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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第七章 パズルのピースと呪術の謎解き
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第四十五話 呪術的孤島のロストワールド

「そこはとても危険な場所よ」


 マリーアが声を出した。


「どういう場所か知っているの?」


 マリーアはうなずく。


「世界の裂け目と呼ばれているの。絶壁の谷があり、底は真っ暗でいつも見えないの。美しい虫の宝庫で、捕まえて売りさばこうという人が、あとを絶たないそうよ」


「どれぐらい危険なの?」


「毎年、何人も死人が出ているわ。そして死体は一度も見つかっていない。だって、下まで下りて、戻ってきた人はいないんですもの」


 マリーアの言葉に、全員が押し黙った。


「サリサリニャーマの陥没穴、ゴロンドリナス洞窟、大石囲天坑、小寨天坑――。世界の秘境にある巨大な縦穴たちだ」


 BBが画面の中で語り始める。


「サリサリニャーマは、南米のギアナ高地にある山で、テーブルマウンテンの一つだ。ギアナ高地は、アーサー・コナン・ドイルの『失われた世界』のモデルになったロライマ山がある場所だ。


 このサリサリニャーマには、世界的に有名な陥没によってできた縦穴がある。最大のものは、直径、深さ共に三百五十メートルほど。垂直に切り立った穴の底は、鬱蒼としたジャングルになっている。


 ゴロンドリナス洞窟は、メキシコにある洞窟だ。この洞窟も地下に向かって穴が空いている。長さ六十二メートル、幅四十九メートル、深さは三百七十メートル。壷のように、底に行くほど広くなっており、スカイダイビングのメッカでもある。

 俺の趣味で言えば、スカイフィッシュと呼ばれるUMAが目撃された場所としても知られている。


 大石囲天坑は、中国の広西省にある巨大な縦穴だ。長さ六百メートル、幅四百二十メートル、最大深度六百十三メートル。

 小寨天坑は、中国の重慶で、長さ六百二十五メートル、幅五百三十五メートル、最大深度は六百六十二メートルだ。


 これらが陥没穴として有名な地形だ。それぞれの洞窟の底は大地と隔絶されており、独自の生態系を持っている。なんの準備や装備もなしで、いきなり訪れることのできる場所ではない。


 他にも単純な一直線の縦穴なら、ブルトグラビカ洞窟の六百三メートルがある。深さだけを競うのならば、最深のクラベラ洞窟は二千百九十メートルを超えて今なお探索中だ」


「BB、リベーラ島の穴の深さは推測できる?」


 レオナルドは、BBの独演を遮って尋ねる。


「最大深度は予想可能だ。熱帯、亜熱帯を中心によく見られる陥没穴は、地下水によって大地の底に空洞ができ、その上の地面が崩れてできたものだ。

 地下水は海に向かって流れる。だから海面の高さが、縦穴の最大深度になる。リベーラ島の縦穴周辺の高度は何メートルだ?」


 レオナルドの横でアルベルトが地図を調べる。


「三百メートルほどだ」


「じゃあ、三百メートルを超えることはないだろう。深くても二百数十メートルってところだな」


 二百数十メートル。さすがにそれほど深いとは思いたくない。ノートパソコンの前で、レオナルドは考える。ようやく見つかった解決方法を試すには、命がけの探険をしないといけない。

 レオナルドは、ウェブブラウザでリベーラ島の航空写真を表示して、ウラムの螺旋の中心位置を拡大する。黒い裂け目が大地に走っている。

 画面の端を見て縮尺を確認する。短いところで三十メートル、長いところで八十メートルの幅がある。


「アルベルトさん」


「なんだい?」


「こうした場所に下りる装備は、この屋敷にありますか?」


「五十メートルのクライミングロープなら何本かある。だからといって、陥没穴を簡単に探査できるわけではない。

 島外に行って必要な装備を調達して、しかるべき訓練を重ねて、事前の調査をしてからアタックしなければ難しい」


 アルベルトは、レオナルドの安易な考えを否定する。レオナルドは他の方法を検討する。下まで行くのが困難ならば、高所から直接石像を破壊すればいい。


「アルベルトさん。洞窟の調査の際、物理探査でダイナマイトを使いましたよね?」


「ああ。地面に震動を与え、その伝わり方で地下の構造を調べるためにね」


「そのダイナマイトは、屋敷のどこにあるんですか?」


「母屋の危険物保管庫にある。武器や弾薬と同じ場所だ」


「それを持って近くまで行き、穴の底で爆発させる――」


「穴にたどり着くだけでも大変だ。たとえ底まで下りなくても、危ないことに変わりはない。僕は反対だ」


「僕一人でも行きます」


 全てを解決するには、誰かが危険を冒さなければならない。フランシスコは、わずかな人数にしか呪術の話をしていない。その話を伏せたまま、陥没穴に行ってくれる人を探すのは難しい。

