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仮想戦闘(シュミレーションシステム)



──ウィーーーーン


 小さな部屋に入った俺達。壁はやはりどこもかしこも無機質。小さいとは言ったが訓練場より狭いという意味でだ。これからその『仮想戦闘シュミレーションシステム』とやらをするようだが、暴れるには少々スペースが無さすぎるのではと感じる。

 そんな疑問はそのままに、部屋の中が不思議な機械音と共に、風景が少しずつ変化する。


 気がつくと、見たことのない場所にいた。さっきに比べてかなり薄暗い。廃工場だろうか。アスファルトの地面と、ホコリの匂いがする。周囲には大きな箱や機械が見受けられた。

 もしかして、空間移動か何かをしたのだろうか? いや、そんな感じはしなかった。でもやはり、目の前の景色、空気、臭いは本物だ。ここは、一体……?



「さぁーてと。いっちょやってやるぜぇー」



 タツヤがおもむろに背中に差した二振りの短刀を抜いた。

 刀身が不気味に光る。手元でクルクル回し、白い歯を見せて笑った。



「漫画読んでる途中だったのに」


「早く終わらせたらいいって話だよ。神威カムイ


挿絵(By みてみん)


 チャキチャキ、と不貞腐ふてくされ顔の神威が愛銃を両手に握る。右手には回転式リボルバーのコルトパイソン、左手には自動拳銃オートマのグロック17がそれぞれ握られている。無理やり連れてこられたんだ。不貞腐れても無理はないよな……と、俺は一人、その様子を見て苦笑する。

 菊川は体勢を低く構え、全方位に集中し始めた。

 三人とも戦闘態勢だ。しかし皆向かい合うのではなく、正面の一点を見つめていた。



「えっと、俺は、どうしたら……?」


「どうしたらって、敵を倒せばいいんだよ。なに、僕達が援護してあげる。武器は何を使っても構わないよ」



 さっき無理やり押し付けられて腰にぶら下げた短刀とホルスターに目を()るが、そんな事言われたって。



「来るぜっ!」



 タツヤが声を上げた。すると、空間の奥の方から何かが現れる。俺は予想外すぎる光景に目を疑い、言葉を失う。



「な……ッ?」


「うぉらっ!」


「面倒くさ」


「ついてこいよ、アキト!」



 各々軽く声を掛けあいながら飛び出した三人と向かい合う無数の影。頭があり、胴があり、脚がある。目はふたつついているし、ぎょろぎょろと動く。

 現れたのはどう見ても人間だった。

 しかし、動きが明らかに異常だ。さらに、みんな何かしらの武器を持っている。包丁や、斧、猟銃。


(昔、こんなゲームやった事あるなぁ……)


 目の前の光景は、小学生から中学くらいにかけてハマっていたゾンビを倒していくゲームによく似ていた。しかし、あれは画面の中だけの話。こんなふうに俺に迫ってくることなんかない。せいぜい、画面を覆い尽くしてしまう程度だ。

 もっと言えば、現在起こっているこの景色は長方形に切り取られてなんかいない。俺の手元にあるのも、カチカチと音がするコントローラーなんかじゃない。本物の刀と、本物の銃だ。そして、奴らと直接戦うのはアイコンでも、キャラクターでもない。……俺だ。



「気をつけろ、アキト!」



 菊川に呼ばれて気がつくと、(エネミー)と表示された相手に接近を許してしまっていた。そいつが、持っていた金属バットを俺をめがけて振り下ろす。

 咄嗟に腕をクロスさせ、防御する。



「ッあっっっ!」



 バットが脳天に降ってくることは無かったが、腕に凄まじい痛みが駆け巡る。そいつは俺を滅多打ちにしようと、再びバットを振りかざした。それをどうにかこうにかすんでのところで回避。

 俺を捉えきれなかった金属バットは、地面に激しく叩きつけられる。粉塵が巻き起こり、地面が大きくえぐれていた。



「早く攻撃しなよアキト! 負けても死ぬ事は無いけど、痛みは感じるんだからなッ」



 菊川が俺に声をかける。そんなこと、もう経験済みだ。さっきやられた腕がじんじんする。さらに、視界に入る(エネミー)の数はどんどん増える一方だ。



「うらあぁああああああああああ!」



 向こうでは、神威がコルトガバメントを連射(フルオート)モードにして撃ちまくっている。まだ声変わりしていない神威の雄叫びは甲高いが、威圧感は十分だ。敵は神威に指一本触れないまま、その場で力尽きていた。


