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東洋の魔女 Act-7

激闘続く。


魔鋼の力を放つミユキ。

彼女の力は誰の為?

エギレスの超重戦車は5両となっても進撃を続ける。

ゆっくりと観える動きは、彼等にとっては最大速度でもあったのだが。


砲撃を開始した魔鋼戦車隊第1中隊の魔鋼チハ改2両が、エンジンを噴かした。


「全速力で敵左側に向かうんだ!

 第2中隊と反対側へ廻り込め!」


マコトの檄が飛ぶ。



指揮官車であるミユキの1号車が、キャタピラに草を噛みながら進みだした。

中隊長車に併せて各車が小隊ごとに前進を開始する。


「光野中尉、魔鋼状態完了!

 本車はチハ状態から変わった模様ですっ!砲弾並びに砲尾が変わりました!」


装填手のヒロコが砲手でもあるミユキに報告した。

眼に映るのは今迄の砲とは違う形状の75ミリ砲。


蒼髪を靡かせるミユキの横にある砲が、それまでの99式戦車砲とは全く別の砲となっているのが解る。


「これが・・・神官巫女ミユキの力なのか?」


呟くマコトが砲弾を持つヒロコに目を向けて。


「砲だけではなく、砲弾までもが変えられたというのか?

 魔鋼戦車に併せて造った特殊砲弾だったのだが・・・まさか本当に替わるとは?」


特殊砲弾の中には、魔鋼機械と同じ魔砲の力を受けて変化する部品を組み込んだのを思い起こして。


「砲だけが変わっても、砲弾を番えなければ意味がない事は分かっていたが。

 実際に目にするのと聞き齧るだけでは、受ける衝撃が違う物なのだな。

 ミユキの力がそれだけ凄いという事なのかもしれないが・・・」


神官巫女ミユキの魔鋼力は、魔法使いとして最上位に在るのだと知らせられていたのだが、

眼にした魔鋼の変化に戸惑いを隠せなくなる。


「これが・・・魔鋼。

 これが神の力を受け継ぎし者の力なのか?!」


蒼髪となり、瞳までもが碧く染まったミユキ。

魔法の巫女服を纏う娘は、己が力を放っている・・・魔砲の力を。


「車体までも替えれるとは。

 どれだけの魔力なのだろう?この力が意味するのは誰の為なのだろう?」


砲身を確かめにキューポラに登ったマコトが観た車体の変化。

通常状態でもチハとは違ったのに、今観える砲身は長さを倍以上に増大させていた。

それを支える砲塔も、今迄より更に大きくなっている。

装甲がどれくらい増厚されたのかは解らないのだが、以前よりも増しているのは間違いなさそうに見えた。


砲塔だけが替えられたのなら、重量が増えてエンジンや足回りに負担がかかり、

前進スピードが極端に落ちる筈なのだが、一向に気配を感じられない。


「つまり・・・車体も何らかの変化があったということか?」


振り返り車体後部を観るのだが、それと言った変化は分からなかったのだが。


「少佐!出力に余裕がありますので速力を上げても良いでしょうか?」


車内からアキナの呼びかけが聞こえた。

砲塔が大きくなった事に因り、重量が増えたというのに?

操縦手はスピードを上げても良いかと言って来たのだ。

では、どれくらいの速度が出せるのか?


マコトは興味を惹かれ、命令を下した。


「よしっ!全速力で走れ!

 各車に命令っ、全速力を以って敵側面に廻り込め!」


走り出した車体が増速されていく。

マコトが他車と見比べる。

魔鋼状態の魔鋼チハと同速か、それよりも僅かに早く感じられる。


「そうか・・・砲だけではなく全てを変えたという事か?!」


ミユキに渡した蒼き宝珠の威力も加わったという事なのだろう。

マコトは蒼乃宮様の贈り物に感謝の心になる。


「ミユキ、どうだい?

 何か不都合な事でもありそうかい?」


砲手席を見下ろすマコトの眼には、照準器を見詰めたまま動こうとしないミユキが映っていた。


「ミユキ?どうかしたのか?」


不意に不安が過った。

身動き一つしなくなったミユキに。


キューポラから飛び降りたマコトがミユキの肩を持とうとした時、電撃の様なスパークが奔った。


「いかんっ?!暴走か?」


魔砲の力が自分の意志までも飲み込もうとしているのか。

そう感じたマコトがミユキに呼びかけようとした。


「・・・触っちゃ駄目だよ。今は魔砲の力が溢れてるから・・・

 魔力に触れたら危ないから・・・闘いが終わるまで待っててね?」


振り返ったミユキの顔は、いつもに況して柔らかかった。


「ミユキ・・・?君は一体?」


蒼き瞳を見詰めるマコトには、その表情が誰かと瓜二つに思えた。

そう、どこかで観た事のある優し気な表情の娘に。


「まさか?君は?!宮殿で話しかけて来た?」


マコトの声に、ミユキの顔が少しだけ笑った。






___________





大貫中隊が、重戦車部隊の右側面に廻り込もうとしていた。

味方からの砲撃に因り1両が撃破され、敵は慌てて自分達に向けようとしていた砲を正面に向け直していた。


「しめしめ!敵は魔鋼チハ改の射撃に釣られたようだな!

