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フェアリア皇国 Act-7

後一歩・・・

後少しで研究成果が出せる。


だが、マコトはそれ以上の実験を拒んだ。

かつて日の本でも拒んでいたように・・・

研究所に続く廊下を足早に通り過ぎる影があった。

過ぎ去る影に気付いていたマコトが、何くわない素振りでミユキを見る。


「まただよ、研究の進行状況を探りに来ていたんだな」


順調とは言えないが、確実に進歩する魔鋼技術を何者かが探っていた。


「そうね、この国も物騒になって来たから。

 早く兵器化出来るのを、狙っているのじゃありませんか?」


マコトの心配がミユキにも分る。


「そうだろうな、ロッソアとの交渉も巧く進んでいないようだからな」


他人事のように答えるマコトが、何を憂いているのか。

それは・・・


「戦争になんて使われたくはありませんものね、あなた」


目の前に備えられた魔法の機械。

日の本で魔鋼機械と呼んだ、あの魔砲の力を引き出す機械が据えられていた。


「ああ、これはリーン王女を救う為に造ったのだからな。

 人を救う為に造ったのを、人を殺める道具にはしたくは無いからね」


稼働する魔鋼機械。

そこには日の本では作れなかった魂転送装置が出来つつあった。








「お母さんお帰りなさい!」


エプロンを着けたミハルが出迎える。


「あらミハル?こんな時間までお料理していたの?」


顔にクリームを着けたままで迎えたミハルが。


「あっと・・・いや、あのね。ちょっと訳ありなの」


12歳になったミハルは、あの紅いリボンで髪を結い上げ少しだけお姉さんっぽく振舞うようになっていた。


「訳ありって?何かあるの?」


「い、今は言えないよ!ダイニングに来てくれれば分るから!」


ミユキの手を取って誘うミハルに小首を傾げたミユキが、誘われるままダイニングに来ると。


「お母さん!お誕生日おめでとう!」


「ミユキママ!おめでとうございます!」


マモルとお隣に引っ越してきた茶髪のルマが、祝いの文句を贈る。


「えっ?!私の?誕生日を祝って?」


ダイニングテーブルにはミハルが苦労して造ったのか、形が少々歪なケーキが載せられていた。


「これを造る為に?ミハル・・・」


去年までは自分の誕生日なんて言葉だけで終わっていたのに・・・

それが今は、娘が自作のケーキで祝おうとしてくれている。


「ぶぅ、僕達も手伝ったんだからね!」


マモルがミハルだけで造ったんじゃないと拗ねる。


「何言ってるのよマモル!殆ど私独りで作ったんじゃないの!」


顔にクリームを着けたままのミハルが言い募る。


「そうそう!ミハル姉は頑張った!認めるぅー!」


マモルの同級生でもあるルマが、うんうん頷き笑う。


「みんな・・・ありがとう。ありがとうね!」


感動したミユキが涙ぐんで感謝の言葉を返した。


「良かったぁー、お母さんに喜んで貰えて!」


ほっとしたミハルが笑った時・・・


((ピィー))