 やむなく俺も短刀を抜き払い、さっきの金属バットの敵に突っ込んでいく。タツヤスタイルでいかせてもらうぞ。

 彼らがこれまでに教えてくれたことを思い出す。どんな敵に遭遇しても、先ずするべきは相手の攻撃手段を絶つこと。それが出来ないならば、機動力を奪うこと。その二点は徹底的に仕込まれている。



(だからまずは……腕を使えないように!)



 相手の右腕に狙いを定めた。敵も俺を薙ぎ払おうとバットを中段に構えて駆けてくる。

 それぞれの武器(エモノ)が交錯した。

 金属同士が擦れる甲高い音。



(なんだこれ……やけに強いっ!)



 先ほど、バットを受け止めた時も思ったが、力がかなり強い。鍔迫り合いのようになっている状況を打破しようと、不良との喧嘩の要領で、敵の腹部に蹴りを入れる。

 俺の蹴りで吹っ飛んだ敵だったが、そんなことでは倒せないらしい。再び立ち上がり、俺に向かって突進してくる。


 俺は身を翻し、回転の勢いをそのままに敵の背を切りつけた。


 ザシャッというあまりにも軽い音なのに、大量の鮮血が飛び散る。匂いはあまり無い。だが、生ぬるい感覚は頬へぬるりと感じた。

 あまりにもリアルな光景に、たじろいだ。だが、敵は血を振り撒きながら、再び俺をめがけてバットを振るう。

 殺らなきゃ、俺が殺されるのか……? そんな不安が頭をよぎる。


 敵は、先程よりも動きが落ちているように感じた。それもそうだ。腹部に蹴りを入れられ、さらに背部まで斬られたのだ。それでも敵は俺を殺そうと何度でも向かってくる。


 俺は意を決して敵の頸部を切り落とした。鮮血が弧を描いて、そして……。



 ビービービーというけたたましい音で我に返った。別に失神して夢を見ていたわけではなさそうだ。握りしめた短刀とその内側の気持ちの悪い汗。ふと見上げると、十五分と表示されている。



『お疲れ様でした。武器の手入れを忘れないようにしてください』



 俺が敵を倒した瞬間、周りの景色が元に戻り、部屋が明るくなった。無機質な空間で俺は呆然と立ち尽くす。



「え……?」


「ったく。アキト、どんだけ時間かかってんだよー」


「まったく。ボクもう行くからね」


「アキト、やったな! 一体倒せたじゃないか」



 タツヤは俺の頭をゴツき、神威はつまらなさそうに部屋をあとにした。二人の表情はさほどここに入る前と変わらない。それに俺は何故か違和感を感じる。



「さっきのが、仮想戦闘シュミレーションシステム?」


「そうさ。今のでレベル中ってところだ。全部で百体くらい現れてたんじゃないかな? ま、初めての割にはよく頑張ったよ」



 なんてことだ。俺はあの敵を一体倒すのに精一杯だったのに。

 それにしても、あまりにもリアルすぎて、さっきの光景を思い出すと、少々身震いしてきた。



「いつもこんなことしてたのか?」


「毎日じゃないけど、週一くらいかなぁ。やっぱこれやってないと、実践で身体が動かないっていうか……今日はそれなりに解像度落としておいたけど、もっと現実に近づけることもあるよ」


「平気なのか?」



 どうかしてる。これを週に一回って、気が狂ってしまいそうだ。俺はさっきコレをゲームに例えた。でも、ちがう。コントローラーの震えだけじゃない。実際に切り付けた感覚も、それに伴う匂いも何もかもがリアルすぎる。



「平気? 何のこと?」



 憤りを感じ始めた俺に対し、イケメン面の菊川は何のことか分からないといった表情だ。眉を顰め、こっちをのぞき込んでくる。俺はその態度にカッとなってしまった。いや、菊川だけにじゃない。神威や、タツヤに対しても、だ。



「こんな……エグいの。よく平気だなって言ってるんだよ!」



 相手は、人の形をしていた。それを……彼らは。

 しかしそんな俺に対して、やはり訳が分からないというような表情の菊川が口を開く。タレ目気味の目尻が困惑していた。



「こんなエグいのに耐える耐えないの問題じゃないよ。アキト。実戦(げんじつ)は、死ぬか死なないかだ。殺すことを躊躇(ためら)った瞬間に、自分が殺される。戦うって、そういう事だよ」



 菊川の目は俺をまっすぐ見ていた。

 なぜ、そんなことも分からない?

