエクスがカードを出す。最初に私のカードを受け取ったギルド嬢は、依頼表ともう一枚の紙に私の名前を書き込んでいく。そしてランクのジェイド(翡翠)級も。
その後何気なく裏を見た彼女は、一瞬目を剥いていた。その様子に心配になった私は、エクスの方へ顔を向けるが彼は肩をすくめるだけだ。
「あ、ありがとうございます」
ギルド嬢さんにお礼を言われて我に返った私は、カードを受け取った。そしてもう一人……エクスのカードを手に取った彼女の口から、「え」という声が漏れる。
いや、そうだよね。普通サファイア(蒼玉)級の冒険者がさ、ランクの低い冒険者用の薬草取りになんて行かないよね。
うん、分かる、分かると思いながら一人で頷いていると、エクスが隣でボソッと呟いた。
「いや、マリの進級速度にも驚いてたからな?」
「え?」
エクスに顔を向ける。進級速度? 何だそれ? そんな思いが顔に出ていたのか、エクスが笑って話した。
「いや、だって普通ジェイド(翡翠)級になるには、早くても一年は掛かるからな? 一週間で昇級ってあり得ないからな?」
「え、そんなこと言ってなかったじゃん」
「言ったら、『じゃあ、まだアンバー(琥珀)級で良いです』とか言うだろう?」
エクスに指摘されて、思わず言葉に詰まった。ちなみに一週間の昇級は、ガルムの街で一番早いという。その事実に私は驚愕した。
「えー! そんなぁ……目立ちたくないのに……」
「いや、充分目立つと思うが……」
ガックリと肩を落とす私。そして面白そうに笑うエクス。
――その二人を間近で見ていたギルド嬢はこう思っていた。
いや、なんか張り合っているけど、二人とも規格外だからね……?
そしてそんな二人を遠くで見ていた人が一人。
彼は二人の様子に目を奪われた後、誰にも聞こえない声で「エクス……」と呟いていた。
昨日とは反対側の門から出た私たちは、何事もなく薬草の採取を終える。
ガルムのように、また魔獣が降りてくるのでは……と思ったけれども、このラクリスの街にはほぼ魔獣がいないらしい。
その理由はダンジョンがあるからではないかと言われているそうだが、エクスも何故かまでは知らないとのことだった。
念の為……常に探索魔法を掛けて採取に取り組んでいたけれど、大物の気配は全くない。たまに小型の魔物らしいものが探知に引っかかったりはしたが、すぐに範囲外へ消えていった。
採取を終えて、門をくぐる。
さて、あとは納品するだけだ。大通りを歩いてギルドへと向かう。この大通りには店がずらりと並んでいて、特に服飾屋や武器、防具屋などが立ち並んでいる。
後でお店を見にくるのも良いかもしれない、そんなことを思いながら周囲を見回していると、ふと右肩を叩かれる。
「なに? エクス。どこか寄る?」
そう言って右を見るけれど……エクスの姿はない。
「マリ、俺はこっちにいるが」
声が聞こえたのは左側だ。え、じゃあ誰が私の肩を叩いたんだろう……と考える前に、「ねえ」と声を掛けられた。
「ちょっとアナタ、こっちに来て? あ、そこの坊ちゃんも」
「「えっ(はっ)?」」
何が起きたのか全く理解できないまま、私たちは腕を引っ張られて男性らしき人に引きずられていく。そして真横にあった店……多分服屋のようだが、そこの扉へと入っていった。
「いきなりごめんなさいね? アタシ、このお店……『メゾン・ド・マルセ』の店長をしているマルセルよ。よろしくねぇ〜」
連れてこられたのは、彼のお店だった。椅子に座らされた私たちは、目の前でニコニコと微笑んでいるマルセルさんを呆然と見ている。まだ二人とも正気が戻っていないようだ。
最初に我に返ったのは、エクスだった。
「いや、ちょっと待て。何で俺らはここに連れてこられたんだ?」
もっともな疑問である。エクスの言葉に自分を取り戻した私も、彼を応援するかのように首を思い切り縦に何度も振った。
目の前の男性を改めてよく見ると、首の後ろあたりで髪をひとつに結んでいる。筋肉質、と言うよりはスラッとした細身の体型。ただ腕を見る限り、筋肉はありそうなので……多分エクスと同じ細マッチョタイプか。
私がじっと見ていたことにマルセルさんは気がついたのか、ニッコリと笑いかけてきた。
「ああ、ごめんなさいね? アナタたち、とても良いと思って」
「……良い?」
何がと訊ねる前に、後ろから半分叫んでいるような声が上がった。
「て、て、て、てんちょーーー!! まーた、人を攫ってきたんですかぁ?!」
「あら、攫ってきたなんて失礼ね。たまたま店の前を通っていた美男美女がいたから、連れてきただけじゃない」
「いや、完全に許可を得てない連行だったけどな……」
エクスの呟きが大きなメガネをかけている彼女に聞こえてしまったらしい。彼女はマルセルさんの後ろで思いっきり頭を下げた。
「うちの店長がすみません!! この人、気に入った人を見つけると、このお店に拉致してくるんです!!」
「ちゃんと声はかけてるわよ?」
「店長は強引すぎなんですよっ!」
ふたつのおさげを揺らして謝罪する彼女。ああ、いつもこんな感じで苦労しているのかな、なんて思う。隣のエクスを見ると、どうやら同じことを考えているらしく、彼女を見る目には同情の眼差しがこもっている。
私は立ち上がって、何度も謝っている彼女に声を掛けた。
「もう謝らないでください。私たちは大丈夫ですから」
「むしろ謝罪をするのは、この店長だと思うが」
「あら〜、坊ちゃん。手厳しいわね? 先ほど謝罪したから許してほしいわ」
ほほほと笑うマルセルさんのペースに呑まれているエクスは、疲れからかガックリと肩を落とした。
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