キッチンでケトルの蒸気が吹き上がった。


「ぎゃっ!お湯を沸かしてたの忘れてた!」


飛び上がって慌てるミハルに、


「肝心な事を忘れるの・・・治らないね?」


マモルが呆れたようにミハルに言うと、ルマもミユキも笑うしかなかった。





娘と男の子の母として。

今日ほど嬉しく思えた日はなかった。


一生懸命作ってくれたバースディケーキ。

いろいろ考えて書いてくれた手紙。

どれもが生きて来た証でもあり、母の勲章でもあった。


何度も読み返しては涙ぐんで、幸せを感じていた。

寝静まったダイニングで、ミユキは感謝し続けていた。


「ミユキ・・・あの子達からかい?」


「あ、あなた。ごめんなさい気が付かなかったの」


知らない内に帰って来ていたマコトに肩を抱かれてやっと我に返った。


「ミハルもケーキが焼ける歳になってたんだね?」


ダイニングに残っていたケーキを観て、何があったのか云われなくても分かっているようだった。


「そうなの・・・もうそんな年になっちゃったのミハルも、マモルも」


抱かれた手を押し抱いて、ミユキが感慨深げに呟くと。


「そうだね、時間が経つのは早いと言うけど。

 僕達もいつの間にか歳を重ねてしまったんだね?」


マコト迄もが、感慨深げに年寄り臭いセリフを言う。


「あら、あなたは私の事をおばさんになったというの?」


微笑んだミユキが、


「あなたの子なら、まだ一人や二人は造れましてよ?」


自分がまだまだ若いのだと言い返した。


「ふぅーん、本当に若いと言い張るんなら・・・こうだ!」


後ろから抱きしめて、ミユキに笑い掛ける。


「うふふっ、あなたったら!まだまだ若いじゃないの!」


いつも遅くまで働き、疲れが溜まっているというのに。

二人はお互いの心を通わせて・・・


「あれ・・・お父さんお帰りぃー」


トイレに起きて来たミハルが二人の背後から声を掛ける。


「わひゃぁーっ?!ミ、ミハル?!」


「たっ、ただいまっミハル?!」


お邪魔虫ミハルは、ボケっとしたまま通り過ぎた・・・






_________________






幸せな日々ばかりじゃないのは、初めから覚悟していた事。

目的の早期収拾を図る為には、家族を犠牲にしなければならないのも承知の事。


マコトはとある実験に着手出来る処迄漕ぎ付けたのだが・・・


「如何にしても・・・だ。

 誰かを犠牲にする訳にはいかないんだ、それが成功への道だとしても!」


研究者達が勧めたのだが。


「そうです、私達は神ではないのですから。

 人体実験なんて行ってはいけないのです、私達夫婦は認めませんから!」


頑なに拒む島田夫婦に、それ以上研究を進める事が出来ない状態になっていた。


「何か方法が見つかるまで、凍結した方が善いのではありませんか?

 それよりも、他に方法があるのかの可能性は?」


何かを急ぐのか、とある研究者が苛立ったように訊いて来る。


「いいえ・・・無いと思います」


ミユキがマコトの代わりに答える。

言い募った研究者はバツの悪そうな顔で部屋から出て行ってしまった。


「どうやら、懐柔されていたみたいだな」


魔鋼技術だけではなく、魂転移装置に付いて探っている節があった。

その研究者には探る事は出来ても、開発するだけの技量が欠けているようだった。


「こうまでして、奪いたいのかしら。

 魂を転送する技術が・・・何に役立つというのかしら?」


ミユキにも分ってはいなかった。

だが、その技術が齎す本当の訳は、開発者のマコトには痛い程解っていた。

日の本でも開発していた・・・あの弾を造る事が出来るのだと。


「今日は基礎部分の点検でも行おう」


話を逸らして、マコトは仕事に打ち込む事にした。

ミユキは疑いもせずマコトに寄り添う。


二人の東洋人を遠巻きにして、他の研究者はそれぞれの分野に精を出し始めた。




研究が一段落したとはいえ、志半ばの状態であるのには違わなかった。


その日もこれと言った成果が期待できない一日に終わる筈だった。

そう・・・良く晴れた秋の昼下がり。


それが現れるまでは・・・



「あなた、偶には外で気晴らしでもいかが?」


珍しくバスケットを携えたミユキが誘ってきた。


「あっ、それなら私もご一緒させてくださいませんか教授!」


横合いから金髪の女性研究者が頼んで来る。


「ええ、いいわよキュリアさん。ほらあなた、行きましょうよ?」


マコトの腕をとって3人で王宮に近い丘へ向かう。



丘にある野原には野花が咲き、良く晴れた秋空の元で風にそよいでいる。


「ああーっ、何もかもこんな晴れ空みたいに澄んでいたら良いのに!」


連れ立って来たキュリアという年若い研究者が背伸びする。


「あら、キュリアさんったら。大人びた事をいうのね?」


シートを拡げたミユキがバスケットの中身を取り出して渡すと。


「ありがとうございます!でもぉ、どうして世界はこんなに諍いばかりがあるのかなって」


風に煽られた金髪を手串で直したキュリアがサンドウィッチを受け取って答える。


「キュリア君のいう事は尤もだと思う。

 どうして国同士でいがみ合うのか、国の中でも纏まらないのか・・・」


キュリアの言葉に相槌を打つマコトも、心が晴れない様子だった。


「そうねぇ、この空みたいにはいかない。

 風に雲が吹き流されて行くみたいには出来ないようになっているのかもね?」


空を見上げる3人が、昼食を取り始めた時だった。


「きゃあああっ?!」


女の子の絶叫が野原に響き渡った。


「えっ?!なんなの?」


キュリアが立ち上がり声の聞こえた方に振り返る。


「いやあああっ!」


再び、違う少女の叫びが。


「教授!あっちです!」


声の聞こえて来た方を指差し、キュリアが走り始める。


「待て!キュリア君!」


マコトがキュリアを追いかける。

ミユキの身体も即座に反応する・・・が。


ー  なにかしら、このざわめく心は?


