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希望への譚詩曲ー受け継がれる光ー エピローグ

完結


戦争が始まる。

戦いへと向かう若人達は、一途に願った・・・唯、帰りたいと。


ロッソア帝国との戦争が激化するにつれ、若い少年少女達にも召集が掛けられた。


戦時教育の中、繰り上げ卒業が行われ始めた。

少年達は否応も無しに軍隊に放り込まれる事になった。


そう、公立の幼年学校でさえも。



「それじゃあ・・・マモル」


式典が終えられた後。


ミハルは軍服の姿で弟に別れを告げようとしていた。


「ミハル姉さん!お願いを・・・約束を守って!」


涙ぐむマモルに精一杯の勇気を振り絞って。


「分かってるよ!きっと帰るから・・・ね!」


小さく手を振り約束を誓う。


戦争のさなか、姉弟はお互いを想って別れを告げる。


挿絵(By みてみん)



砲術学校で優秀な成績を修めれたミハルは、即刻実施部隊に配属される事になった。

行く先は前線の戦車部隊。

砲手として配属を命じられたミハルは、己が運命など知る由も無く。


「マモル!お姉ちゃんが帰って来るまで待っているんだよ?

 もし、お母さん達の事が解ったら教えてよね?」


「うん!骨の一欠けらでも見つかったなら!」


二人は冗談を言い合って、笑顔で別れる事にした。


両親が研究所の爆発に巻き込まれて死んだのは、もう2か月以上も前の事だった。

それからという物、ミハルは半ば強制的に軍隊へ入隊させられ、

換わりに弟マモルが幼年学校へ編入させられた。


ミハルは弟には黙っていた。

自分が軍に入る事に因って、弟の身を救う事が出来ると考えていた。


身寄りのないフェアリアで、姉弟が生きていく為にはこうするより他は無いと。

喩え、自分が弾に倒れたとしても・・・


両親が死んだとは知らされていたのだが、痕跡は残っていなかった。

遺体を埋葬したいと願い出ても、物証が残っていなかった。

喩え髪の毛一本でも受け取りたいと願っても、軍は何も返してはくれなかった。


だから、残ったマモルに託していたのだ。

両親について何か情報があれば知らせて欲しいと。

せめて自分が生きている間だけでも。


「マモル・・・お姉ちゃんは・・・諦めないよ?

 だから、マモルも・・・強くなってね・・・」


立ち去るミハルに手を振り続ける弟。

後ろを振り返らずに旅立つ姉。


運命は二人を切り裂くのだろうか?

運命は新たな門出を紡ぎ始めれるのか?



