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東洋の魔女 Act-4

発見した敵部隊に、砲撃を掛ける島田戦車隊!


第1ラウンドの鐘が鳴った!!

3つの小隊に分かれた偵察軽戦車部隊は、目標を捉える事に成功した。



「日の本の戦車だ!噂ではマチルダⅡ中隊を殲滅したらしいぞ!」


M3軽戦車に乗る車長が警告を発する。


「そうらしいな!だが、それはのろまなマチルダだから弱点を突かれただけの事だろうさ!」


応じる他の車長は気楽に思うのか、味方への悪態を吐く。


「そうだ、俺達のM3はマチルダの3倍も早いスピードを誇るんだ。

 敵に側面や後ろを盗られるへまな真似さえしなきゃ大丈夫さ!」


偵察軽戦車部隊の車長達は、自分達の乗る戦車に信頼を寄せているようだ。


M3軽戦車(LT-M3)は、確かに彼等の言う通り速力が備わっている。

魔鋼チハの全速力である45キロを上回り、58キロを出せた。

前面装甲も侮れない、魔鋼チハの最大50ミリを上回る51.4ミリ。

距離が離れれば当たる角度にも由るのだが、魔鋼状態ではない47ミリ砲弾を弾く事も可能だった。

そして備砲であるM6ー37ミリ砲だが貫通力の高く、距離457メートルで58ミリを貫ける性能を誇っていた。


M3は総合力では、決して中戦車である魔鋼チハの通常状態にも劣っていた訳ではなかったのだ。


そう・・・魔法の力を放つ前の状態ならば・・・だ。



彼等エギレス王国植民地派遣戦車隊に装備されていたM3型は、当時最新鋭の車両であもあった。

彼ら偵察部隊が日の本戦車について何も知らされていないのと同様に、

戦車隊を率いる指揮官達も、自分達の車両の方が優れていると信じ込んでいた。


「日の本の戦車など束になってかかれば、どうという事もあるまい。

 奴等に文明の差というモノを教えてやらねばならんな!」


偵察隊を指揮するエギレス将校は相手を完全に舐め切っていた。

9両の戦車で3両だけの敵に向かえと命じて。


そう・・・発見できたのは3両の中戦車だけ・・・だったから。


偵察部隊であるM3軽戦車9両は、3両の中戦車に真っ向から挑みかかったのだ。






「目標が500メートルまで近づく迄、砲撃するなと命じるんだ!」


こちらの12両に対し、向かって来るのは9両のみ。


「各車、左舷ひだりげんの目標から1番とする。

 小隊ごとに1両の敵を狙え、1撃で4両づつ撃破していくぞ!」


マイクを持ったマコトからの命令が各車に下される。


「勿体なくはないですか?500メートルならば各個撃破だって出来ようモノなのに?」


アキナが操縦席から見え始めた敵部隊の車両を確認して訊いて来る。


「確かに敵は小型の戦車だが、初めて対する敵の装甲を破る事が出来るか、調べる意味もあるんだよ」


第1撃で小手調べを放つ意味を答え、


「敵もそうだが、我々だって敵の性能を完全に把握している訳じゃないのだから」



4個小隊12両で最初に4両を仕留めようとするマコトの指揮に、反感を持つ者もいる。


「なによ、あんな軽戦車を怯えるなんて。

 やっぱり少佐は腰抜けじゃない。9両の軽戦車なんて突っ込んで撫で斬りにすればいいじゃないの!」


第2中隊長である大貫中尉がその一人だった。

血気盛んな娘である大貫中尉は、砲手にそう言ってから目前に迫る敵を観測して。


「真っ直ぐ突っ込んで来てるのは、こちらがまともな対戦車砲を持ってはいないと踏んでるからでしょ?

 軽戦車の装甲を破る事が出来ないと舐めているんでしょうに!」


大貫中尉が苛立っているのは、敵が舐め切っている行動を見せているからでもあった。


「観てなさいよ!第一撃を終えたら各個射撃で全滅させてやるんだから!」


マコトが何を考えて命じたのかも分からず、大貫中尉は持論を言い放った。

命じられる前に自分の中隊に命じようと考えて。




それぞれの想いが絡み合う中、砲撃が始ろうとしていた。

目標の軽戦車部隊は横に拡がる横陣体形で突っ込んで来る。

こちらが3両だと思い込んでいるのだろう。

包み込んで殲滅しようと考えたのだろう。


・・・だが。


「よしっ、距離500!砲撃始め、攻撃開始っ、撃ち方始め!」


全車に向かって射撃命令を下したマコトが併せて、


「本車と第2小隊長車の魔鋼チハ改以外の射撃を始める。

 敵に47ミリでも撃破出来るのだと教育してやれ!」


ミユキには射撃を控えるように命じた。

75ミリ砲弾を持つ魔鋼チハ改の砲弾を晒すのを控えた訳は?


「必ず敵は味方に救援を頼むだろう。

 その時現れる相手に因っては、全車に魔鋼状態に入らせねばならない。

 真価を表すのはその時だからな・・・いいな?!」


ミユキの射撃目標を選んだというのか?


