【AFは水不足①(AF is short of water)】
追手が無い事はエマとラズベリーやブルーベリーを採りながら、慎重に探っていたので間違いない。
強姦目的でない限り、こんな森の中でイチャイチャ始めてしまう女性のカップルを追って来る様な軍隊は、アフリカの私的な軍隊以外ではそうそう無い。
まして規律正しく隠密行動を取っているのであれば尚更。
出入口は1つだけではないはずだが、そんなに数も多くはないはず。
なぜなら数が多ければ多いほど、見つかる可能性が高いから。
ブルーベリーを採りながら、トーニとキースにその事を伝え、銃をどこかに置いて行くように指示したいが万が一携帯の電波を傍受されてしまうと全てが水の泡になってしまうので今は使えない。
1人の場合、簡単に敵に拘束させられてしまうし、更に銃を持っていることが分かると我々の行動が察知される恐れもある上に、身の危険も高くなる。
「どうしたの?」
ブルーベリーを採るために上げていた手が止まったままだったのを、エマが妙に思って聞いて来た。
「なにが?」
慌てて果実を採り始めて誤魔化す。
「心配なの?」
「いや……」
「嘘仰い、トーニちゃんが心配だって顔に書いてあるわよ」
「まさか」
「キース君は元プロライダーだから、こんな平地の森の中なんてヘッチャラだろうけれど、トーニちゃんは心配よねぇ」
エマの言う通り、もし敵と遭遇した場合、オートバイが傍にあればキースは難なく逃げ遂せるだろう。
問題なのはトーニ。
森の中は枯葉が積もり滑りやすいうえに、いたる所に木の幹や切り株があるから万が一転倒でもしようものなら掴まってしまう。
隠しておいたビデオカメラを回収して帰る。
思った通り、地下から4人の敵兵が出てきて辺りを警戒しながらカモフラージュを修復していた。
作業を終えて3人が地下に戻るために扉を閉めて入って行ったあと、1人が仕上げを施して森の奥に向かって去って行った。
あの向こうにあるのは、トーニが牛乳配達をしている別荘のある地域。
鉢合わせしなければいいのだが……。
「おかえりなさい」
キャンプ場に戻ると、トーニとキースそれにハバロフの3人以外は既に戻って来ていた。
私たちの収穫の他にも、偽電気工事班の4人が朗報を持って戻っていた。
「とうとう敵の通信傍受に成功しました」
報告したのはボッシュ。
思った通り無線が傍受されるのを恐れて、電話回線による有線通信を連絡手段に使っていたのだ。
「内容は」
「“地下水ろ過機の故障により至急真水の補給を頼む”だそうです」
「おそらく、敵の潜入部隊からの補給要請かと思われます」
ボッシュに続いて、ブラームが説明した。
つまり“敵守備隊は水不足”と言う訳か……。
どこかで聞いたことがあると思ったら、第2次世界大戦の太平洋戦争で戦局を分けたと言われる闘いで使用された電文に似ている。
これは1942年6月5日~7に行われた日ミッドウェイ海戦の前の5月11日、特定できない日本軍のAFと言う攻撃目標を確認するためにハワイから海底ケーブルを使って、ミッドウェイ島からハワイに向けて“海水ろ過装置の故障で真水が不足している”と平文(暗号を使わない電文)で打たせたもの。
それを傍受した日本軍は、暗号電文で“AFは水不足”と打電してしまい、AF=ミッドウェイであることが確定したと言われている。
「傍受した時刻は?」
「16時20分です」
「エマ!」
私はエマを振り返り、お互いの時刻の確認をした。
現在時刻は16時50分。
私たちが敵の隠し扉を発見したのが10時20分。
現場を去ったのが10時35分。
敵兵がドアの再偽装を施したのが10時50分。
私たちが敵の隠し扉を発見して6時間後……なぜこの時刻に補給の依頼を出した?
「やりぃ!ボッシュちゃん大手柄ね、これで今夜確実に敵の補給部隊が動くわよ!」
「やりますか?」
モンタナとフランソワが目をギラギラさせて命令を待っている。
ボッシュはフランソワにしてみれば可愛い子分。
親分肌のフランソワなら可愛い子分の為に、もっと大きな手柄にしたいと思っているはずだし、数日前に釣り上げた魚の大きさでモンタナに負けているとあっては自身の面子もあって尚更。
モンタナも偶然とはいえ、15㎏の鯰にケチを付けられたのだから、珍しく張り合う気満々。
しかし何か気になるのは、その事ではなく敵の補給要請。
いくら森に果実採りに来た女性の2人連れとはいえ、隠れ家が見つかりそうになったその日に補給の要請をするだろうか?
地下水ろ過装置が壊れたからと言っても、軍隊である以上各自の水筒に常に飲み水は満たしてあるはずで、そのほかにも予備の水は確保しているはず。
急にろ過機が壊れたからと言って、慌てて補給を頼む様なことは無いはず。
しかも、見つかりそうになった時間から5時間も遅れて。