 砲を魔鋼チハ改に向けたという事は私達には興味が無いという事だよな!」


大貫中尉が細く笑む。

自分達の47ミリ砲でも、側面攻撃だと有効な射撃が出来ると踏んで。


「指揮官に連絡っ!<我敵側面に到達セリ!攻撃を開始する>とな」


目前に迫る超重戦車の巨体。

それは何処へ目掛けて射撃しても命中させれる程。


「第1中隊に続け!魔鋼状態に入るんだ!各車攻撃始め!」


矢継ぎ早に攻撃を命じる大貫中尉は、もう一つ敵がいる事を忘れていたようだった。


「敵軽戦車部隊のM3、引き返してきます!」


無線手の叫びに漸く事態がままならない事を悟らされた。


「くそっ!この肝心な時にっ。しゃらくさいっ先ずはM3からだ!」


大貫中尉は偵察部隊のM3軽戦車を先に葬る事を優先させた。


目の前に居る大物ばかりに気を向けていては、小うるさい軽戦車に邪魔されると考えたのだ。

6両のチハと、5両のM3が超重戦車の横で砲撃戦に突入する。


スピードで勝るM3は、魔鋼状態のチハにもおくれを見せずに戦う。

砲撃力で勝る魔鋼チハは、近寄られまいと射撃を始めた。


挿絵(By みてみん)




「第2中隊が戻って来た軽戦車部隊とやり合ってましゅっ!」


ナオが無線から聞こえた交戦状況を報じる。


「そうか、こりゃこっちだけで重戦車を倒さなきゃならんな」


ヒロコが次弾を持ったまま唸る。

操縦手のアキナは真一文字に敵右舷方向に突き進みながら、


「行進射撃を加えますか?それとも一時停車しますか?」


どのタイミングで射撃するのかと訊いてくる。


「敵の砲がこっちへ向けられてくる。

 停まってしまえば砲撃されてしまうわよ、走り続けて!」


ミユキが答える傍で、マコトは黙って見詰めていた。


<あの娘が・・・ミユキの中に居るのか?

 いや、あの蒼き宝珠に宿っているに違いない。宮殿で話しかけてきたように>




蒼乃宮から預けられた蒼き宝珠。


<如来の石>と共に霧箱に収め、宮殿から退出しようとしていた時の事だった。

周りには誰も居ないというのに、どこかから女性の声が話しかけて来たのだ。


「「・・・さん。マ・・・とう・・・さん・・・

  この宝珠を必ず渡して。護りたいから・・・・」」


咄嗟に霧箱を観てしまう。

そこから声が聞こえて来たと感じたから。


「誰なんだ、君は?!」


箱に向かって訊くなんて、正気の沙汰じゃないとは思ったが。


「「わたし?それは言えないよ・・・だって・・・

  とにかくっ、この宝珠に宿っているの、ルナの女神として・・・」」


答えられた事に、更に驚愕してしまう。


「君はっ、女神なのか?」


「「うん、そうとも言えるんだろうけどね・・・自分ではそうは思っていないんだ」」


女性の声は少々歯切れが悪く答えると。


「「あなたの好い人を護らねばならないの。

  彼女は選ばれし人なのだから・・・月の意志に選ばれた女性なのだから」」


なにか意味有り気に言って来る。

選ばれた人間という意味が、果たしてミユキに何を求めているというのか。


「女神様、あなたが言うのはミユキの事ですよね?

 彼女が選ばれたというのは何に対して選ばれたのですか?」


箱に向かって訊きたてるマコトに。


「「今は言えないけど、あなた達の娘が人の世を救罪してくれるかもしれない。

 この世界の闇から救う希望になってくれる・・・そう願っているのよ」」


箱からの答えが教えてくるのは。


「僕とミユキさんの子供?!娘だって?!」


マコトはミユキとの子供が出来る方に気が行ってしまった。

無理もないが・・・


「「・・・ちゃんと聞いてたのかしら?」」


月の女神と名乗った声が、ため息ともとれる声を出す。


「「兎に角よ。宝珠を必ず手渡し、力になってあげてね。

  あなたの持つべき石にも、乗り移れるから。

  戦闘の時に、力になってあげるから・・・手放しちゃ駄目だよ?」」


月の女神はこう言って話しかけて来たのだった。

その後も、度々頭の中に話しかけて来た。


ミユキに再開する前も、戦車隊を任された後も・・・





<ミユキに宿っているのか?>


ミユキを観てそう思ってしまう。

振り向いた顔には笑みが浮かんでいる。

もしも、ミユキではなく女神だとすれば、闘う事に力を貸してくれているのだろうかと。


そう考えたマコトに、ミユキがゆっくりと首を振った。

蒼き瞳で見詰めながら。


「ミユキ?ミユキのままなのか?」


傍で聴いているとしたら、これほど間抜けな問いかけは無いだろう。

女神の事を知らなければ、何を話しかけているのかも分からないであろう。


「マコト・・・私は私のまま。

 蒼き宝珠から力を与えられているだけ・・・そう。

 今は・・・光の・・・ミユキの・・・姿だから」


答えられた言葉の端に、ミユキではないことを伺わせていた。


やはり・・・と思った。

やはり月の女神がミユキに力を与えているのだと。


「・・・ミユキ。闘いが終われば元に戻れるんだよね?

