表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/55

フェアリア皇国 Act-3

蒼乃が告げた。

フェアリアへ行って欲しいのだと。

それが国と国との取引なのだと・・・

ミユキはどうするというのか?

見る影もなく落ち込んだ蒼乃の前で立ち尽くした。

死の宣告にも思える言葉を聞いて・・・


フードを被ったままの蒼乃が告げる。


「ミユキ、あなたを彼の国へ旅立たせるのは辛い。

 辛いけど行って貰いたいの、日の本の為にも。

 彼等の国に巣食う闇と立ち向かって貰いたいの・・・」


言葉少な気に蒼乃が頼む。

憔悴しきった瞳を向けて。


「それは蒼乃も願うの?

 月の住人が告げていた運命の日が、その国で迫っているというの?」


想い疲れ、辛労しきっている蒼乃を観て、自分を想ってくれているのが解るから。


「日の本の為とも言ったよね、その訳を教えて?」


蒼乃は国の為とも言った。

その理由を聞きたかった。

そうでなければ蒼乃はきっとこれほど、悩まずに済んだであろうと思ったから。


「彼の国・・・北欧の王国フェアリア。

 その大公嫡男が公使として訪れたの。

 その子息であるカスター君が告げたのよ、悪魔が現れた事を。

 囚われの姫を救い出す為に助けを寄越して欲しいと。

 闇祓いの巫女を派遣して貰いたいと・・・要求してきたの」


力なく話し始めた蒼乃を見詰め、魔砲の力を欲している意味を訊ねる。


「その国には魔法使いは居ないというの?

 悪魔祓いのエクソシストは存在しないの?」


外国では闇祓いの魔法使いをこう呼んでいた。

神の御力みちからと呼んでもいた魔法力の備わった者の事を。


「居たとは聞いてるわ。でも、駄目だったようね。

 悪魔の呪いによって永遠の眠りに貶められた姫を救うには。

 どんな悪魔なのかは分かったらしいけど、相手が悪いそうなの。

 その悪魔はフェアリア古来から存在するルシフェルという大悪魔。

 掴んだ魂を手放すには、相当の技量をもつ闇祓いが必要なようね」


そこで・・・と、蒼乃が目を向けて。


「ミユキの事を調べたフェアリアが救援を求めて来た。

 あなたを派遣させてくれというのなら、話は分かる・・・

 だけど家族全員で渡航しろと迫って来た。

 マコトも二人の子達もよ?どうしてか解るかしらその理由が?」


「えっ?!必要なのは闇祓いの巫女である私だけなのでは?」


思わず聞き返してしまう。

悪魔祓いに必要なのは自分独りの筈ではないかと。


疑問符を投げられた蒼乃が首を振ってそうでは無いと教える。


「フェアリアはあなたを口実としてマコト迄も、引き込もうとしているのよ。

 ミユキの主人である魔鋼技師をも自分達の国に連れ去り、技術を取り込もうとしているのよ」


鳶色だった蒼乃の眼が鈍く澱んでいるのが解る。

闇に囚われた者のように。


「彼の国は大国ロッソアと事あるごとに揉めているの。

 尤も、ロッソアとは我が国も利権を鬩ぎ合ってはいるけどね。

 フェアリアはイザという時の為にマコトの技術を欲しがっているの。

 魔鋼の・・・戦車を持ちたい為に。そして・・・」


一度言葉を切った蒼乃が、逡巡してから教えたのは・・・


「今我が国ではある計画の元、秘密裏に巨悪と闘うべく魔鋼の兵器を開発しているの。

 その第一人者でもあるマコトを欲しているのよ、フェアリアという国は。

 あなたの主人であるマコトが計画主任を務める、

 神と闘う術を秘めた極大魔鋼弾を手に入れたがっているのよ!」


蒼乃の口から極秘にされて来た計画が齎された。


「ミユキの未来を掴もうと願ったマコトにより、発動された計画。

 神を相手に戦える魔砲の弾・・・

 それを一度人へ向けて放つ事になれば、どれ程の犠牲を産むかは判らない。

 あってはならない魔法の技術だともマコトは言っていたわ」


知らなかった。

教えてくれていなかった・・・夫は。

運命と向き合ってきた自分の為に、内緒で抗う術を開発していたなんて。


「あの人が・・・私の為に?

