【エロ動画鑑賞会①(Erotic video viewing party)】
市役所を占拠していた奴等が待ち望んでいた応援は、イルピンに向かう30号線、373号線、1002号線、1011号線の4カ所に設けられた軍の検問にそれぞれ引っ掛かり、総勢70人余りの武器を所有した過激派を捕らえることに成功した。
「いやぁ、今日だけで100人以上の過激派を捕えることが出来ました。おまけに、あんなことまでして頂いて、なんとお礼を言えばいいか。とにかく感謝いたします」
司令部を訪れていたレーシ中佐とコヴァレンコ警部が丁寧に礼を言って帰った。
今頃食事を終えて、夜のニュースで自分たちの活躍を楽しみにしている隊員たちには申し訳ないが、撮影された映像はニルスに頼んで編集して我々の活躍を省いてキエフ警察によって市役所は解放された事にしてある。
「いいのか、それで」
2人が帰った後、ハンスがデスクに肘をついて言った。
「私は、それでいいと思っています。元々我々はウクライナの平和のためにお手伝いをしに来たのですし、キエフ警察が奴等を引き付けていてくれたからこそ良い結果が出たのは確かです。それに自国の警察や軍も活躍したとなれば、国民の意識も多いに変わり、今後よりやり易くなるのは必至です。もっともハンス少佐が駄目だと言われれば、指示には従いますが」
「駄目だとは言わないが、G-LéMATの実力を世界にアピールするには、いい機会だったとは思ったのだが」
「フランス軍には、海軍の陸戦部隊HubertやGCMC。陸軍には第1海兵歩兵落下傘連隊(1er RPIMa)をはじめ、第13竜騎兵落下傘連隊(13 RDP)、第11落下傘旅団(11e BP)。国家憲兵隊治安介入部隊 GIGNなど特殊部隊も多く、その幾つもの部隊が今このウクライナでの治安維持活動で華々しい成果を上げているじゃないか」
「その中でも、この40人の敵に対して誰一人として犠牲者を出さず、敵も殺さなかったのは特筆する成果だと思うのだが違うか?」
「そこはハンスに認めてもらって私は嬉しいです」
「俺に認められるだけで満足なのか?」
「元々特殊部隊の精鋭ともなれば、自らの名前も顔も明かさないから、それで充分じゃないですか?」
「相変わらず欲がないな、お前は」
「私は、欲のために銃を持っているのではない」
「そう言うと思ったよ」
「面倒で嫌になりましたか?」
「いや、増々好きになった」
「馬鹿!」
私は赤くなった顔を見られたくなかったので、そこでハンスに背を向けて部屋を出て皆が居るはずのサロンへと向かった。
サロンではG-LéMATが、夜のニュースを楽しみにして集まっていたのに気が引ける。
けれども、そこはチャンと受け止めなくてはならない。
もちろん私に賛同してビデオの撮影や編集をしてくれたニルス中尉の姿は、ここにはないはず。
ところがサロンに近づくと、何だか中の雰囲気が思っていたのと違い、妙に賑やかで楽しそう。
“一体何??”
もし私が入って行くことで、この楽しそうな雰囲気が壊れたらと思い躊躇っていた。
「おおっ!トーニ、ナイス!!」
「ブラームも結構カメラのセンスあるな」
「カール!!オメー、ガン見じゃねえか!」
「普通の反応だ」
「チクショウ、上手いことやりやがって」
「おいこりゃあまたエロいな!」
「“さらし”ってヤツだろ!?」
何か分からないが“さらし”と言う言葉を聞いて、“もしかしたら”って思った。
もしかしたら今日の現場で私が服を脱いだり、胸に“さらし”を巻いたりしたことを話しているのでないかと思い、それを止めるためにサロンの中に入った。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~っ!!!!!!」
「ストップ!ストップ!」
中に入った途端、一際大きな歓声が上がった。
“私を待っていたの??”
一瞬、そう自惚れてしまうが、それは違う。
だいいち誰一人として、私の方を向いていない。
皆の視線は横にある大型の壁掛けテレビに釘付け。
“いったい、何?”
私の位置からはテレビが見えなかったので、回り込んでテレビの前に進み仰ぎ見て驚いた。
なんと大型のテレビに映し出されているのは、解け掛けた“さらし”を巻いている胸ののアップ。
この胸は、私の胸だ。
画像は各自の胸に付けられたカメラが撮影したもの。
モンタナが「切れ、切れ」と囁き、テレビの画面が消えて黒くなる。
しかし残像現象で、私の胸の映像は画面から直ぐに消えない。
画面が消されたまま、急に静まり返っているサロン。
「はあ……」
時計の針がカチコチと響くサロンに、思わず私は溜め息を漏らす。
踵を返し来た道を戻ろうとすると、皆が一斉に席を離れる音が聞こえ、一瞬のうちに私の前に土下座の列が並んだ。
“遊びではない。だけど……”
「好い目の抱擁になったか」
「……」
誰も何も答えない。
ただただ静まり返るサロン。
今日の皆の頑張っている姿を知っているから、怒りたくはない。
40人の敵を1人も殺すことなく、やむを得ず銃で傷つけてしまった物も、たったの4人。
しかも銃を持っている奴等には、1度も自分たちは勿論、人質にも発砲させていない。
敵が撃ったのは、囮に使用した車両とドローンのみ。
完璧な成果。
そこまでしながら、ウクライナ自立のために私は皆の手柄を取り上げてしまった。
なのに不平不満も言わずに、こうしてこんな映像で気を紛らわせてくれている彼らに、どうして怒ることができようか……。
こんなとき、エマならどう言って皆に元気を与えるだろう?
肝心のエマは、国防省に行って留守。
でも、私はエマではない。
目を閉じて深呼吸をした。
「どうだ、最近なかなか女っぽくなっただろう?」
「えっ!?」
私の言葉に、皆が驚いて顔を上げた。
「映ってしまったモノは仕方がないが、我々は盗撮を楽しむ部隊ではない。最近ではスポーツ観戦で女子選手をエロ画像目的で撮影するのも禁じられているから、以後注意してくれ。今日は皆、本当に良くやってくれた。記録画像は速やかにニルス中尉に提出し、今見た映像は私からのプレゼントだと思い、心に閉まっていてくれれば有り難い。さあ、皆席について今日の勝利を祝って酒でも酌み交わそうじゃないか」
「お、怒らないのか?」
主犯格のカールとトーニが、土下座したまま私の顔を見上げる。
「怒るものか。逆に抱きしめたいくらいだ」
「す、すまねえ!」
「ほ、本当か」
床に額を擦り付けて謝るカールに対して、トーニの方は顔を上げたまま真意を聞いてきたのでニッコリ微笑んで答えてやった。
「嘘だ」と。
そして、ひとりひとりの手を取り、立ち上がらせてから一緒に席に付き酒宴を始めた。




