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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****

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【再会③(Reunited)】

 09時37分。

 怪我をしているウリークとクリチコはブラームとフランソワが背負い、その2人のリュックをユリアとガナーのホロヴィッツが背負った。

 フランスを出る前から202号機の搭乗員を捜索する任務であることは分っていたので、各自アルミ製の背負子しょいこ(※人を運搬できる椅子型のフレームで人を乗せない時はリュックを固定できる)を装備していたので2人を後ろ向きにして座ってもらった。

「高いなー!」

「良く見える!」

 ウクライナの成人男性の平均身長は176.5㎝だが、2人はそれよりも少し低い。

 その2人が身長190㎝のブラームと、193㎝のフランソワの背負子に座り、背負っている2人より頭一つ高い位置に居るのだから景色はさぞ良いことだろう。

 怪我人の搬送と言うリスクはあるものの、私たちにはメリットもある。

 それはウリークとクリチコが後ろ向きであること。

 つまり他の者たちは前と左右の警戒に集中できると言う訳だ。

 10時00分。

 森伝いに集落を通り過ぎた丘の上で小休止を取る。

 紅茶を飲みながらユリアと話をする。

「大変な目に遭ったな」

「本当、自分の操縦する機体が堕とされる日が来るなんて、夢にも思わなかったのにショック」

「堕とされたんじゃないだろう?即席の滑走路を無理やり造って着陸したんだろ。だから全員無事だった」

「なんで知っているの!?」

「宿直の時に、偶然無線を傍受した」

「やっぱり!」

 急にユリアが胸に抱きついて来た。

「ど、どうしたんだ??」

 ユリアは私の胸から顔を上げ、初めて涙を見せて理由を話してくれた。

「私ね、ミサイルが飛んで来た時に、もう駄目だと思ったの。1発なら逃げ切れる自信はあったけれど3発でしょ。いくら旧式の9K34でも、一応はチャンとした赤外線追尾だから……。でもね、直ぐに誰かがこの無線を聞いていることに気が付いたの。誰だと思う?」

「参謀総長?」

「そう!」

「本当??」

「やーね。私の参謀総長はナトちゃん、貴女よ」

「私!?」

「そうよ。だから、3発の9K34を振り切って、良い所を見せなきゃって思ったの」

「無線を聞いていて胸がワクワクしたよ」

「有り難う。ナトちゃんが居なかったら、4発目は避けられなかったわ」

「私は、その場には居なかったし、ミサイルを避けられたのは全てユリアたちのチームワークおかげだろう。しかし凄い判断だったな」

「そうね。チームにも感謝しなきゃ」


「なあ、前から気になっていたんだけど、ナトーとユリアって似ていると思わねえか?」

 二とーとユリアの2人が仲良く話をしているのを見ていたモンタナがトーニに聞いた。

「やっぱ、そう思うか。俺もコンゴで初めて会ったときから、気になっていたんだ。反政府軍が渡河しようとする橋を攻撃しただろ?あの時の本部への許可の取り方が大胆で、まるでナトーがコクピットに居るのかと思ったぜ」

「実は、自分も、そう思っていたんです。戦場での大胆な行動力もそうなんですが、髪の色と背の高さなどは違いますが、雰囲気似ていませんか?」

 傍に居たホロヴィッツ軍曹も話に加わってきた。

「普段のユリア中尉は甘い感じの目に見えますが、戦闘になった時の“本気モード”の目は、ナトー軍曹と同じ目です」

「確かに……」

「世の中に“似ている他人”と言うのは居るけれどよ、ナトーとユリア中尉の場合は“あまり似ていない姉妹”って感じがするな」

「あーっ、それですよモンタナさん!まさにユリア中尉とナトー軍曹は、容姿は違いますが姉妹そのものです」

「俺もそう思うけどよぉ、ナトーはもう軍曹じゃねえぜ」

「トーニさん、それは一体……」

「心配すんな。降格じゃねえ」

「では、曹長に?」

「いいや、中尉だ」

「中尉!?」

 ホロヴィッツ軍曹が驚くのも無理はない。

 一介の農夫が戦で大きな手柄を立てて将軍にまで出世した大昔と違い、今の時代は手柄を立てても貰えるのは勲章だけ。

 3等軍曹から2等軍曹に上がるとか連隊長権限で昇進できる場合もあるが、軍曹に昇進するとか下士官から士官に、尉官から佐官に昇進する場合などは技能+知識などの基準を満たしているか試験で判断される。

 だから軍曹だったナトーが、たった1年足らず合わないうちに中尉に昇進しているなんて信じられないのも無理はない。

「さすがナトーさん。凄いですね」

 ところがホロヴィッツ軍曹は、驚いたものの素直に事実を認めた。

「お、おい。そんなに素直に認めるのか!?」

「認めますよ。だってナトーさんですから」

「違ぇねえ。ナトーなら、何の不思議もねえ」

「あと1年後には参謀総長になっているかもですね」

「参謀総長は言い過ぎだろう」

「しかし参謀本部に入っても、なんら遜色そんしょくはねえだろうな。

 3人は、話を止めて、ナトーとユリアの方を見た。


「ところで中尉昇進おめでとう!男言葉も止めたのね」

「ああ、ありがとう。男言葉の方が良かった?」

「いいえ、正直言うと、いつか注意しなきゃいけないなって思っていたの」

「何故?」

「誤解を招くでしょ。今はハンス大尉と言う立派な理解者が上に付いているから色々フォローしてもらえるけれど、いなくなった場合ナトちゃんの性格と能力なら難しいと思うわ」

 ハンスの言ったことと同じことを言われた。

「でもユリアだって似たようなものだと思うんだけど」

「全然違うわよ。だって私は女だもの。ナトちゃんは部隊では男として扱われているから男言葉なのだろうと思っていたけれど、やはりそれは違う。他の隊員から見れば、どうしても女ですもの。それが男言葉を使っていても単に突っ張ているだけにしか見えない上に、上官にとっては自分より能力があるから余計嫌になってしまう。様々な国が男女で違う言葉が使われているのは、そう言う男女の関係を円滑にするためだと思うの」

 確かにユリアの言う通りだろう。

 男言葉はキレが良いが、それを女が使うと、やはり“生意気”だと感じられるのだろう。

 実際に女言葉を使う様になってからと言うもの、物事がスムーズに進んでいるように思う。

「ところでいつから中尉になったの?」

「2週間ほど前」

「外人部隊だからってフランス陸軍の管轄だから、勲章の多さでは昇進は出来ないでしょう?」

「半年前、急に士官教育を受けろって言われて、それで学校に通って。変だろう?」

「少しは変に思うけれど、少し不満もあるかも」

「不満って?」

「だって私なら中尉ではなくて、中佐か大佐に任命するわよ」

「それは飛び過ぎ」

「だって、パイロットなんですもの」

 私が笑うと、ユリアも笑った。

 来て良かった。

 本当に、あの無線が聞けたことを、神様に感謝したかった。

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