【立て籠もり犯との対決①(Confrontation with a standing-up criminal)】
5月8日晴天。
その日の9時過激派組織はキエフ北西20㎞にあるブチャの街に現れた。
奴等は市役所を占拠し、現地の警官10数名を死傷させ立てこもっている。
人数は40名ほど。
占拠した市役所ではウクライナ国旗が降ろされ、分離独立派の旗が掲げられている。
武器はAKM自動小銃にRPGと手りゅう弾、数名だがT-5000を持った狙撃兵も居るため警官隊も容易には近づけない状況。
「なんで、こんなにキエフに近い街で!」
「ウクライナ軍と警察の検問体制は、どうなっているんだ!?」
司令部から副官のルーカス大尉とスウェン少尉の声が聞こえた。
無理もない、部隊では現在マリーンにアマリ―ジャ少尉の空挺1個小隊を出動させ、その応援に中隊長のダニエル中尉が中隊本部を率いて出動したばかり。
残っているのはナダル中尉の1個小隊とLéMAT、それに基地要員を合わせても150人にも満たない。
敵が40人ほども居るとなれば、こちらも最低でも1個小隊以上は出さなくてはならず、そうなれば基地の守備が手薄になりかねない。
「おそらく今回の敵は、内部に溜まっていた膿ね」
「膿!?」
エマの発言にルーカス大尉が反応した。
「そう。軍と警察による厳重な検問で、外部から武器を持ち込むのはとても難しい状態が続いているわ。でも検問の多くは外から内に向けて行われ、内から外に関しては結構緩い。だから、彼らは外から入ったのではなくキエフの街から外に出ようとしたのではないでしょうか?」
「しかし外に出るにしても、ブチャの街で立て籠もりは、意味が薄い気がしますが」
「あら、そう?1個小隊の戦力で立て籠もられたら、こちらも相応の戦力を投入することになるでしょう?そうなれば、この基地は手薄になる」
「たしかに僕もそう思います。ブチャで蜂起させれば我々の部隊が出動することになりますから、その隙を狙って我々の基地を襲撃するための陽動作戦と言うことも考えられますが、基地兵力が落ちるような場合は1時間以内にウクライナ軍のレーシ中佐が部隊を引き連れて来てくれます。しかもキエフ上空には絶えずアメリカの無人偵察機MQ-9 リーパーが監視の目をひからせていますから、そうそう基地を攻撃することもままならないはずです」
「しかしニルス中尉、事が起きてから1時間もレーシ中佐の部隊を待っていたのでは、我々の部隊の現地到着時間は大幅に遅れてしまう事になりはしませんか?」
今度はニルス中尉の発言に、同じ司令部要員のスウェン少尉が疑問を呈した。
「そうよ。奴等はブチャの市役所に分離独立のシンボルである旗を立てて立て籠もったのよ。当然これはメディアによって取り上げられ、私たち自衛隊とウクライナ政府の仕掛けた包囲網に疲弊している全国の親ロシア過激派にとっては格好の意欲向上となるわ。この旗を早急に撤去する事が敵の鼻っ柱を折るには必要だと私は思います」
スウェンの発言に被せて、エマが部隊を早急に出す様に言う。
「いやしかし敵の動きをよく確認してから動かないと、下手な手を打って取り返しのつかないことになってしまってからでは遅い。ここは慎重行くべきかと思うが、どうでしょうハンス隊長……」
司令部内では、部隊を直ぐに出動させるか、状況分析をキッチリ行った後で出動させるか議論が2分した。
そこで副隊長のルーカス大尉が、ハンスに決断を仰いだ。
一同静まる中、ハンスの目が私を睨む。
考えは同じ。
だから私もハンスを睨み返す。
「ナトー中尉、行ってくれるな」
「ハイ!」
「では、この件はナトー中尉のG-LéMATに対応してもらう」
「G-LéMAT!?」
「LéMAT第3分隊もナトー中尉の支配下のはずですが、そっちは連れて行かないのですか?」
「G-LéMATだけですと、たった6人で、相手は40人ですが」
「問題は数ではない。LéMAT第3分隊を付けた所で、たかだか16人だ。部隊内で犠牲者を出すよりも良いだろう。それで、やれるな」
「ハイ!あと運転手として第3分隊のニール1等兵を連れて行きます」
「OK。それからニルス中尉!」
「ハイ!」
「サポート要員として同行して記録と情報収取を手伝ってやれ」
「了解しました!」
第3分隊は、元々居たト3等軍曹の代わりに新任のカービ3等軍曹が着任して再編成されたばかり。
広範囲に及ぶ戦域では十分に戦力になるものの、今回のような個人単位の技量が必要とされる場合はまだ信用できない。
1人の失敗も許されない戦いでは、寧ろ確実に信頼できる人員の方がマシ。
ほころびは作戦全体の失敗に繋がりかねないことは、ハンスもよく知っている。
“さすがハンスだ!”
装備については、各自のHK-416自動小銃は持って行くものの、携帯はしないでアリゲーター狙撃銃2丁と共に車に置いておくことにして、拳銃を各自2丁装備する。
その他には、コロンビアの麻薬組織と戦ったときに使用したチアッパ・リトルバジャー22LRとサプレッサーを携帯する。
この銃はボルトアクションでもなく、折り畳み式の単発で、簡単すぎる構造が故にサプレッサーの消音効果は秀でている。
街中の建物に立て籠もった敵に対してなら射程2000mの重い狙撃銃を使うよりも、有効射程距離こそ1/10程度にも満たないが僅か1.4 kgの狙撃銃の方が使い勝手がいい。




