【事件と対応③Incident and response)】
「すまない。謝罪しなければいけないのは私の方だ」
次官は席を立ち、しばらく立ったまま頭を下げていた。
「どうしたのですか、どうぞ頭を上げてください」
事務的ではあるけれど、頭を下げに来たのに、逆に本気で頭を下げられて驚いた。
私の言葉に次官は手でソファーを指さして、そこに座って話しを聞いた。
「ナトー中尉も既に知っている通り、我々のウクライナはウクライナ人約8割とロシア人約2割の構成で成り立っている国家だ。そしてこの度の親ロシア派と分離独立派を中心としたテロは、平穏に暮らすロシア人にとっても、国政にとっても悩ましい事態。そこに反ロシアを掲げる右翼勢力の暴走がこの度の事件。既にキエフ警察を始めとする全ての警察組織には注意を勧告したところだが、同じ国民である以上平等に扱わなければならないのは国家として当然の義務だ。それは加害者も被害者も同じ。ところが今回の事件の様に、バックに列記とした政党が付いているとなれば厄介な事になる。ただし犯罪である以上、警察としての威厳を持って全ての国民のために取り締まらなければならない。そこのところを今回の事件で、我々組織として関係者全員に改めて意思の統一を図りました」
「はい」
「さて、ここからが難しい問題です。国内の対テロ活動に従事するため各国から集まってくれた自衛隊の面々だが、対テロ活動と言うのは治安維持活動の中のひとつとして位置付けられるわけで、切っても切り離すことはできない。その意味ではナトー中尉の行ってくれた行動は称賛にこそ価すれ、非を伴うものではないと私は確信しています。しかしながら今回の事件は御存知の通りバックボーンには20名の政党が付いている組織で、野党連合にも属しています。結果的には彼らも非を認めたのですが、それでは政党としての面子が立たない。だから内政干渉と言うことで折り合いを付けざる負えませんでした。本来ならこちらからお伺いして感謝と謝罪を申し上げるべきところなのですが、それをすると消えかけた火に油を注ぐ事にもなりかねないので、こうしてお越しいただいたわけです」
総務省の次官は謝ってくれ、今後このような事件に我々を巻き込まない様に、警察として全力挙げて治安維持に努めることを約束してくれた。
謝罪に行ったつもりが、逆に謝罪された。
政治家はプライドが高い。
と言うか、プライドを傷つけられ、その非を認めてしまえば彼らの政治生命は終わってしまうから当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。
むしろプライドの高い政治家と、同じように現場で命を張っていると言うプライドを絶対に譲れない私たちとの狭間に立つ彼等デスクワーク組が、一番大変な思いをしているに違いない。
「もしもし、ハンス司令、終わりました」
携帯を取り出しハンスに連絡する。
『チャンと謝れたのか?』
子供じゃないんだから、そう言う心配はしなくて良いのにと思い、笑いそうになる。
「謝る前に、逆に謝られました」
『そうか、ナカナカ話の分かる人だったんだな』
「あれっ、そう言えばハンスは怒られたんだっけ?」
『ああ。電話を掛けて来たのは政治家の方だったからな』
「では、これから戻ります」
『拳銃は持って出ているのか?』
「一応」
『またP-22か、どうしてSIGを使わない!?……まあいい。銃を持っているのなら、すぐ戻らなくていいから、その辺をパトロールして夕方帰るんでいいぞ』
「いいのか?」
『どうせ休日に寄るよりも、早い方がいいだろう?』
「では、お言葉に甘えて」
『おいっチョッと待て!くれぐれも面倒は起こすなよ!』
「それは相手次第だ。それでは夕方に戻る」
プチッ。
ハンスの奴、私が資材部から大工道具を借りて来た事を、もう知ってやがる。
と言うことは口には出さないものの、行き先も既にバレていると言う事だし、私がしようとしていたことも知っているということ。
まあ基地司令として部下の事に熟知しているのはさすがハンスと言いたいところだけど、気が付きすぎる男って最初はいいけれど、長く付き合うとなるとウザいって雑誌に書いてあったのを思い出した。
でも、ハンスは違うと思う。
それに仕事第一主義のハンスの事だから、仕事に集中し過ぎて家庭では結構ボンヤリしていそう。




