光と陰 Act-5
一度、支隊長の元へ行くと告げて離れた。
泣き止んだミユキに、訳を話さずに。
後で解るからとだけ告げて・・・
涙が枯れたのか、それとも気が済んだのか。
呆然とマコトを見送ったミユキの顔は、指輪を見詰めたままで。
「にゅへ・・・にひひ・・・あふふっ!」
壊れたようにだらしなく笑うのだった。
「中隊長が・・・撃破されてましゅ?!」
ナオが座り込んだまま、不気味に笑うミユキを揶揄する。
「ナオ、お前には解らんだろうが・・・中隊長も女子なのだぞ?」
アキナがポンと肩を叩いてため息を吐く。
「ふむ、光野中尉はフ女子になられた訳だ」
訳が解ったような解らないような言葉を吐くヒロコに。
「腐女子ですか?」
アキナがどういった意味なのかを訊くと。
「フ女子っていってもだな。
フの意味合いが違うぞ?
私の言うフとは、腑抜けのフと、不埒モノのフ。
おまけに婦人になられたという意味のフ。
フが3つのフフフのフだ!」
「・・・はぁ?!」
ヒロコ伍長まで・・・腐ったか?
アキナとナオが開いた口が治まらなくなって天を仰ぐ。
本当はミユキの事を祝福してやるつもりだった3人なのだが、
当のミユキがこんな状態では・・・
「ひゃははっ、にゃははっ、うひゃははっ」
指輪を掲げて嬉しさのあまり飛び跳ねているミユキに、何も言えずに星空を見上げるのみだった。
佐伯支隊長の元へ戻ったマコトが、幹部が集うのを待って切り出した。
「私はつぶさに機械の作動状況を調べねばなりません。
それが大御心でもあり、宮様から託された命なのでもあるのです。
指令書にも書かれてある通り、
私は戦闘における魔鋼が如何なる物かを、御上に言上仕らねばなりませんから」
先に届けられていた軍司令部あての指令書。
陸軍派遣部隊である方面軍司令部に、絶対逆らう事の許されない宣旨が下されていた。
「しかしだね君。
機甲科を出た訳でもない島田君を車両に乗せるなんて、無茶な事だよ?」
命令とは云え、経験もない素人を乗せれる訳もなく。
支隊幹部は尻込みするのは、覚えが高い身の者に何かあれば。
少佐とはいえ、もしもの時には誰が責任をとればいいのかと半ば怯えたのだ。
しかも、魔鋼の機械を世に出した内の一人だという、この若き少佐を。
この男をまかり間違って殺しでもすれば、責任は支隊長だけでは済まされないとも思うのだった。
「無茶は覚悟の上です。
宮様からくれぐれも確かな事をこの目で観てくるようにと賜ったのです」
マコトは宮様から直接受けたのだという意味で、恩賜の94式拳銃を取り出し。
「もしも叶わぬとあれば、この銃で・・・」
責を執って自害すると仄めかした。
「分かった解った!そこまでの覚悟ならもう言うまい。
私が許可しようじゃないか。
向田君もそれで構わんかね?」
マコトの強引さに根負けしたのか、佐伯支隊長が認めると。
「はぁ、支隊長がそう言われるのであれば。
私の隊で善ければ・・・ですけどね?」
佐伯中佐と向田中佐が眼を配らせてから。
「どうせ、そんなこったろうと思っていたよ。
島田君がウチの支隊に来た時からね?」
二人の中佐には検分使たる男がやってきた理由が分かっていたのか。
そもそも宮様から直接命じられていたのか。
「島田君もどえらい方に見込まれているんだなぁ。
正直、君の荷は重すぎるように思えてしょうがないんだが?」
やはり・・・と、マコトは思う。
この支隊長も、魔鋼戦車隊長も。
宮様のお言葉を聞かされたことがあるんだな・・・と。
南方に出向く事になったきっかけは、ミユキという娘に在った。
呉の派遣隊から都の本部へと戻ったおり、上官からとんでもない事を命じられた。
それは宮中へ参内し、三輪の宮様に経過を報告せよというとんでもない名誉。
馳せ参じたマコトに、宮様はこう述べられた。
「「日の本という国は他国と闘ってはなりません。
どんな理由があろうとも・・・です」」
それは戦闘機械を造った者へ対しての啓示だったのか。
平服したマコトに対し、続けてご下問があった。
「「宮に仕えていた娘に、光神社の娘がいたのだが。
どういたしているのか知りはしませんか?