「そうですね、穿甲榴弾を見せつける相手は、軽戦車じゃないってことですよね?」


ヒロコは、マコトが何を考えて射撃を控えさせたのかに気が付いた。


「但し・・・だ。もしも今の相手に手古摺るのなら、勿論徹甲弾で射撃するから。

 一応、標的を捉え続けておくように・・・いいね?」


自分の考えが伝わった事に安堵したのか、言葉を和らげて注意を促した。


「了解ですよ、少佐。敵が仲間の犠牲をものともしないで突っ込んで来るのならば・・・」


その時は、穿甲榴弾で射撃を加えると言い切った。



森の中に車体を隠蔽したままの島田戦車隊が、後退して来た小田切小隊を追う敵に砲門を開いた。

第一撃で左側の4両目掛けて火を噴く47ミリ砲。

後退を辞めた小田切小隊も射撃を加え、追いかけて来たM3が忽ちに征き足を停めると・・・



「左舷側の4両、全て擱座した模様。敵は横陣のまま進行方向を変えました!」


アキナが観測した様子をそのまま伝えて来る。


「よしっ、上出来だ。

 このまま敵には引き下がって貰おう。各車各個砲撃を控えて後退するんだ。

 敵の重砲が飛んでくるかもしれないからな」


マコトは敵が仲間を呼ぶ前に砲撃要請をするかもしれないと踏んだ。

もしも、退がる敵を追いかけてしまえば、自分達が行った事を逆手に取られる恐れがあると読んだようだった。


「敵が偵察隊である公算が強いのだから。

 本隊を呼ぶ前にこちらに少しでも損害を与えようとするのは当然だろう?」


自分が敵ならば、そうするであろうと考えて。


「全車に命令、一時後退するように。

 500メートル程後退し、敵の出方を観る!」


砲撃された場合の危害範囲外にまで後退するように命じたのだったが。


「大変です!第2中隊が敵を追いかけて進発していきます!」


右舷スリットから観たヒロコの叫びが車内を駆け巡る。


「なんだって?!

 無線手っ、直ちに後退しろと命じるんだ、急げっ!」


敵が後退し始めた事に因り、功を焦った大貫中尉は独断で攻撃を始めてしまったのか。

勝手に敵を追い始めた第2中隊6両の魔鋼チハが、森の中から姿を見せてしまった。


それは当然の事、敵に姿を晒す結果となる。

しかも小田切小隊以外の場所から現れたのだから、車両数までも教えた様なものだった。


「しまった!これで敵にこちらの車両数を教えてしまったようなものだぞ。

 折角、無線傍受を逆手に取る作戦だったのに、全てがおじゃんだ!」


計画がとん挫してしまうと、地団太を踏むかのようにヒロコが口惜しがるが。


「やはり・・・彼女は血気盛んだということだよ」


計画を立てたマコトは、まるでそうなるのが分かっていたかのように落ち着き払っている。


「やはり?どういう事なのですか?

 大貫中尉が命令を無視すると分かっていたのですか?」


車長席を見上げるヒロコが訊ねてくると。


「まぁね、彼女を指揮下に入れた時から。

 彼女はきっと勇み足をすると思っていたよ。

 あの性格なのだから、じっとしてはいられないんじゃないかと思ってたんだ」


初めからこうなる事が解っていたのか。

慌てるそぶりも見せないマコトに、ミユキも驚きの眼で観た。


挿絵(By みてみん)


「マコト・・・島田少佐には第2中隊の行動が計算に入れられていたというの・・・ですか?」


敵を追いかけて森から出て行く6両を照準器に捉えながら、マコトに訊いてみると。


「はははっ、このタイミングで勇み足を出すとまでは考えてはいなかったけどね。

 目の前に居る獲物を見過ごす事が出来なかった・・・彼女にはね。

 これも僕の指揮能力が足らなかっただけの事だよ」


苦笑いを浮かべるマコトに、車内全員の目が向けられる。


「それよりも・・・だ。

 こうなった状態で打つべき手はなにがあるかという事だよ。

 6両目掛けて敵がどう手を打って来るかを待つのか、

 それとも6両と同じく軽戦車部隊を追いかけるのか。

 大貫中尉を見放すのは出来ない・・・という事だけは確かなことだけどね?」


第2中隊の6両と共に追撃戦を展開するとして、次に来るものとは?

下手をすれば、敵の包囲網に包まれて袋叩きに遭う事になりはしないのか。

それよりも、マコトが心配したように重砲の弾幕に包まれてしまわないのか?


