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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
73/73

054 銅・アルミワッシャの指輪

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第54弾です」

礼子「『CTXー6』のボディじゃないんですね」

仁「やっぱり間に合わなかった」いろいろ身のまわりが忙しかったし

礼子「で、銅やアルミのワッシャを使って指輪を作るんですか?」

仁「うん、そういうことになるな」

礼子「銀じゃないんですね」

仁「そうだな。……銅という金属は、熱すると表面に酸化銅ができるんだが、その膜厚で色が変わるんだよ」

礼子「ネットにも実験をしている人がいましたね」

仁「で、銅が融ける寸前の温度……およそ摂氏1000度くらいまで熱することもあるんで、ロウ付けはできないんだ」

礼子「ああ、それでワッシャから作るんですか」

仁「そう。それれに、ワッシャだともう丸く成形されているから楽だしな」

礼子「納得です」


仁「同じ技法は銀でもできる」銀のワッシャは市販されていないだろうから自分で成形する必要があるけどな

礼子「そうですよね」


仁「そして、アルミでもな。……アルミは軟らかいからいい練習になる。それに……」

礼子「それに?」

仁「基本、アルミはロウ付けができないから、こうした技法でないと指輪は作れないんだ」厳密には『できない』のではなく『非常に困難』です

礼子「あとはパイプを切って作る方法が」

仁「それは素人じゃ無理だ」50センチ以上もあるパイプを買って、何本指輪ができるか……

礼子「それもそうですね」

仁「とにかく、ロウ付けをせず、また鋳造でもない指輪の作り方、ということだな」

礼子「わかりました」


仁「蛇足だが、銀や銅系のコインで指輪を作っている人もいる」現行通貨でやると罪になりますのでご注意ください

礼子「ネットに動画があります」





挿絵(By みてみん)


仁「まずは素材だ」

礼子「市販されている銅のワッシャ(座金)です」

仁「おそらく純銅だろう」導電性やパッキン的な軟らかさを考えると合金ではないと思われます

礼子「大きいですね」

仁「ホームセンターにはあると思う」

礼子「今回はM12でしたがM10でもいいです」

仁「穴径は10ミリ以上は欲しいかな」M11があったら一番いいんですが




挿絵(By みてみん)


仁「そのままでは若干硬いので焼きなます」

礼子「ブタンガスカートリッジ使用のトーチランプ(ハンディバーナー)です」

仁「真っ赤になるまで熱してから水に入れて急冷する」

礼子「オレンジ色から黄色に近くなるまで熱すると銅は融けます」ご注意ください

仁「ピンセットはステンレス製の『逆ピンセット』だな」手を放しても保持してくれるのでこういうときには安心です




挿絵(By みてみん)


仁「おなじみ? のサイコロ玉台と矢坊主で変形させる」

礼子「持っていない人はどうしましょう」サイコロ玉台は高いですよね

仁「厚い木の板にドリルや彫刻刀、ノミ、ヤスリなどを使って凹んだ穴を空け、角材を削った矢坊主を叩き込めばそこそこいける」怪我にはご注意ください




挿絵(By みてみん)


仁「で、こういう風に変形する」

礼子「ちゃんと凹面になるもんですね」




挿絵(By みてみん)


仁「こうした塑性加工をしていると、金属は加工硬化を起こすから、慣れないうちは頻繁に焼きなましを行うといい」

礼子「その方が加工時に余計な力を入れなくて済みますからね」

仁「そうそう」




挿絵(By みてみん)


仁「このくらいになったら芯金に入れて加工する」

礼子「さすがに芯金は必要ですね……」

仁「ネットで見ると1000円くらいからあるな」

礼子「安いのはどうなんでしょうか」

仁「あくまで私見だが、木槌だけを使うなら安くてもいいが、今回のように(後述)金槌を使うなら焼きの入った芯金がいいと思う」焼きが入っていない場合、金槌が当たると凹みます

礼子「なるほど」その場合、5000円前後ですね




挿絵(By みてみん)


仁「木槌では時間が掛かるので金槌を使う」

礼子「ワッシャを差し込む向きは逆の方が叩きやすいかもです」

仁「なんとなく硬いかな、と感じたら焼きなます」その方がきれいに丸くなります




挿絵(By みてみん)


仁「加工途中の様子だな」

礼子「かなり丸くなりましたね」

仁「この場合『鍛金たんきん』に分類されるのかな……鍛金は、叩いて伸ばすだけではなく、叩いて『縮める』こともできるんだよな」

礼子「どういうことですか?」

仁「熟練の職人さんは、丸い1枚板から口のすぼまった壺を作ることができるんだ」鎚起銅器ついきどうきといいます

礼子「ああ、縮められなければそんな形にはなりませんものね」

仁「うん。だが、伸ばすのは楽だが縮めるのは難しい(らしい)ぞ」

礼子「なんとなく想像はできます」




挿絵(By みてみん)