 金を積めばいるかもしれないが、信用できるかは分からない。適当な場所でダイナマイトを爆発させて、戻ってくる可能性だってある。


 レオナルドはアルベルトとしばらく見つめ合った。無言のまま、二人は互いの顔を見続ける。しばらくして、アルベルトが表情を緩めた。


「分かった。レオくんが本気なことは理解できた。しかし、きみを一人で行かせるわけにいかない」


 その言葉にレオナルドは緊張する。


「僕も同行して手伝おう。ただし、地上からではない。空からだ。イバーラ氏にヘリコプターを借りよう。そうすれば最小限の危険で、移動できるはずだ。


 縦穴に着いたら、ロープで周辺の地上に降ろしてもらう。ダイナマイトはそこからロープで吊して地下まで下ろし、遠隔操作で起爆させる。


 遠隔起爆自体は、いつもやっている。ロープは五十メートルのものを七本持っていき、繋ぎ合わせることにしよう。

 保管庫にあるダイナマイトは、ダンボール一箱に三十本入っている。箱に入れた状態の重量は二十五キロ。そのまま使っても、人間一人より軽い。ロープの耐久度的に大丈夫だ」


 レオナルドは感謝の言葉をアルベルトにかけた。


「私も行くわ」


 マリーアの声に、レオナルドとアルベルトはぎょっとする。


「そんな、危険だよ!」


 レオナルドはマリーアを説得しようとする。アルベルトも、それはできないとマリーアを拒絶した。


「ヘリコプターで行くんでしょう? だったら私がいても問題ないじゃない」


「しかし」


「それに、私は森の中にある石像を、灯台のように見られる。あなたたちには、それができない。二人はどうやって、クモの石像を探すつもりなの?」


 レオナルドとアルベルトは押し黙る。


 確かにそうだ。石像を探すのは困難を極める。地上から見える場所にあるかは不明だ。そもそも目で見て、探せるのかも分からない。

 それに、穴の中でダイナマイトを爆発させたからといって、石像が壊れるとは限らない。確認は必要だ。マリーアなら、爆破後に呪術の力がなくなったか感知できる。


「私は、おじいさまを助けたいの」


 マリーアは、決意をみなぎらせた顔で言う。


「私を育ててくれたおじいさまを救い、おじいさまが人生を捧げたこの島を守りたいの」


 レオナルドは思い出す。フランシスコが、血の繋がっていない彼女を、本当の孫娘のように愛してきたことを。


「分かったよ。ただし、僕の指示に従うように」


 アルベルトはマリーアに告げる。レオナルドも、その条件でマリーアを受け入れることに同意した。


「さて問題は、いつここから出られるかだね」


 アルベルトが大きなため息を吐く。


 ノートパソコンの画面に、クレイグの顔が現れた。


「連絡はついたよ。五分ぐらいで開けてくれるんじゃないかな」


「ありがとう、クレイグ!」


 しばらくして、扉の向こうで物音がした。鍵を開ける音が聞こえ、扉が動き始める。怯えた表情のカルロスが覗き込んできた。


「大丈夫ですか?」


「待っていたよ!」


 レオナルドたちは扉に向かう。


 カルロスは、自身に起きた出来事を説明する。ギレルモが先住民たちを自動小銃で虐殺したとき、彼は倉庫にいたそうだ。それで怖くなって、倉庫の外に飛び出て、離れた木陰に潜んでいたらしい。


「ギレルモは?」


「イバーラさまは俺が守ると言って、母屋に向かいました」


「銃を持って?」


 カルロスはうなずく。


 レオナルドは、先住民たちが監禁されていた倉庫を覗く。無数の死体が転がっており、血の海になっていた。すぐに目を背けて、距離を取る。


「マリーア、イバーラさんのところに行こう」


 ギレルモがなにをするか心配だ。それに、呪術を解くためにヘリコプターも借りなければならない。


「僕は、陥没穴に運ぶ荷物の準備をしておくよ。カルロスくん、ジープを一台借りてきてくれないか」


「分かりました」


 カルロスは工房を飛び出す。アルベルトは、自分の作業スペースに移動して、クライミングロープやリュックサックを用意し始めた。

 レオナルドは、オフィススペースのプリンタを使い、素数の位置を重ね合わせた地図を三枚印刷する。自分とマリーア、アルベルトの分だ。


「じゃあ、行ってくるから」


 レオナルドは、ノートパソコンに顔を向ける。画面の中の友人たちは、それぞれの反応を示した。


「気をつけてくれよ。きみはこの会社に不可欠な人間だ。無事の帰還を祈っている」


 クレイグが、穏やかな声で言う。


「まあ、生きて返って来いよ。俺はそんな危険はごめんだがな」


 BBは口調とは違い、真面目な顔をしていた。


「……」


 アン・スーは下を向いていた。彼女は目から涙を、ぽろぽろとこぼしている。


「無事に戻ってきてね。レオに出会って一年、本当に楽しかったから」


「でも、なにも形にできなかった」


 アン・スーは、悲しそうな表情になる。


「最初に会ったときに、クレイグが言っていた。旅の船に乗る仲間を選んだって。レオは自分が得たものを、なにも分かっていない」


 いつもとは違う長い言葉をアン・スーは話した。彼女は、待っているからと小さく言い、眼鏡を上げて涙を拭いた。


「大丈夫だよ。きちんと戻るよ」


 レオナルドは笑顔を見せたあと、手を伸ばしてパソコンを休止状態にした。畳んだノートパソコンをリュックサックにしまう。


「行こう」


 レオナルドはマリーアとともに、工房の入り口へと歩きだした。

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