フェアリアとロッソアの戦争は数々の悲劇を生む。

それが戦争という物の実情。


マモルの視界からミハルが消える。

まるで儚い少女の影が消えて行くように、どこかに旅立ってしまう様に・・・







フェアリアではもう春を終えたというのに。

ここではまだ雪や氷が野を埋め尽くしている。


高く聳え立つ壁の様な山々に囲まれた辺鄙な土地に、急ごしらえの工場が立ち並んでいた。

まるで汽車の様に煙突からもうもうと煙を吐き出しながら。


「ここが・・・新たなる場所か・・・」


眼鏡の縁を持つ手が停まる。


「研究に必要な電力は備わっているんだろうな?」


従う者達に問い質す将官が訊ねた。


「勿論です閣下。

 ここでは何を置いても最優先ですから」


応えた者に頷いた召喚の軍服は、ロッソアの少将を表している。


「彼が造る兵器がこれからのロッソアを、世界一等国に押し上げるだろう」


反り返って部下に言い放つ少将が、連れ立つ男に目を向ける。


「遥々装置まで運んで来たのだからな。

 期待しておりますぞ、教授殿!」


運搬車両が数十台も連なる中、一台のトラックに取りついた男へ声を掛けた。


男は聞こえなかったのか、聞こえていても無視したのか。

黙ったまま、荷物を観ていた。

いや・・・小さく何かを呟いているようだった。


「必ず・・・救ってみせる。

 待っていておくれ・・・ミユキ」


荒涼とした盆地に一陣の風が舞う。

トラックに乗せられた容器が風に煽られた荷物を晒した。

見え隠れする容器には、何かの液体が充填されているようだ。


薄緑の液体の中には、人影らしき物が見えたのだが。


「さぁ!早く研究所ラボへ運び込まないか!ロッソアの軍人共!」


トラックの進発を促すのは黒き瞳と化したマコト。


フェアリアに巣食う謀反人達に売られた、プロフェッサー島田の声がウラル荒野に流れた。








エリーザ皇太子姫とリマンダ第2皇女が哂った。


「いい気味よ!老いぼれ皇王なんか直ぐに死ぬわ!」


皇太子姫ともあろう者が、父であり皇王でもある国王を笑う。


「ホント、このまま死んじゃえばフェアリアもお姉様のものですものね」


第2王女が諫める処か一緒になって嘲笑っていた。

二人は皇王の身体が病に冒されたのを話し合っているのだ。


「そうなればこのフェアリアとロッソアとの戦争だって終わるのよ。おじい様にかけあってね」


「そうすると、エリーザ姉様が救国の皇女ってことになりますね」


ひそひそ話を交わす姉妹に、眉を潜ませるのは。


「そうは思わなくてユーリ?まぁ、あなたの様な下賤の娘には関係ないでしょうけどね?」


あからさまに蔑まれて、ユーリは身体を震わせて耐えていた。


((カツカツカツ))


靴音も高く王宮の広間に入って来たのは。


「お姉さま方、このような場所で管を巻かれておいででしたか。

 早く会議場へお越し願えないでしょうか?」


皇族の軍服に身を包んだ金髪の乙女。

澄んだマリンブルーの瞳が姉達を見据える。


「会議は一刻も遅れてはならない議題を抱えているのです。お早く!」


ユーリは真摯な言葉を告げる乙女をじっと見た。


「あなたに言われる筋合いはないわ!控えておきなさいよリーン!」


エリーザがさも、つまらなそうに言い放った。


「第4皇女の分際で!皇王に皇太子と任ぜられるとお思い?」


リマンダも顔を逸らして足気にする。


「リーン・・・あなたはどう思うの?

 皇王おとう様に内諾を求められているのでしょ?次期王になれと?」


ユーリは言葉を和らげ乍ら訊いたのだが。


「お3人共、そんな事は今話している時では無いと、何故解られないのですか!」


リーンは凛々しい瞳を向けて答えてくるだけだった。


「そのような事は皇王様が勝手に仰られているだけです!

 今は戦時下なのですよ、どうしてそのような無粋な話をなされるのです?!

 私は間も無く戦地に出ます、今の話は聞かなかった事にしますから!」


挿絵(By みてみん)


踵を返して立ち去るリーンに、ユーリは手を指しだして停めようとしたのだが。


「そうね、あなたが弾に当たれば問題にケリがつくという物」


「さっさと前線にでも行くと良いのよ!」


上の姉達が嘲る声が、ユーリを停めてしまった。









荒野に嵐が舞い起こる。


鋼の嵐が。


人の命を奪い去る。


鋼鉄はがねの群れが襲い来る。



それはやがて悪魔の如く人の魂までも貶める。


闘う者達の心までも貶める・・・生き残ったとしても。




フェアリア戦車隊は無謀にも数を数倍する敵に挑んだ。


圧倒的戦力の差を如何ともし難く。


滅び消えるのはフェアリアの部隊。


意味ある闘いとも思えない戦闘は数時間の末に結末を迎えた。



フェアリア軍戦車1個連隊の壊滅という結末で。


最期まで残った軽戦車が撃破されて。


唯の一両さえ生き残れなかった戦場。


敵味方双方の犠牲者たちの怨念が渦巻く荒野。


ロッソア軍は歯向かい、勇戦した敵軍の将兵を根絶やしにせんとした。

捕虜も、辛うじて生き永らえた怪我人も。

全て・・・その場で抹殺した。


地獄・・・そう、ここは地獄の戦場。


敵も味方も無い・・・唯、あるのは血に飢えた悪魔達だけ。


そこには希望など欠片も無かった。


独りを於いては。


唯の一人・・・そう。


彼女を於いては。


仲間を残し、味方に通報するべく奔る少女以外は。


彼女は生き残る事になる。


殲滅した連隊で、唯一人の生還者として。

地獄を見た唯一人の死神と云われて。


悲しみに暮れる瞳の中に、一欠片ひとかけらの蒼き光を宿し。


闘いに心を穢され、闘いに友を奪われ。


唯、少女は奔った。




たった一つの約束を守ろうとして・・・


必ずいつかは・・・


きっと、果たせると諦めずに・・・





引き継がれる運命。

受け継がれた力。


そして・・・愛


Contined on next time!

これにて「始まりの物語」は、終ります。


残された二人の子供達に待ち受けていた運命とは?!

ミハルは戦場で生き残る事が出来るのでしょうか?

マモルは姉と再会出きるのでしょうか?


そしてマコトは?機械に封じたミユキを救い出せるのでしょうか?


物語はフェアリアの運命と共に紡がれていくのです。

暗躍する者、国を想う者・・・そして、悪魔達が犇めき合う運命の世界で・・・


<Continued On Next Time>


「魔鋼騎戦記 フェアリア」 へ

https://book1.adouzi.eu.org/n7611dq

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