仁「大分指輪っぽくなってきた」

礼子「小さい金槌ですね」

仁「場面に応じて使い分けているんだ」




挿絵(By みてみん)


仁「サイズを確認してみた」

礼子「15号……かなり大きいですね?」

仁「だなあ……メンズ用のサイズになりそうだ」このあと更に伸びます




挿絵(By みてみん)


仁「端面も少し整える」

礼子「平滑な鉄床かなとこの上で叩くわけですね」

仁「鉄床が平滑でないと、叩いた際に跡が付くからな」




挿絵(By みてみん)


仁「再度、サイズ確認をすると……」

礼子「あらら、17.5号くらいに」

仁「伸びるんだよ……」




挿絵(By みてみん)


仁「円筒形になったら、いよいよ研磨開始だ」

礼子「内側からですね」

仁「円筒状にサンドペーパーを成形したツールがあるんでそれを使った」

礼子「今回、かなり内側を削りましたね」

仁「指が触れる部分だからな」




挿絵(By みてみん)


仁「端面はベルトサンダーで削った」平らな板の上にサンドペーパーを敷いて指輪をこすりつけてもいけます

礼子「指を削ったりしないようご注意ください」ベルトサンダーで削ると熱くなるのでやけどにも注意、です



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「内側の仕上げをしていく」

礼子「PVA砥石というツールですね」リューターで削ります

仁「120番か180番くらいから始めて、240・320・400・600と番手を上げていく」保護メガネとマスクは必携です

礼子「800・1000・1500番なんてものもあります」




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「で、外側も同様に磨いていって、完成一歩手前だ」

礼子「光ってますけど、まだ完成じゃないんですか?」

仁「そうなんだよ。……銅は、銀よりも錆びやすいので、肌に触れる部分にはすずめっきをするのが常道なんだ」

礼子「アレルギー予防にもなりますね」

仁「うん。……『緑青ろくしょう』には毒がないと言われている(昔は有毒と言われていた)けど、肌に色がつくことがあるらしいから」

礼子「それで、そうした表面処理は次回以降、となるんですね」

仁「そういうことだな」

礼子「楽しみにしておきます」


*   *   *


礼子「それでは皆様、ごきげ……」

仁「まて」

礼子「はい?」

仁「まだ続きがあるんだ」

礼子「そうでしたか」


仁「同じ技法で、アルミニウムから指輪を作ってみた」

礼子「同時に公開ですか?」

仁「同じ技法だから、2回に分けるのもな」

礼子「なるほど、そうかもしれませんね」




挿絵(By みてみん)


仁「というわけで、アルミの板だ」

礼子「厚みは1.5ミリ、A1100ですから純アルミですね」

仁「軟らかいから鍛金に向くはずだ」




挿絵(By みてみん)


仁「さて、アルミをワッシャー状に加工しなければならない」

礼子「結構大きい穴を空ける必要がありますね」

仁「そこでこれだ」

礼子「シャーシーパンチ、でしたっけ」

仁「そうそう。本来は、電子工作の際にアルミのケースに大きい穴を空けるための工具だな」使い方はこのあとで

礼子「スイッチとかランプとかコネクタ(丸)などの取り付け穴ですね」

仁「それ以上大きい穴はハンドニブラーという工具や糸鋸を使うな」真空管時代?




挿絵(By みてみん)


仁「で、まずはどのくらいの大きさに切り取るかけがく」

礼子「直径は25ミリですね」




挿絵(By みてみん)


仁「予備加工として、シャーシーパンチの軸が入る穴を空けなければならない」今回は5ミリ径

礼子「中心はきちんと出しましょう」3ミリくらいのドリルで穴を空けてからリーマーで削る方法もあります

仁「作者は5ミリ径のドリルで空けたようだ」




挿絵(By みてみん)


仁「下穴にシャーシーパンチの軸を入れ、ハンドルを回す。この時『ウス』と呼ばれる受け刃は六角なので、万力に固定しておくといい」

礼子「ハンドルを回していくと刃がだんだんと食い込んでいくんですね」

仁「そういうことになるな。ちなみに、この工具は硬い素材には使えない」薄い(0.5tくらい)軟鉄とか真鍮、アルミだとせいぜい2ミリ以下だろうな

礼子「無理をすると刃が欠けたりネジ部がねじ切れたりします」それ以前にハンドルを回せないかも




挿絵(By みてみん)


