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異世界金融外伝 吟遊詩人ノアの苦難と栄光 〜辺境に埋もれた幻の歌  作者: 暮伊豆


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愛しのイアレーヌ

悩んでも仕方ないので素直に、ありのままを話した。


「なるほど。ドノバンのくせに大きな口を叩いたものですね。代わってお詫び申し上げます。ですが、ノアさん? 他人の身体的欠陥を嘲るような真似は感心できませんよ? お気をつけになられた方がよいかと……」


「もちろんです。私が浅はかでございました」


えらく腰が低く話が分かるかと思えば、重苦しいプレッシャーを感じるし……やっぱ大物と話すのって大変だよな……


「分かっていただけて嬉しいです。それでご相談の内容ですが、お話だけではよく分かりませんので、一曲お聞かせいただけますでしょうか?」


「かしこまりました。それではお聴きください」


『ドノバン無双』


本当は千魔通しジャックの歌『絶対貫通ミストルティン』を歌いたいところだが、昨日と同じ条件でないとな。






歌が終わると校長のごつい手から拍手が贈られた。どうよ?


「素晴らしい。見事な音色でした。おそらくは張り替えたばかりの龍髭弦(りゅうしげん)でしょうに、早くもご自分のものにされている。見事な腕前です」


「ありがとうございます。光栄です」


「それだけに惜しい。どうやらドノバンの言う通りです。ノアさんの歌が追いついておりません。これは由々しきことですな」


一回聴いただけでそこまで!? 組合長といい校長といい、どんな耳してんだよ!


「そうですか……私は、どうすればよいのでしょうか……私には、この道しかないのです……」


このリュートを手に入れるために、どれだけの泥水を飲んだことか……どれだけの血を流したことか……

手に入れてからだって……指先が血まみれになっても、手首が砕けそうになっても……練習を欠かしたことはない……

俺にはもう他の生き方なんてできないんだよ!


「あなたのリュートの腕前は文句なしです。問題は歌なのです。ちょっと長めに声を出していただけますか?」


「え、ええ、分かりました」


『ラァァァァーーーーっゴフっ』


「な、何を!?」


「もう一度です」


「はい……」


『ラァァァァーーっガッホ』


俺が声を出すと腹を殴ってきやがる。優しい顔して何を……


「今度はもっと強めに殴ります。ですが、声を伸ばし続けてください」


「はい……」


『ハァァァァーー、ッハァァァァッ、ハッ、ウプっハァァァァっガフッ』


「はいここまで。なるほど。よく分かりました。ノアさん。どうやらあなたは歌を喉で歌っておりますね?」


「そ、それはもちろんです。喉で歌わずしてどこで歌えと……」


何をそんな当たり前のことを……


「それは少しばかり間違っております。通る声、真に力のある声を出したいならば、声は腹から出さなければなりません」


「腹から……ですか?」


なんだそれ? さっぱり意味が分からない……


「では見本といきましょう。申し訳ないのですが、リュートをお貸しいただけますか?」


くっ……仕方ないか……


「どうぞ……」


「ありがとうございます。おお……これは素晴らしい。かなり使い込んでありますし整備も完璧。ノアさんの愛情が伝わってきますね。ではいきます」


『愛しのイアレーヌ』







な、なんだよ……なんだよこの曲……この歌……

なんで吟遊詩人の俺が素人の歌で泣いてるんだよ……

千魔通しジャックが惚れた唯一の女。その女に目の前で死なれ……見ているだけで、何もできなかった哀しい過去の歌……


声量は抑え気味なのに、どうしてこんなに響いてくるんだよ! どうしてこんなに俺の心を揺さぶるんだよ! 素人なのに! どうして!


「ご静聴ありがとうございました。いかがでしたか?」


「何も言えません……これは事実なのですか……」


「そんなことはどうでもいいのです。聞いて欲しかったのは私の歌い方とメロディです」


「申し訳ありません……あまりの素晴らしさに我を忘れておりました。どうか今一度……」


「いいでしょう。では今度は立って歌いますので、私のお腹を全力で殴りながらお聞きください」


「は、はい……」


腹を殴れって……

くっ、なんだこれ……びくともしない……いかん、あまり強く殴ると俺の指が折れる……

なら、肘で……

だめだ……なんという強靭さ……




「分かりましたね? このようにお腹をしっかりと鍛えて、体の芯から声を発することで人の感情に訴えかける声で歌うことができるのです」


「分かりました……それと、先ほどの曲ですが、校長先生が作曲されたのですか? 一聴して楽しげに聴こえますが……その奥に、つい手を伸ばしたくなる美しさ、そして触れると壊れそうな儚さを感じました……」


作曲はそんなに簡単なものではない。いくら千魔通しジャックが名うての冒険者だったからってそうそうできるものとは思えないが……


「もちろん違います。あなたも吟遊詩人ならばご存知ではないですか? (いにしえ)の偉大な吟遊詩人『アリマーサ・センドラム卿』の名を」


なっ! アリマーサ・センドラム卿だと!?


「も、もちろん知っています! まさか、この曲が!?」


「その通りです」


そ、そんな……まさか……

アリマーサ先生の曲は全曲知ってるし歌うことができる! 死にもの狂いで楽譜を集めたし、どこかで吟遊詩人が歌ってると聞けば飛んでいったからな! だが……まさか未発表曲があったというのか!? このような辺境に!?

曲はこちら。

https://m.youtube.com/watch?v=tqf3YlgSLZo%2F


本文では『愛しのイアレーヌ』と曲名がありますが、本来は無名です。

仙道アリマサ氏はこの曲に名前をつけられておりません。

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『仙道企画その1』←詳細↓検索画面
仙道企画その1

本編はこちらです↓
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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。お邪魔します。 面白いです!本編も読みたくなりました! しかし、長いからどうしようかな〜と思ってます! 噛めば噛むほど味があるするめのような小説です。 おもての顔と心の声の違いっ…
[良い点] おはようございます。 >聞いて欲しかったのは私の歌い方とメロディです なるほど! こういう書き方もあったのですね! 目からウロコでした。 さすが暮伊豆様。 そしてアリマーサ・センドラ…
[一言] おおう、ここでそう繋げますか。 腹から声出せは大事。
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