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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第三章 島の富豪の呪術的過去
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第二十一話 自己相似的で螺旋的な時間世界

「私はそこまで頭がよいわけではないよ。日記にメモがあったんだよ」


「ディエゴさんの日記に?」


「そう。大学で数学を学んだ男の日記にな」


 なるほど。ディエゴという男は、アン・スーと同じ種類の人間なのだろう。

 アン・スーは、数字とロジックに世の中は支配されていると考えている。しかし、そうした思考を持つディエゴが、なぜ島の呪術を学ぼうとしたのか。

 石像のデザインに数学的な意味があったように、呪術にも数学的な美しさや秘密が隠されていたのか。


「石像以外の情報は?」


「先住民たちは、虫を神として崇めていた。それも、現在の虫ではなく、太古にいた虫だ」


「太古にいた虫?」


「そういう言い伝えが残っている。島に大昔いた虫たちが今も生きており、それを精霊と呼んでいる。島では、精霊の世界と人間の世界が重なり合っており、呪術は二つの世界を繋ぐものだと考えられている。


 リベーラ島の先住民は、数学的規則性の上に呪術を成り立たせていたという。彼らは独自の世界観を持っていた。たとえば時間に関する伝承などは、非常に特徴的なものだ」


「どういった伝承なんですか?」


「先住民たちは、時間はフラクタルな螺旋だと考えていた。時間はバネのようにぐるぐると回る螺旋で、そのバネ自体も、大きな視点で見ると、より巨大な螺旋の一部になっている」


「フラクタル――自己相似的――ということは、その階層が無限にある」


「そうだ。そして時間の螺旋について、ある地点から別の地点に移動できると考えていた。まるで並走している別の電車に飛び移るようにな。そうした時間の概念を持っていた彼らは、時の神としてクモを崇めていた」


「クモは螺旋状に糸を張って巣を作るからですか?」


「ああ。その時間螺旋の法則を解き明かして、呪術師たちは利用していたらしい。だが、それがどういったものかまでは分からなかった。


 私は島の先住民が、数学的規則性の上に呪術を成り立たせていたという話に注目した。断片的な証拠が集まれば、彼らがどういった思考の規則性を持ち、呪術をかけていたのか判明するかもしれない。

 人類の言語や思想は、民族や文化によって違う。しかし数学の規則性は変わらない。だから彼らが残した情報の断片を拾い集めようと考えた」


「それがなぜロボット開発に?」


「先住民の伝承は全て口伝だった。そのため現物として残っているものはほとんどない。唯一、我々が目にすることができるのは、島内に散在する石像だけだ。その場所を調べて写真を集めてみたが、なにも分からなかった。

 表面の虫の模様も、高度に抽象化されているため、なんの虫なのか判然としない。それに全部を調べられたわけでもない。なにせ数が多すぎる。そして島は密林に覆われている。

 そうやって手詰まりを感じていたときに、聖地の存在を何人かの先住民から聞いたのだよ。


 そこは島民が儀式をおこなう場所だった。しかし、百年以上前から使われていない。それどころか誰も訪れていない。理由は分かるな?」


「火山の活性化により、有毒ガスが洞窟に流れ込んできたから」


 フランシスコは首肯する。


「彼らは数学的な背景を持つ石像を作る人間たちだ。今は失われたとしても、かつては高度な文明を築いていたはずだ。

 彼らの聖地には、伝説や神話の発想の核になる、なにかがあるかもしれない。呪術の正体を知るためのヒントが隠されている可能性がある」


「だから探査ロボットを開発して、洞窟の奥にある聖地を調べようとしたわけですね」


 そのとおりだと、フランシスコは答える。


「当初は一ヶ月もあれば完成すると思っていた。だが現実はそれほど甘くはなかった。結局数ヶ月の時間を費やしてしまった」


 悔しそうにフランシスコは言う。


 火山の麓にあるという先住民の聖地。それがどういったものなのかレオナルドは想像する。さらに巨大な石像があるのか。それとも神殿などの巨石文明が眠っているのか。


「長い時間がかかったよ。だが準備は整った。そして今日の午後、いよいよ聖地の探査が始まる」


 フランシスコは厳かに台詞を締め括った。自分が開発にたずさわったロボットが、太古の文明に侵入していく。その様子を想像して、レオナルドは全身を震わせた。

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