仁「で、空いた」きれいな穴だ

礼子「今回は11ミリです」




挿絵(By みてみん)


仁「空いた穴と抜いた金属くずはこんな感じ」

礼子「抜いた方は曲がってしまいますね」

仁「これじゃ再利用は難しそうだ」




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「で、周りも丸く切り抜く」

礼子「作者さんはバンドソーでした」

仁「糸ノコでもいいけど、金切りハサミはちょっと辛いかな」1.5ミリ厚なので

礼子「周りは軽くヤスリがけしておきます」




挿絵(By みてみん)


仁「で、ワッシャ状になった」

礼子「アルミのワッシャって市販されていないんですか?」

仁「あまり見たことないなあ」とはいえネットでなら見つかりますが、サイズがなかなかいいのがなく……




挿絵(By みてみん)


仁「元々軟らかい素材なんだが、念のため焼きなます」

礼子「叩いていて割れたら嫌ですものね」純アルミは弱いですから

仁「で、銅ワッシャの時は紹介しなかった、作者の環境だ」アルミのレンジフードを立てて安全に留意しています

礼子「トーチランプも年代物ですね」

仁「だなあ」




挿絵(By みてみん)


仁「さて、TIPSの1つとして、アルミにフエルトペン(マジックなど)で印をつけておく」

礼子「どんな意味が?」

仁「アルミの融点は660℃なんだよ」熱しすぎると融けます

礼子「銀や銅より低いですね」銀は950℃くらい、銅は1085℃くらいです

仁「で、熱していってこのマーカーの印が消えたくらいで火から離すとちょうどいいんだ」

礼子「それは便利ですね」

仁「アルミのロウ付けをする際の目安にもなる」実際、そうした動画がありました




挿絵(By みてみん)


仁「で、焼き鈍したら変形させていく」なますところは銅と変わりません、温度が違うだけで

礼子「サイコロ玉台と矢坊主も同じですね」




挿絵(By みてみん)


仁「できるだけこの段階で指輪の形に近付けておく」

礼子「サイコロ玉台の凹みを徐々に小さくしていくんですね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、芯金に入れて叩いていくわけだ」

礼子「このあたりは銅と同じですね」

仁「うん。ただ、アルミの方がより軟らかいかな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、まめに焼きなます」

礼子「アルミは加工硬化している状態で叩くと割れますからね」

仁「ちょっと頻繁に、くらいがいいと思う」趣味なので




挿絵(By みてみん)


仁「叩いて叩いて叩いて……」

礼子「少しずつリングに近付いていきますね」

仁「うん。だけどな……」

礼子「なにか不都合が?」

仁「穴がでかくなっていくんだよ」

礼子「ああ、伸びていくんですね」




挿絵(By みてみん)


仁「ほぼリングになった」

礼子「ここから研磨ですね」




挿絵(By みてみん)


仁「少し『甲丸』と言って、断面がカマボコ状になるように叩いた」

礼子「削るのも手間ですからね」

仁「それに、金や銀、プラチナなんかで作るならあまり削り屑は出したくないからな」そのための練習という意味もある




挿絵(By みてみん)


仁「で、でかい」

礼子「20号超え……」汗

仁「アルミだから、芯金に入れて叩いているとどんどん伸びていくんだ」

礼子「指の円周がおよそ60.7ミリ、指輪の内径が約19.4ミリだそうです」完全にメンズサイズですね

仁「作者は手が小さいから、親指を除いてどの指もぶかぶかだった」

礼子「対策はありますか?」

仁「最初の穴を8ミリとか9ミリにするんだろうな」焼きなましの回数を減らしてもいいかも?




挿絵(By みてみん)


仁「端面を研磨する」

礼子「かなり凸凹してますものね」

仁「平らな板の上にサンドペーパーを置き、指輪を動かしてもいいだろう」手を削らないように注意です




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「で、銅リング同様にリューターを使って磨いて完成だ」

礼子「軽そうですね」

仁「アルミだからな」比重は2.7

礼子「銅は8.9、銀は10.5、金は19.3です」

仁「軽いだけじゃなく軟らかいから傷もつきやすい」

礼子「まあ単価が安いのが売りですね」

仁「傷がついたら磨けばいいからな」



*   *   *



仁「ということで今回は『銅・アルミワッシャの指輪』でした」

礼子「お疲れ様でした」

仁「作業時の怪我、火傷、火事などにはご注意ください」

礼子「研磨時には金属粉が出ることもありますので保護メガネを」マスクも必須です

仁「手を切ったら流水で洗い流しましょう」

礼子「汚れが傷口に残らないよう注意です」

仁「趣味は楽しく、安全に」



仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」

 ごらんいただきありがとうございました。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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