何かの危険を感じ取ったのは、自分が元々闇祓いの巫女だったからか。

それとも、人知を超えた魔砲の為せる業なのか?


キュリアを追うマコトの眼に、得体のしれない影が映り込んで来る。


影の下には白いドレスの少女が二人・・・


「あっ?!第3王女殿下?それにマジカ嬢?」


走り寄ろうとしたキュリアが立ち竦む。

二人の少女に被さる影を見たから。この世では観てはならないモノの影を、見てしまったから。


「あれはっ?!まさか・・・悪魔?」


ミユキの心が告げた心配が的中してしまった。

現れた影は二人の少女に覆いかぶさり、闇を振りかざしている。


「このままでは!なにかアイツを祓う得物はないの?」


魔法石さえ持っていれば、巫女の魔術で追い払う事も出来ただろう。

だが、今は何も身に着けてはいなかった。

立ち竦んでしまったキュリアを引き離す事しか出来なかったのだが。


「やめろぉっ!」


マコトが自分を顧みず、影に向かって突進する姿が目に飛び込んだ。


「やめてっあなた!」


咄嗟にはどうする事も出来なかった。

一瞬の事に対処できなかった・・・叫ぶ事しか。


((バシッ))


強力な電撃がマコトを襲う。

だが、屈せず突っ込んだマコトによって、影は吹き払われた様に掻き消えて行った。

あたかも自分の身を顧みなかった英雄的行為に、たじろいだかのように。


「あなたぁっ?!」


少女に覆い被さって倒れ込んだマコトに叫ぶ。


叫んだと同時に足が動いた。

キュリアをその場に置いて、夫に駆け寄る。


「あなたっ!しっかりして!」


倒れ込んだマコトに叫ぶのだが、起き上がってはくれない。


「嫌っ、嫌よマコト!あなたぁっ?!」


必死に取り縋り、呼び覚まそうと揺さぶると。


挿絵(By みてみん)


「ミユキ、僕は大丈夫だ。それよりこの子達を!」


起き上がったマコトが危急を告げるのだが。


「あっ、あなたっ!その傷は?!」


ミユキの顔から血の気が退く。

マコトの額に流れる血を見てしまったから。


「大丈夫と言っただろ!構うんじゃない!

 キュリア!応援を呼んでくれ、大至急だぞ!」


ミユキが立ち竦んでいる為、キュリアに頼んだのだった。


「あなた、あなた!マコトォッ?!」


流れ出る血に動転していたミユキが、額の血を停めようとハンカチを傷口に宛がい叫んだ。


「ミユキ、心配しないで。僕は死にはしないから。

 でも、もう魔砲の力は奪われてしまったんだ、今の悪魔に。

 ユーリ姫を闇に連れ込もうとした悪魔を撃ち祓う為に使ってしまったんだ」


心配のあまり泣いてしまっているミユキへ、謝るように教えるマコト。


「そんな事はいいの。あなたさえ無事ならそれでいいの!」


傷口から流れ出す血を停めようと必死に宛がいながら救援が着くのを待っていた。

マコトが護った二人の少女は、しかし意識を喪ってしまっているようだった。


ユーリは悪魔に襲われ背中に傷を負い、

もう一人のマジカ嬢は、ユーリを庇ったのか・・・白いドレスを真っ赤に染めてしまっている。


マコトが庇わなければ二人共確実に死を与えられていたであろう・・・


瀕死のマジカを救うのは無理かに思えた。


そう・・・もし、マコトがこの国へ来なければ。

もし、魔砲の機械がそこになければ・・・・


救援者が少女達を研究所へ運び込んだのは、マコトがある決断を下した時の事だった。

突然の襲撃だった。

まるで悪魔が何かを企んでいる様にも感じられた。


だが、2人の命を救わんとしたマコトは・・・


悪魔がフェアリアに存在していた。

古より復活しようと目論んでいた・・・

巨悪は何を目論んでいるのか?!


次回 フェアリア皇国 Act-8

君は自分の手で大切な人を貶めるというのか?!人類の希望を投げ出すというのか?!


今回は、キュリアさん!覚えてるぅ?

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