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異世界金融外伝 吟遊詩人ノアの苦難と栄光 〜辺境に埋もれた幻の歌  作者: 暮伊豆


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6/11

ゴブリンには気をつけろ

それから俺は毎日放課後、ジャックさんのもとを訪れた。


「はっ! はっ! はっ! はっ!」


「そう。その調子です」


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」


「いいですね。ではもう少し強くしますよ?」


「ひっ! ひっ! ひっ! ひっ!」


「そうです。次は息を長く吐いてください」


「はーーっ! はーーっ! はーーっ! はーーっ!」


「はいそこまで。いいですね。だいぶ強靭な体になってきたようです」


「はあっ……はぁ……はぁ……ぐふぉ……」


くっそ……俺は吟遊詩人だぞ……騎士や冒険者じゃないってのに……

床に寝たまま、腹をジャックさんに踏まれながら声を出している。腹がちぎれてないのが不思議なほどだ……床はとっくに俺の汗で水びたし。なのにジャックさんは嫌な顔ひとつ見せずに踏んでくれる……


「どうぞ。冷たいグライプ果汁のポーション割りです。筋肉にも喉にもいいものですよ」


「あ、ありがお……ございあす……」


喉はちっともかれてないのに、舌がまわらない。あれだけ声を出したのに喉がかれないなんて……俺が今までいかに腹から声を出してなかったかってことか。これで新進気鋭の吟遊詩人だなんてお笑いだぜ……


「さて、これでひと段落といったところでしょうか? 今夜あたりギルドの酒場で歌われてみてはいかがですか?」


「だ、大丈夫えしょうか……」


「いえ、もちろんまだまだですよ。ですが、基礎ばかりでは成長が見えにくいものです。魔物との戦いでもそうです。普段の修行も大事ですが、実戦を知らない者に成長はありません。お客様の生の感情、心の動きを感じながら歌うのもいいものです」


「は、はい……」


一週間ぶりか……

昼は作詞作曲、放課後から夜まではジャックさんに稽古をつけてもらってたからな。


「ああ、もちろん私も行きますので大丈夫ですよ。ドノバンが暴れたら取り押さえますね」


「た、たすかりあす……」


よ、よし。ちょっと怖ぇがジャックさんが一緒ならきっと大丈夫だ……千魔通しじゃなくて千人力ジャックだな。




ジャックさんは仕事を終わらせてから行くそうなので俺は一足先にギルドに着いた。とっくに日は沈んでいる。ここからは俺たち吟遊詩人の時間だ……


よし! 入るぞ!

おお、今夜もわいわいと盛り上がってるなぁ。厳戒態勢じゃねぇのかよ?


「失礼いたします。吟遊詩人ノアでございます。歌のご用命はございませんか?」


「あぁん? 吟遊詩人だぁ? ひゃっはぁ! そんならゴブリンの歌でも歌ってみろやぁ!」

「ひゃははは! そいつぁいいぜ! うまく歌えりゃあ銅貨一枚くれてやんぜぇ!」

「ぎゃはははぁ! そいつぁいいやぁ!」


いるんだよなぁ。こういう客。無理難題を言ってこっちが歌えないと見ると途端にブチ切れるんだよなぁ。


「リクエストありがとうございます。それでは歌わせていただきます。お聴きください」


『ゴブリンには気をつけろ』


『ゴブゴブリンリン ゴブリンリン

子供でも勝てる最弱の魔物

一匹殺して解体して

魔石を納めて銅貨三枚

お小遣いにはちょうどいい

だけどマナー違反には気をつけろ

殺したゴブリンを放置すると

他のゴブリンが食っちゃって

上級ゴブリンに成長するんだ

レッドキャップゴブリン超強い

だから解体したら

きちんと燃やすか埋めるかしよう


ゴブゴブリンリン ゴブリンリン

ゴブリンはとっても弱いけど

一人で魔境に行くのはやめておけ

一匹ゴブリン 一分で勝てる

二匹ゴブリン 三分かかる

三匹ゴブリン 十二分

それより増えると さあ大変

逃げる間もなく囲まれて

二度と帰れぬ餌と化す

拐われるよりはマシかもね


ゴブゴブリンリン ゴブリンリン

ゴブリンには気をつけろ

魔物をなめると危ないぜ

気をつけろったら気をつけろ』


「ご静聴ありがとうございました」


「ひゃっほー! お前よく分かってんじゃねーか!」

「冒険者やってたんか?」

「いい歌してんじゃんか!」

「次は俺だ! 俺のリクエストきいてくれ!」

「いや! 俺が先だぁ!」


「ありがとうございます。ですが少々お待ちくださいませ」


おひねりは飛んできたが、それを拾う前に先ほどの三人に……


「ご満足いただけましたでしょうか。それでしたら銅貨一枚いただいてよろしいでしょうか」


リクエストの代金をいただかないとな。普通、俺クラスの吟遊詩人ならば一曲銀貨一枚が相場だ。つまり銅貨百枚分。だが、銅貨一枚でリクエストを受けたからにはきっちり歌ってみせるし、歌で価値を示さなければならない。


「ふっ、ふざけんな! あんな適当な歌に金なんぞ払えるかぁ!」

「そうだそうだぁ! 何がゴブリンには気をつけろだぁ! あんなクソザコ魔物なんかによぉ!」

「俺らぁがゴブリンなんぞに負けるとでも言うんかよ!」


あらら。そう解釈されてしまったか。俺もまだまだだな。こんな魔境の常識も知らないガキにリクエストを聞いてしまうとは。まいっか。次いこ次。


「それは失礼いたしました。銅貨一枚は結構です。さあ! それでは次のリクエストを「待てやぁ!」

「俺らぁ舐めた歌なんぞ歌った落とし前どうつける気なんだぁこら!?」

「とりあえずそこに落ちてる金で話しぃしようぜ? 拾って持ってこいや!」


あーらら。こいつらタチの悪いガキだなぁ。冒険者のルールも知らない上に吟遊詩人の代金を踏み倒した。それどころかおひねりに手をつけようとするとは。こいつら終わったな。知らなかったでは済まないのがこの世のルール。あーあ、可哀想に。


「お待ちください。あなたがたはまだ若いのです。間違うこともあるでしょう。それは仕方ありません。ですが、大事なのは過ちを認めて謝罪する大きな器です。あなたがたも冒険者としてのし上がるためにクタナツに来られたのでしょう? ですからそんな器の小さなことをしてはいけません。さあ、私も一緒に謝ってあげますから、ノアさんに謝罪をしようではありませんか」


ジャックさん! 来てくれたのか……

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仙道企画その1

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― 新着の感想 ―
[一言] いせきん名物調子コいた三人組キターーー!!!!(大歓喜)
[良い点] 校長がめっちゃ輝いてますね! 頭のことではなく!
[一言] これでジャックさんも怒らせたとすると……
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