 そんな危険な武器を造っていただなんて」


知らされた事実に、ミユキは愕然となる。


「違うのよミユキ。

 マコトはあなたを想うだけじゃないの。

 いずれ訪れる闇と立ち向かおうとしているだけ。

 人類に災禍が訪れるのを指を咥えて観てるのが耐えられなかったのよ。

 あの人は世界を護る為に立ち上がろうと決めたの・・・あなたを護る為にも」


蒼乃は言ってくれた。

愛する者を護らんとするマコトの意志を。


「そう・・・だったのね。マコトは人類全てを悪魔の機械から護ろうと願ったのね」


「そう・・・それなのに。あなた達をフェアリアに送り出さねばならなくなった。

 私という国の宰相たる宮は。

 彼の国との友好を守り、彼の国との条約の為に・・・あなた達に命じねばならないの。

 ・・・フェアリア皇国へ行けと・・・・・」


両手で顔を覆い、泣き咽ぶ。

言い渡した時、蒼乃は自らの心まで崩れ去らしてしまった。


「蒼乃・・・良く解ったわ。

 私達家族をフェアリア皇国へ差し向け、囚われの姫を救い出せば良いのよね?

 その後はどうなるの?日の本に帰って来ても良いのよね?」


泣き崩れた蒼乃を見下ろすミユキが訊いた。


「えっ?!ミユキ?」


泣くのを停めて蒼乃が訊き返す。


「あの人が認めるのなら、私も一緒に往くわ。

 マコトが行くというのなら、私はどんな場所にだって伴に行くだけ。

 それが私の決めた誓いだから、それが私の居るべき場所なのだから」


どこまでも。

ミユキは主人と離ればなれになる事を拒んでいた。

マコトが行くというのなら、共に往くだけだと。


「ミユキ・・・帰って・・・来れるのよね?」


「勿論。必ず蒼乃の前に戻って来るわ」


顔を向けた蒼乃に誓った。

心からの微笑みを浮かべて。


「マコトと一緒に。

 二人の子と共に・・・ね」


帰ると・・・帰って来ると約束を交わした。


蒼乃の影に光が差す。

辛労に疲れ果てて澱んでいた瞳に、微かな希望ひかりが差し込んだ。


「ミユキ・・・許して。

 あなたから認めて貰えるように仕組んだ私を。

 あなたの運命を知る者なのに・・・渦中に放り込む様な私を許して!」


謝る蒼乃から、新たな涙が零れ落ちる。


「許すも何も、蒼乃は私の為に身体を壊す迄心配してくれているんだもの。

 蒼乃の為だけじゃないの、私も・・・マコトだってそんなのよ?

 日の本のみんなの為、人の世界の為。

 生ける者全ての為にも、悪魔と闘わなきゃいけないの。

 だから・・・私は行くの。だから謝らないで、蒼乃」


そっと泣き崩れる蒼乃の肩を抱く。


「心配なのは私も同じ事。

 私だけの話でもないのを十分理解しているつもりだから」


抱き締めたミユキの身体も震えていた。


「私達、家族全員が帰れなくなるかも知れないのも分かっているつもり。

 でも、自分の運命に逆らってみせる。

 生きて再び戻って来ると約束したのだから蒼乃と。

 だから・・・お別れは言わないでおくわ。

 さよならなんて言って別れたりしないからね?」


屑折れた蒼乃から離れて、ミユキが告げるのは。


「また・・・逢おうね?もう一度、この図書館で。

 笑って再会出来るように・・・往ってきます蒼乃!」


後退り、蒼乃の元から離れる。


「い・・・嫌っ・・・やっぱり!

 やっぱり嫌なのよ!私の元から離れないで!

 あなたが居なくなるなんて耐えられないの!

 ミユキがこの国に居ないなんて耐えられないのよ!」


置き去りにされた蒼乃が手を伸ばす。

迷い悩んだ結果、こうして話に来たというのに。

会えなくなると分って、心が砕け散ってしまった。


「待ってミユキ!私も一緒に連れて行って!お願い傍から離れないで!」


耐えきれなくなった蒼乃の叫びを背に受けながら、ミユキは走り去る。

ー自分も同じ気持ちなのー と、言えずに。


蒼乃の立場を慮って・・・最期の声を聞き流した。








船旅は3週間にも及んだ。


目前に拡がる大地の色は、曇り空に陽を遮られて燻ぶって観えた。


自分に待ち受けている運命を表しているかのように。

大切な人だと想うから。

大切な人の頼みだと判っても。


ミユキは蒼乃との別れを決断した。

島田家族はとうとう、闇と陰謀が渦巻く<フェアリア皇国>へ渡った・・・


次回 フェアリア皇国 Act-4

フェアリアには悪魔が住んでいる。そう・・・人の闇と言う悪魔が!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