 そう言っているような目だ。



「腑に落ちないみたいだね。でもひとつ言っておくよ。そのままだと、実戦に出た瞬間、アキトは死ぬよ。確実に」


「だからなんだよ! 俺は戦いたくてここにいる訳じゃない! 強くなるためにここに残ったんじゃないッ! 勘違いするんじゃねぇ。戦いたけりゃお前らだけでやってろよ! 俺はッ……」



 何故か怒りが爆発してしまった。本音がボロボロと心から声になって出て行く。菊川が驚いた顔で俺の顔を見る。その顔を俺は睨んだ。達哉と神威も冷たい目でこっちを見ていた。

 菊川は、悪くない。俺を心配してくれてるだけなんだ、そう分かっているが、やはり無性に腹が立った。



「菊川。下がれ」



 背後から聞こえた女の声。少し低い、落ち着いた声。



「オルガナさん……?」



 菊川が驚いたように顔を上げた途端、俺は襟元を掴まれた。



「っ……離してくださいッ。離してッ! クソッ、離せよっ!」


「来い」



 女のくせになんて力だ。抵抗も虚しく無理やりどこかの部屋に連れていかれた。

 何やら暗い部屋である。初めて入る部屋だった。



「座れ」


「何ですか! 何する……」


「座れっ!」



 オルガナが声を荒げた。あまりの威圧感に気圧される。やむを得ず、抵抗をやめて部屋の中央にポツリと置かれた椅子に腰掛けた。

 俺の目の前には大きなモニターがあった。なにかを俺に見せる気なのだろうか。



「見ろ」



 そういった後オルガナがリモコンを操作し、モニターに映像が映し出された。ノイズや砂嵐が混ざった後に安定した映像になる。始めは高所から眼下の風景を見下ろすような構図だったがある一点にズームした。そして俺は見知った顔を発見する。



(あれは……菊川、神威、達哉?)



 三人は、どこかの廃屋の一室にいた。しきりに外を(うかが)っている。彼らの後ろには同じくらいの年の男女が数名、同様に辺りを気にしている。


 その後モニターが切り替わる。



(姉貴…………?)



 姉の夕妃が人影に囲まれている光景が映し出された。何なんだ、この映像は……! 縋るようにオルガナを振り返ろうとしたが、先手を打たれて頭を固定された。

 次の瞬間。その人影が、突然姉貴に飛びかかった。



「な、なんだこれ……」


「黙って、見ていろ」



 画面の中の姉貴は跳躍し、そいつらからの攻撃を回避する。それを合図にしたのか、あちこちから人影が飛び出した。

 もちろん、菊川たちの所も例外ではない。敵であろう人影に囲まれた。


 激しい戦闘が始まった。

 銃弾が飛び交い、あちらこちらで刃物が空を切る音や擦れ合う音が聞こえる。爆発音なども聞こえてきた。敵か味方か俺が見ていてもあまり分からないが、人の姿をした生き物同士が殺しあっていることに変わりはない。その光景は、まさに──。



「私の、部下の、スコープに、残っていた、ものだ。彼もまた、この時の、戦いで、命を、落とした。まだ、二十歳、だった」



 画面の中では未だに激しい戦闘が続いている。もうこの光景は、戦争と言ってもいいかもしれない。戦争を見たことがあるのかと聞かれればないが、それでも、人と人が殺し合うこの光景は、戦争だ。

