覚醒の夜
ダミアンの演奏はそこそこだった。歌は下手だが声だけはよかった。素人にしては上出来な部類だろう。
「クタナツの野郎ども! しっかり聴いとけよ! 辺境伯三男ダミアン様の叫びをよぅ!」
なのに……酒場の盛り上がりは最高潮だ……
「俺の名前は放蕩ダミアン
辺境伯家のボンクラ三男
散々やられてマジで災難
組合長の肉体アイアン
エロイーズの脱ぎぶり大胆
うちの親父は今回落胆」
変な歌詞、変な曲。だがそれでも場は盛り上がっている。
これがジャックさんの言いたかったことだろうか……
人を楽しませるためには技術に走るだけが道ではない……プロだ素人だと垣根を作らずに、本心から楽しむ姿勢。そしてともに歌を作り上げ、一体となって声を上げることが……
一体となって……
よぉーし! 俺もやるぜ!
「おうダミアン! リュート返せ!」
「ああ? てめぇ……」
やっべ! 俺こんな大物に何て口を!?
「俺をそう呼んだってことはもうダチだぜ! 文句は言わせねぇぞ! なあノア? 俺達ぁダチだ! そうだろ?」
「お、おお……そ、そうだな! ダチだな! 一緒に歌うぜ!」
そうだよ! 歌を愛する者はみんなダチだ! 身分差なんか関係ねぇ! 俺もダミアンも! アリマーサ先生も! みんなダチなんだ! 酒場で身分なんか気にする俺がいけなかったんだ! みんなで一緒に楽しむこと! アリマーサ先生だってそれをお望みのはずだ!
「よぉーし! いいかクタナツの冒険者ども! 今から世紀の名曲を聴かせてやる! 酔った頭ぁぶち醒まして! しっかり聴いてくれよぉぉーー!」
ふふ、いかんな。すっかり吟遊詩人の顔ではなくなってしまったか。でも構わん! アリマーサ先生ならきっとこうしてるはずだからな。
「偉大なる吟遊詩人! アリマーサ・センドラム卿に捧げる歌だ! 聴いてくれ!」
『暴風雨が過ぎて』
※
「ご静聴ありがとう……ございました……」
ここまでか……さすがに体が限界だ……
ジャックさんから聴かせてもらったアリマーサ先生の曲を俺なりにアレンジしたんだ……
クタナツと領都。些細なことから戦争、臨戦態勢となったが……辺境伯の英断で、暴風雨が過ぎるように和解……
そんな想いを込めてみた……
反応はどうだ……
「すげぇーぜノア! めっちゃ痺れたぜ!」
ダミアン……
「ちったぁマシな歌ぁ歌えるようになったのぉ」
組合長……
「素晴らしい歌でした。あなたなら、いつかきっとセンドラム卿を超えることができると信じています」
ジャックさん……
「ヒューヒュー! よかったぜぇ!」
「おまえ最高だぁー!」
「さすが若手ナンバーワンの吟遊詩人だぁ!」
「次だ次ぃ! リクエスト頼むぜぇー!」
「待てやぁ! 俺が先だぁ!」
みんな……こんなのもう歌うしかねぇ!
やってやる! 声がかれるまで! 腹がちぎれるまで歌ってやる!
「いくぜてめぇら! 次ぁこの曲だぁ!」
『絶対貫通ミストルティン』
ジャックさん! あなたに捧げるぜ! 聴いてくれ……
ああ……いい夜だ……
人生最高の時ってこんな感じなんだろうか……
最高だ……
腹がはち切れそうに痛いのに……
もう立ってるのもやっとなのに……
それでも……
歌い続けたい……
だって俺は……
吟遊詩人ノアだからな!
※
曲はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=s7FHIwMjv6Q
本文では『暴風雨が過ぎて』と曲名がありますが、本来は無名です。
仙道アリマサ氏はこの曲に名前をつけられておりません。
次回エピローグです。
ちなみに戦争の理由はこちら。
https://book1.adouzi.eu.org/n5466es/342/





