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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****

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【三人目の狙撃手②(Third sniper)】

 奴を見つけてホッとしたのも束の間。

 厄介な事に気が付いてしまった。

 ウクライナ軍が1度目に仕掛けて来た重機関銃の乱射はこの一帯に木の枝が散らばり、まるでビーバーの巣でも作れそうな隠れるのには好都合なポイントが幾つもできて俺はその一つに潜りこんだ。

 だが次の攻撃ではその上に更に木の枝が降り注ぎ、俺が少しでも場所を変えようとして動けば、上に積もった木々が揺れ動いて敵に居場所を教えてしまう事になる。

 装甲兵員輸送車の窓には、相変わらず防弾ガラス2枚越しにして監視員が見張っている。

 動けば、監視員が直ぐに俺を見つける。

 ドラグノフの狙撃兵が休んでいるのは、俺との我慢比べに備えていると言う訳か。

 まあいい。

 我慢比べなら何時間でも付き合ってやるぜ。

 影の様子から、どうやら奴は何か食べているらしい。

 長期戦だ、それなら俺も食べるとしよう。

 ポケットの中からクラッカーとジャムを取り出す。

 体の上に乗った木の枝が揺れてガサガサと音を立てたが、このくらいの揺れなら奴以外は気が付かないだろう。

 音の方は気にするまでのことはない。

 なにしろ奴とは1400mも離れているのだから。

 クラッカーにジャムを塗って食べる。

 甘いマーマレード。

“フッ。マーマレードか……”

 不意にその甘い味とキリッとした香りに、国に残してきたガールフレンドの事を思い出した。

 出発する朝、いつものようにマーマレードを舐めながら、濃く入れた紅茶を一緒に飲んでいた。

「今度も演習なの?帰りは?」

「すまない。演習地も期間も言えない」

「いつもそうよね。どこに行って何をしてきたか、いつ帰るかもそうだけど、いつも旅立つ前日か当日にならないと教えてもらえない。こんなの恋人同士って言える?私はいつも待ちぼうけばかり。去年は貴方の誕生日に予約しておいた高級ホテルのスウィートルームに、私一人で止まったわ。何故だか分かる?それは貴方がその日の夕方に“急に行けなくなった”って連絡してきたからよ!」

「すまない。でも仕方が無いだろう、国のために働いているのだから」

「そう貴方はいつも、お国のためって言うよね。でも国民のためとは言わない。どうして?もういい加減自分でも気が付いているんでしょう?こんなに軍に振り回されているのは、なんの為だって言うことくらい」

「やめろ!時代が違えば粛清されてしまうようなことを言うな!」

「……」

「俺だって、俺だって……」

「ゴメンなさい。私だって貴方の隠して居ることくらい少しは分るわ。普通の軍人が戦争状態でもないこの時期に、恋人との約束を放棄してまで戻って来られなくなる用事なんてそう頻繁にある分けないものね。でも、これだけは言わせて。少しでも疑問に思うようなら無理しないで辞めて。もし辞めて国に帰れなくなるなら、私で良ければドイツだってポーランドだって迎えに行くよ」

「ありがとう……」

 紅茶はスッカリ冷めてしまったが、彼女の心が俺の心を温かくしてくれた。

 出がけに彼女は、このマーガリンを詰めた瓶を軽く投げて寄越した。

 どうせ、任務に入ったらロクなもの食べられないんでしょと言って。

 彼女の為にも、俺はこの与えられたミッションを完了させて、国へ帰る。

 そしてこのケースの中に指輪を入れて届けるのだ。


 彼女が何故マーガリンを俺に持たせたのか、今になって気が付いた。

 やはり甘いものは、疲れた脳によく効く。

 ドラグノフの狙撃手が何故積極的に撃ってこないか不思議に思っていたが、俺はそれを俺が動くのを待つためだと決め込んでいた。

 しかし、もし俺がさっきの重機関銃の一斉攻撃で、ここを離れていたとしたらどうだろう?

 俺があと50mも左に移動すれば、ドラグノフの狙撃兵だけじゃなく他の何名かも狙撃出来てしまう。

 さっきまでの用心深さは、どこに消えた?

 この落ち着き具合は、いつから変わった?

 最初の重機関銃の一斉攻撃の前までは、ピリピリした緊張感が戦場全体に広がっていた。

 迂闊に撃とうものなら奴に仕留められると思い、トリガーを引くことに戸惑っていた。

 現に仲間は2人とも、射撃したことで奴に場所を特定されてしまい殺された。

 しかし重機関銃の一斉攻撃が終わってからはどうだ?

 俺は知らず知らずのうちに完璧に主導権を取り戻し、Alligator狙撃銃を壊し、重機関銃に銃弾を補充しようとした兵の持つ弾薬ケースを撃って地面に落とさせた。

 奴が居れば必ず反撃に合っただろうし、そもそも奴が居れば俺自身、撃つ事を躊躇ったはず。

 だったら俺自身、自分の知らないうちに奴が居ないことに気が付いていたのか?

 いつ!?

 あの場所から移動するには、最低でも30秒近く俺の目から逃れる必要があるはず。

“30秒!”

 あの重機関銃の一斉攻撃の時間は……。

 頭の中で、あの時の光景をリピートさせながらタイマーを見る。

“30秒ジャスト!”

 奴はあの時に移動した。

 慌ててもう1度時計を見る。

 既に5分経過している。

 そうなれば、もうそろそろ奴はここに来る頃だ。

 丁度その時、左側でパキンと木の枝を踏む音が微かに聞こえた。

 今動けば確実に奴にバレる。

 だが奴は俺を見逃さない。

 動くなら、まだ多少でも距離のある今しかない。

 近接戦闘になると、狙撃銃は自動小銃に対して圧倒的に不利だ。

 こんな木の枝の中に隠れていたって、連射されればいずれは当たる。

 俺はすぐに彼女が持たせてくれたマーマレードの入った瓶を胸のポケットに仕舞い、隠れていた“巣”から離れ左側面から接近して来る奴に対して、有利な位置を確保するために走った。

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