 魔鋼機械が完全じゃないから、護ってくれているんだね?」


この魔鋼力が発揮できている訳は、女神の干渉があったればこそ。

ミユキ自身の力と、月の女神の力が合さって出来た変化だと解かった。


「そう。

 この機械は未だに不完全、力が強過ぎればどうなるか判らない。

 もしも心が闇に囚われでもすれば、忽ちの内に機械に飲み込まれてしまう」


マコトが初めて魔鋼の機械と出会った時にも、魔法少女が飲み込まれてしまった事がある。

闘いともなれば、そうなる可能性が高い。

人を殺す兵器に力を与え続ければ、心が闇の沈む事にもなるやもしれない。


「ミユキもそうなるのか?

 心優しき娘でも、闇に飲み込まれてしまうというのか?」


「・・・優しさ故・・・闇は取り込もうとするの」


ミユキの声を使い、月の女神が答えて来る。

蒼き宝珠に宿る女神が忠告して来るのは。


「優しき人なればこそ。

 あなたもこのも、闇が狙っているの。

 人が造りし悪魔の機械は、人をやがて滅ぼさんとする。

 その闇に打ち勝てるのは、やはり人の子たる者。

 あなたの娘が、そのきぼう・・・やがて時が経れば分かるだろうけど」


マコトに向けて話すミユキの声は、どこか悲し気に聞こえる。


「僕達が造った魔鋼の機械が人を滅ぼすというのかい?」


魔法を力に変換する事が出来る魔鋼機械。

その開発に携わった自分は、悪魔に魅入られた者だというのかと。


宝珠から力を与えられているミユキが首を振った。


「魔鋼機械が人を滅ぼす訳ではない。

 魔法が人を滅ぼす訳でもないの。いずれその時が来れば解る。

 人は人同士で殺し合いなんてするものではない・・・そう言いたかっただけ」


悲し気に声を震わせたミユキ。

女神がそう言わせたのだろうが、マコトにはミユキ自身がそう言ったようにも聞こえた。


「そうだよ、言う通りなんだよ。

 魔法の力は戦争になんか使っちゃいけないんだ。

 魔鋼の機械は闘う為なんかに使うべきじゃないんだ。

 分かってる・・・けど、今は国を護るのに必要なんだ・・・」


人類が永遠に苦しむ事。

それは自分達の想いを超えた何かが、争う事を拒めなくしている。

国家間同士のいざこざが、やがて大きな波となり戦争へと導いていく。

何時になれば人は争いを辞めれるのだろう。


どうせならば、幸せを掴もうと努力する<希望>こそが永遠であれば良いのに。


「ミユキ・・・いや、月の女神よ。

 我々人の子は、戦争など欲してはいない。

 魔法の力があるのならば、この世界から戦争なんて起きなくしてくれ!」


心からそう願いたかった。

人が人を殺す道具に、自分が携わっている機械を使われたくなかったから。


「その願い、いつの日にか叶うといいわね・・・」


そこ迄話したミユキの顔に、陰が差した。


「おしゃべりはこれでお終い。

 これでもう、話す事はないから・・・いつの日にかまた・・・」


喋り終えた月の女神が、宝珠へと還る。

その瞬間まで結界が張られ、時が停められていた事に気が付いてはいなかった。



「マコト・・・様?どうなされたのですか?

 私の顔に何か憑いているのですか?」


小首を傾げて見詰め返して来るミユキに、


「えっ?!アレ?ミユキ?」


自分が今の今迄、誰と話していたのか分からなくなった。


「ぼんやりしている時じゃないですっ、砲撃許可を求めます!」


凛とした声が耳を打つ。

ミユキが凛々しく巫女姿のままで、戦車戦を闘い抜こうとしている。


「ふふっ、今は・・・そうだな。

 目の前にある壁をぶち破らなきゃ始まらないんだよな?!」


誰に向かっての言葉だったのか。

聞き咎める事もせず、ミユキが急かすのは。


「マコトっ!私の全力全開を観てて!打ち破るからね!」


その声と言葉に、ミユキじゃない誰かを思い浮かべるマコトだった・・・


第2中隊は軽戦車とやり合っている。


ミユキはたった1両で立ち塞がる・・・仲間を護為にも。


戦闘は重戦車を倒せれるかにかかっていた?!

ミユキは残る重戦車を倒せれるのか?


次回 東洋の魔女 Act-8

君の魔鋼力は誰かを護る事が出来るのか?!それとも・・・・

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