あの子は決して闇に触れさせてはならないのです」」
三輪の宮 蒼乃王殿下のご下問に。
「実施部隊にて、南方に向かった由にございます」
そう答えるのがやっとだった。
宮様は暫しお考えになられ、女官に何かを持ち出させると。
「「そなたにお願いの儀がございます。
これを光の元へ。あの娘に渡して頂きたいのです。
光に下げ、あの娘の力になって頂きたい。
そなたがもし善ければ、あの娘を護り抜いて貰いたいのです」」
女官が捧げ持って来たのは、蒼き宝珠。
皇室に伝えられてきた秘宝。
その秘宝を、まさか託されるとは思いもしていなかった。
だが、宮様の申し出は、願いと重なった。
マコトの中で次第に大きくなっていく、ミユキへの想いと重なるのだった。
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向田中佐が改めて紹介した。
整列した戦車隊員達は、一様に眼を見開き見上げるだけだった。
壇上に就いている少佐を物珍し気に。
「諸氏に言っておくが、自分は機甲科を出てはいない。
技術屋だという事と、一応の操典は収めて来たという事。
そして君達の指揮を任されたという事。
本作戦の終了まで、この魔鋼戦車隊に加わる事になったという事だけだ」
サングラスを夜だというのに掛けたままの風変わりな少佐。
正体を知る者は僅かに第3中隊だけ。
その第3中隊の中で、少佐が直々の指名で乗り込む事になるのは。
「にゃんでぇ~っ?ワライ達の魔鋼チハ改にぃ?」
溜息とも諦めともとれる呟きがナオから漏れる。
「士官というだけならまだしも、まさかの許嫁様なんですよぉ?」
アキナまでもが諦めたように呟く。
「車長配置なんだろ?指揮はどっちが執られるんだろ?」
伍長の先任搭乗員たるヒロコまでもが天を仰ぐ。
「にゅふふっ、らんらんら~ン」
独り、ルンルン気分のミユキだけが舞い上がっている。
手に付けられた宝珠を見詰めながら。
「うう~む、こりゃ光野中尉には指揮を任せてはおけんな」
ヒロコが腕を組んで残念がるが。
「君達、しばらくご厄介になるよ?」
防暑服を着た佐官に頼まれてはどうする事も出来ず。
「はぁ・・・こちらこそでありましゅ」
ナオがいい加減諦めたのか、マコトを迎え入れると。
「ミユキはやる時にはやる子だから。
ほっておいても元に戻るよ・・・たぶん」
苦笑いを浮かべるマコトに、はぁそんなもんですかい?という、引き攣らせた顔を向けた。
魔鋼戦車隊に新たに加わる事になったマコト・・・少佐。
彼が加わった事に因り、闘いは新たな局面を迎える事になる。
図らずも手にした蒼き宝珠と、輝く指輪が齎す事になる・・・
魔砲の使い手ミユキ。
魔砲の魔女たる者の、新たな闘いが始る!
マコトがミユキ達の指揮官に?
マコトは技士だったんじゃ?
戦闘経験も無いと言うのに・・・大丈夫なのか?
何か訳があるのだろうか?
ミユキと宮様との間にはどんな関係が?
マコトが来た事により何かが動き始めたようです。
それは戦闘に於いても。
次回 東洋の魔女 Act-1
君達の向う所は戦場・・・これから起きる戦闘は伝説を産む!




