表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第一章 南海の孤島リベーラ
6/56

第六話 科学的で非科学的な依頼

「ようこそ、我が屋敷へ。フランシスコ・イバーラだ。座ったままですまんな。五年前に足を撃たれて以来、立ち上がることができない。今はギレルモが作ってくれたロボット椅子が足代わりだ」


 フランシスコは、体をわずかに前に倒す。すると椅子が進み始めた。その滑らかな動きに、レオナルドは感心する。

 フランシスコはなにも操作をしていない。体の傾きを車椅子が自動で読み取り、移動の速度と向きを決定しているのだ。

 レオナルドは頭の中で、どういうアルゴリズムでこの動作を実現しているのか考える。それとともに、自分の横にいるギレルモという男が、ロボット開発会社の社長であることを思い出した。


「きみの名はレオナルド・フェルナンデスだったな。レオと呼ばせてもらおう」


 車椅子が停止し、フランシスコが右手を差し出してきた。レオナルドは戸惑いながら握手する。

 その手は血の通った温かさを持っていた。先ほどの虫のようだという印象は、あっさりと裏切られた。第一印象は当てにならないものだとレオナルドは思う。


「概略はギレルモに聞いているかね?」


「いえ」


「手荒い真似をされたのではないかね?」


「ええ、まあ」


 フランシスコは、優しげな笑みを浮かべる。


「ギレルモは熱意を持って、私の命令に取り組んでくれる。だが、そのことで他人に無理を強いることも多い。仕事熱心なんだ。許してくれ。もし、きみに暴力を振るったのなら、私から正式に謝罪しよう」


「いえ、気にしないでください」


 レオナルドは緊張しながら答えた。


 フランシスコは、実力で成り上がった者特有のオーラを持っていた。その存在感は他者を圧倒したり、高揚させたり、緊張させたりする。

 レオナルドは、自分が平常心を失っていることを自覚しながら、握手の手を放した。


「それでは仕事の話をしよう。レオくん。きみがこれから数週間従事する仕事だ。報酬はきちんと支払う。シリコンバレーの相場の十倍を考えている。成功報酬も用意している」


「ちょっと待ってください。まだ受けるとも受けないとも言っていません。数週間もここに滞在することはできません」


 フランシスコは、やり取りを楽しむ顔をする。


「残念だ。きみに選択権はない。私がきみの力を必要としている。きみはギレルモの試験に合格した。きみは私の望みを果たすまで、自分の人生を歩むことは許されない」


 富豪の横暴に、レオナルドは口を開けたまま沈黙する。


「きみはギレルモの開発チームに入ってもらう。ギレルモは今、この屋敷の工房でロボットを作っている。洞窟探査を目的としたものだ。

 火山性ガスの充満した島の洞窟に、探査用のロボットを送り込んで作業をさせる。その開発が一週間ほど行き詰まっている。私は理由をギレルモに聞いた。ギレルモは視界の確保だと答えた。


 ロボットは遠隔操作する。そのためにはロボットの周囲の状況を把握しなければならない。だが濃いガスのために、照明を投じても視界は得られない。

 現場には様々な起伏がある。道は大小の細道に分岐しており全体像を窺えない。


 解決方法は空間を把握するセンサー類の整備だ。しかし、センサーをつけても、空間を把握するのは容易ではない。情報を解析して、リアルタイムに三次元空間を構築する必要がある。


 そのためには有能なプログラマを雇わなければならない。しかし、島の住人を直接使うことは避けたい。

 私がこうした仕事をしていることを、島民には知られたくないからだ。島の人間を使えば、すぐに噂が広がる。リベーラ島は小さな社会だ。人々は互いに密に絡み合っている。


 だから外部の人間を雇う必要があった。そして上手い具合に一人の有能なプログラマが島に滞在していたというわけだ」


 そこまで一気にしゃべり、フランシスコはレオナルドに意見を述べる機会を与えた。


「その仕事を断ることは?」


「できない」


「仕事が完了するまでは」


「帰れない」


「僕の生活は?」


「屋敷で寝起きしてもらう」


「外出は?」


「もちろん禁止だ」


「取り上げられたノートパソコンやスマートフォンは?」


 壊れたスマートフォンのことを思い浮かべながらレオナルドは尋ねる。できればアメリカに持ち帰ってデータを吸い出したい。


「仕事が終わるまで預からせてもらう。外部と連絡を取る手段はない。仕事に専念できるというわけだ。

 きみの家族には、私のもとで働いていると伝える。行方不明として心配されることはない。安心しろ」


 取りつく島もなかった。レオナルドはため息を吐く。選択の余地はない。武装した兵士に囲まれたこの森の城で、洞窟探査ロボットのプログラムを書くしかなさそうだ。


「仕事の道具は?」


「庭の離れが工房になっている。工房にはパソコンが数十台ある。好きなマシンを使っていい」


 レオナルドは素早く考える。外部との通信を確保する策を講じておくべきだ。


「イバーラさん。プログラムを書くには、開発ツールをネットから入手する必要があります。また、各種の処理を実装するために、ライブラリを探して組み込まなければなりません。それに論文などを参照することもあるでしょう。

 インターネットの利用を許可していただかなければ、目的を満たすプログラムを書くことは不可能です」


「分かった。監視つきで許可しよう」


 フランシスコは、ギレルモに視線を送る。


「必要なときには俺に言え。カルロスをおまえの背後に立たせ、監視つきでサーバーへの接続を許可してやる」


 これでいい。人間の目を欺くことは簡単だ。ロボット用のプログラムとは別に、外部と交信するプログラムを書いて実行すればよい。


「質問は以上かな?」


 レオナルドは、他に尋ねたり交渉したりしなければならないことを考える。


 この仕事の目的はなんだ。


 フランシスコがレオナルドに求めているのは、ロボット開発に加わることだ。しかし、洞窟を調べるのは手段でしかない。フランシスコは、その結果を利用してなにをしようとしているのだ。


「仕事の目的はなんですか?」


 フランシスコとギレルモの動きが止まった。彼らは値踏みするようにレオナルドを観察する。


「呪術だよ――」


 真面目な顔でフランシスコが言う。


「この島を滅ぼす呪術が、どういうものなのか解明することだよ」


 フランシスコの台詞には、冗談めいたものは一つも含まれていなかった。老富豪の口から出た言葉は、彼の人生の重みを感じさせるものだった。


 虫――。先ほどフランシスコの姿が、そう見えたことを思い出す。


 レオナルドの前に立つフランシスコ・イバーラは、まるで人間ではない別種の生き物のような佇まいを見せている。


 ギレルモが一歩前に出て、フランシスコに頭を垂れた。


「イバーラさま。私に課された仕事は、必ず成し遂げます。ご安心ください」


「任せたぞ。二人ともよく協力して、仕事を成功に導いてくれ」


 フランシスコは機械仕掛けの椅子を操り、奥の部屋へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