「突っ込むのなら、敵を撃滅するよりも、思い切って敵部隊と巴戦に持ち込むべきでしょう。

 そうすれば重砲も味方撃ちを懼れて撃って来れなくなると思いますから」


ミユキの考えは全員が同じくする意見でもあった。

敵の内部処に入り込んでしまえば、敵も射撃を控えるだろうと。


「そうだねミユキの言う通りだろう。

 でも、それはこちらも同じ事だから。

 味方同志の援護射撃を期待出来なくなるという事にもなるんだ。

 各個に闘わねばならなくなる・・・そうなれば後から現れる敵に集団戦闘が出来なくなる。

 こちらが各個撃破されるような事になりかねないよ?」


入り乱れた戦場において、後から参入して来る敵に横槍を入れられてしまえば、

即座に対応が出来なければ、こちらが全滅の憂き目を見るかもしれない。


指揮官であるマコトの忠告に、ミユキを始め皆が押し黙ってしまった。


「そこで僕が考えたのはね。

 彼女達を囮に使い、敵を湧出させる・・・まぁ、最初の作戦通りにね。

 敵が軽戦車部隊を見殺しにしなければ、きっと第2中隊目掛けて襲い掛かって来るだろうから。

 そのチャンスを捉えて、一気に攻勢を掛けようと思うんだよ」


つまりマコトは最初の作戦通りに事を運ぶつもりなのだ。

それは軽戦車部隊が現れた事で、敵が無線を確実に傍受したと確信したから。


「善いかい?いくら大貫中尉だとしても現れた敵の数が多過ぎると判断したら後退するだろう。

 それを追いかけて来る敵を捉えて、今度こそ決戦を挑むから。

 次に現れた部隊に痛撃を与えられれば、この戦闘は終える事が出来るんだ」


先程と同じ手を使う事に不安があるミユキが、


「同じ手を二度も繰り返すのはどうでしょう?

 敵もそうそう簡単に乗って来るでしょうか?」


最初は3両が敵を招き寄せ、痛撃を与えられた。

しかし、今度はこちらが突っ込んで行っている番。

敵が同じように飛び出して来れば良いが、どこか発見できない処から撃って来れば。


「かくれんぼしているだけじゃ勝負は着かないよ。

 敵は兵力に余裕があると思い込んでいるのなら先ず間違いなく反撃してくるさ。

 少々の犠牲を払う事となっても、我々を要塞に近寄らせなくするのが目的なんだから」


マコトの言葉でやっと皆が気付かされた。

この事変の最終目的が何であるかという事に。

エギレス要塞の打破と、港湾の奪取。

こちらが攻め入る方、敵が護り抜く方。


攻める側が、守る方より圧倒的戦力を有しているのなら話は別なのだが。

日の本軍に余力などは存在していない。

ミユキ達の魔鋼戦車隊を考えてみれば解る事だ。

新機材の戦車部隊でさえも、結成されて直ぐに送り込まれたのだから。

戦力に余裕があるとは思えないし、敵を圧倒出来るとも思えない。


その事実を肌身で感じているのは自分達なのだと。


「エギレス軍は持久戦に自信を持っているんだと思う。

 だから兵力の小出しをしてきているんだ。

 一度に兵力の過半を失う事を懼れ、なかなか全戦車隊を差し向けて来ようとはしなかった。

 だけど・・・ね。

 僕の作戦に引っ掛かった敵は、偵察隊を差し向けて来た。

 そして全車両で迎え撃たねば後が無いと考えてくれた・・・のかもしれない。

 これから行う戦車戦は、この事変の終結を早められるか、泥沼に填めるかの大勝負なんだよ?」


マコトの考え方が、あまりに壮大だったから。

4人は唯、ポカンと話を聴くだけだった。


「つ、つまり。これからの闘いで戦争が終わるのが早くなるかもしれないってことですよね?」


アキナがちんぷんかんぷんで、訊き直すと。


「かもね!」


あっさり、マコトが認めた。


「そんな大事な戦だったとは!その戦いに出られて光栄に思いますよ!」


ヒロコが眼を輝かせて車長へ言う。


「マコト様とご一緒出来て嬉しゅうございます!」


ミユキが眼をウルウルさせて、感動していると。


「わらしもーっ、嬉ちゅぅーごぜぇーましゅー!」


真面目なのか、ボケを噛ましてきたのか。ナオが同じように言って来た。

アキナが堪らず拳骨をナオに噛ますと。


「後はね、大貫中尉に一頑張りして頂こうじゃないか、諸君!」


マコトは敢えて援護をしないと、暗に言う。

それだけ魔鋼チハの性能を買っていたということもあるのだが。


「大貫中尉には少々お灸を据えないといかないからね?」


冗談交じりに皆を笑わせたのだった・・・




軽戦車部隊が逃げる先から。

何かが進み出して来るのが解った。


それは森の木々をなぎ倒し。

地響きを立てつつ迫り来る。


軽戦車には出来ない。

かなりの重量があるモノでしか森を直進しては来れないというのに。


森ごと何者かに因って動かされている様にも思えてくる。

いや・・・違う。そうではない!


木々をなぎ倒し、森自体を消し去らんとする者達が迫り来る!

軽戦車部隊を退けたマコトの作戦。


命令を聴かずに突っ込んだ大貫中隊・・・

彼女達の前に現れ出るのは?!


次回 東洋の魔女 Act-5

マコトはどうして戦車戦に詳しいのか?現れ出るのは敵の衆力なのか?!

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