 映像を見て絶句する俺にオルガナがいつもの静かな声で語りかける。



「お前が、その力を、得たのは、偶然かも、しれない。お前が、それを、望んだのでは、ないことも、承知だ。しかし」



 モニターが暗転する。彼女がリモコンでスイッチを切ったのだ。俺の後ろにいたオルガナは目の前に回り込んできて言葉を続ける。



「もう、そろそろ、我々も、限界、なのだ。鬼は、日々、力を、増す。それに加え、国連(うえ)からの、圧力の、せいで、これ以上、人間を、集めることは、難しい」


「こ、国連の奴らは、なぜ鬼と戦わないんですか。それに、何でそこまでミュートロギアを責め立てる?」



 そうだ。世界の存亡に関わるのに、国連はなぜ黙って指を咥えているんだ。おかしいじゃないか。

 根本的にそうだろ。普通に考えれば。



「その方が、都合が、いいと、思う奴らが、いるからだ」


「都合がいい?」



 俺の言葉を遮ったオルガナの言葉を反芻した。都合がいいとは……どういうことだ。



「メルデスから、聞いたかと、思うが、1500年前の、災厄で、活躍した、異能が、その後の、世界の秩序を、守る役割を、果たしていた。その前から、国連は、存在したが、災厄で、無力さが、露呈した。それで、表舞台から、距離を、置かされて、しまった。それが、気に入らなかった、ようだ。現在、彼らは、異能から、世界を動かす、力を、取り戻そうと、躍起になって、いるのだ」



 なんて、自分勝手な。憤りを滲ませるオルガナの言葉は一語一句が重く俺の心にのしかかる。



「我々が、鬼と戦えば、戦力を削ぐことが、できる。そうなった後に、こちらを、壊滅させ、今までの、でっち上げの罪を、着せれば、異能への、反感を得ることに、繋がる。そして、奴らは、再び、力を我がものに、できる」



 目を隠しているせいで、オルガナの表情はほとんど読み取れないが、彼女が焦っているように感じた。だが、俺は彼らに対して素直になれない。泣きつかれたって俺は彼らの操り人形になりたくなんか無い。純粋なイエスマンなんかじゃないんだ。



「だから、俺に人殺しをしろと言うんですか」


「鬼化した、奴らは、既に、死んでいる。だから、殺しでは、ない」



 オルガナは何食わぬ顔でそう言ってのけたが、いや、そういう問題じゃないだろ。だって相手は、鬼化してようと元は人間だろ?

 国連に関する話については共感したが、今オルガナが言ったことに関しては、肯定する気に全くならない。



「では、ひとつ、言っておこう。お前が、このまま、戦うことから、逃げるのなら、それは、ここにいる全員を、殺したのと、ほぼ同罪だ。その中には、お前の、姉も、含まれる。お前は、姉を、殺す気か?」



 ……下衆(ゲス)め。一番言われたくなかった事だった。

 なんでどいつもこいつも姉貴を引き合いに出す?



「とことん下衆いやり口ですね」


「なんとでも、言え。罵倒、されるのには、慣れて、いる」


「だからといって、俺が本当にミュートロギアの役に立てるかなんて保証はない。なのに、どうしてそんなに俺に期待するんですか。俺自身でもこの能力(ちから)を理解しきってないのに、何でそんなのに頼る必要が?」


「そんな、不確定要素でも、使わないと、いけない、状況、だからだ」



 嫌味を言おうが、至極真っ当なことを言ったところでオルガナが表情を変えることは全く無い。



「……仕方ない。特別に、見せて、やろう」



 オルガナは再び俺の腕を引き、何処かへ連れて行こうとする。抵抗しても無駄なことはさっきので実証済みだ。もうそんな事しない。体力の無駄だ。



「そうだな。これで、目を、覆え」



 オルガナがポケットから出した黒い細長い布を手渡してくる。

 どう見ても、オルガナがいつも付けているやつと同じものに見える。お揃いとか嫌なんですけど? 可愛い彼女とならまだしも? こんなサイボーグみたいな女となんて。



「私の、あて布の、スペアだ。早く、しろ」


「……何でこんなのしなきゃいけないんですか」


「最重要機密、だからだ。万一、お前が、捕えられて、尋問されて、脳みそを、取り出されても、何処に、あるかを、脳内に、残さなければ、バレない、からな」



 ……オルガナさん? 涼しい顔で今、おぞましい事言いませんでした?



「……早く、しろ」



 躊躇う俺の後頭部を(はた)いて急かす。

 ったく、Dr.レンといい、気の短い人が多いのかね。ミュートロギアは。


 これ以上しばかれると馬鹿になりそうなので取り敢えず従って目を塞ぐ。なにも、見えなくなった。





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