組合長ドノバン
よし……いい感じにどいつもこいつも酒が進んでるな。他に吟遊詩人も来てないし、いくぜ!
「クタナツの皆様、お懐かしゅうございます。クタナツで生まれアベカシス領で育った吟遊詩人ノアが生まれ故郷へ帰って参りました。領都と臨戦態勢の昨今ですが今宵は楽しく一席お付き合いいただきたく存じます」
よーし。注目したな。
「それでは一曲目。クタナツギルドの偉大なる組合長ドノバン様に捧げます。聴いてください」
こちとら知ってるんだよ!
『千骨折りドノバン』と『千魔通しジャック』
この二人は年老いてなお、クタナツだけでなく辺境フランティア領全域に響くビッグネームだからな。当然この二人の歌ぐらい作ってるさ。顔を知らなかったのは痛手だけどな……
『ドノバン無双』
『ローランド王国 フランティア領
魔境に面した危険な街 クタナツ
誰もが道を譲る 偉大なる組合長
千の魔物の骨を折り 戦い続けた男伊達
その名も高き ドノバン・ダインブレイク
時には貴族を殴りつけ
国王の名をも呼び捨てる
ああドノバンよ どこまでも征け
おおドノバンよ 栄光あれ』
決まった……
俺の喉の調子はいつも通りだが、今宵のリュートはキレッキレだ。低音から高音まで全ての音域がはっきりと聴こえ、繊細かつ澄んだ音色が俺を酔わせてくれる。
おお、拍手喝采だ。おひねりもざっくざくじゃないか。やっぱ定番の歌は受けがいいんだよな。だからハゲの歌もえらく受けるんだが……
げっ! 出たぁ! だからなんであんな大物が普通にこんなとこに顔を出すんだよ! いくらギルド併設の酒場だからって……もっと高い店でしっとり飲めよ!
「てめぇ……よくも顔を出せたもんじゃのぉ? 下手な歌ぁ歌いやがってのぉ?」
お、落ち着け……覚悟は決めてる……
「過日は大変失礼いたしました。こんなことでお詫びにはならないでしょうが、心を込めて歌わせていただきました。お耳汚しで失礼とも思いましたが。では次の曲「待てやぁ!」
ひっ、ひいいいい! し、しかし俺はプロ。どんなにビビっても表情には出さない……
「下手な歌ぁ歌ってんじゃねえって言っとんじゃあ! てめぇいきなり分不相応なモン手に入れやがったのぉ? 歌とのバランスが悪いんじゃあ!」
なっ!? なん、だと……!? 素晴らしい音色を手に入れたと思ったのに……龍髭弦の美しさに俺の歌が追いついてない……と言うのか!?
「てめぇはええ腕じゃあ。だけぇその程度のことぐれぇてめぇでも分かっとんじゃろうが!? 出直して来いや!」
くっ……言い返せない……
「吟遊詩人がお客を満足させられなかったのは名折れ以外の何ものでもありません。勉強しなおして参ります」
今夜の稼ぎだと……五日は凌げるか……だが領都への旅費までは……
「待てや! このまま行かせるわけにゃあいかねぇのぉ! 明日、初等学校の校長を訪ねてみろや。てめぇを鍛えなおしてくれるだろうぜぇ?」
出直せって言ったくせに……
それよりも、鍛えなおす? 初等学校? 校長? なぜそんな所に……
「ご忠告ありがとうございます。ぜひとも訪ねてみましょう」
くっ、素人ふぜいに……と言いたいがどうやら組合長の耳は本物だ……
さすが暗闇でも戦い抜けるほどの達人の耳は違うようだ……悔しいが正論だろうな……くそ……





