051 フロントユニット
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第51弾です」
礼子「フロントユニット……ってなんですか?」
仁「まあ半分作者の造語だな。RCカーの前輪周りをユニット化したもの、という意味だ」
礼子「ユニットですから交換できるわけですね」
仁「まあそうだな。前回のデフギヤとも組み合わせていくと自動車が出来上がっていくわけだ」
礼子「試作的な意味もあるんですね」
仁「そういうことだな。一度作ってみて、細かな修正をして……とするわけだが、ユニット式だと修正もやりやすい」
礼子「確かにそうですね」
仁「で、今回はフロント、つまり前輪周りだな。後輪はスケール上サスペンション化しづらいが、前輪は独立懸架させられる」
礼子「なるほど」
仁「だが、あまり凝った構造にすると強度が足りなくなるし、動作が渋くなったりもする」
礼子「そうかもしれませんね」
仁「だから、軽くて丈夫、動作も軽い、という構造が望ましい」
礼子「でしょうね……」
仁「そいうことで、今年の春、作者が入院していた時に暇に任せて練ったアイデアがこれらしい」
礼子「わかりました」
仁「まずは図面だ」トレーリングアーム方式だな
礼子「なるほど、これなら高さも抑えられますね」
仁「本来この構造は、実車の後輪に使われるんだけどな」
仁「では、アルミ板をカットする」厚みは1ミリ
礼子「材質不明のアルミですよね」わりあい硬いです
仁「純アルミ(A1050など)じゃあなさそうだ」もしかするとA6061かも
礼子「A6061は熱処理されるとジュラルミンに近い硬さになります」T6とかT651という処理ですね
仁「左右を同じ形にするため、重ねて削って整形する」
礼子「左の方にマス目がけがいてありますね?」
仁「ユニットを取り付けるための穴を空ける目安だな」
礼子「ああ、先に穴を空けてしまうと、組み上げた時に隠れてしまったりするからですね」
仁「そうそう」地味に面倒くさいんです
仁「で、左右対称に曲げる」ここが肝心
礼子「けがいた線にきっちり合わせるのがコツですね」
仁「あと、曲げた際に木槌などで叩いて直角に曲げることだな」金槌だと傷がつくので木槌かプラハンマーがおすすめ
仁「で、仮組み」軸は3ミリ径の真鍮です
礼子「どう動作するのかが想像つきますね」
仁「ステアリングナックルを作る」5ミリ角の真鍮棒に2ミリの穴を空け、2ミリ径の真鍮棒をはんだ付け
礼子「041-1 CTX−5 その1 で作ったものと同じです」あちらは6ミリ角の真鍮棒でしたが
仁「詳しくはそちらを参考にしてください」
礼子「今回も失敗を考慮して4つ作ってます」
仁「今回は、ナットをはんだ付けしないで穴に直接M2のねじを切る」
礼子「小さくしたいからですね」
仁「うん。……まずM2用の下穴、1.6ミリを空けて全面にめねじを切った後、途中までM2ドリルでさらうわけだ」
礼子「全部さらうとねじを切った意味がなくなるので注意ですね」
仁「で、切り離す」
礼子「キャスタートレールでしたっけ、ちゃんとオフセットされていますね」
仁「で、フロントホイールと合わせてみる」
礼子「フロントホイールは前回、リヤホイールと一緒に加工しましたね」具体的には2ミリの貫通穴を中心に通しました
仁「で、専用シャフトを作る」端におねじを切ってナックルのねじに噛み合わせます
礼子「これも 041-1 CTX−5 その1 で作っていますのでそちらを参考にしてください」
仁「長さを決めます」
礼子「短いとホイールを止められませんし、長いとガタがでますからね」
仁「ねじ部で多少調整できるけど、まあ1ミリくらいの誤差に収めたいな」
仁「これも 041-1 CTX−5 その1 と同じように、シャフトの頭に六角ナットをはんだ付けする」ナットには切れ込みを入れてます
礼子「地味に面倒ですね」
仁「だな」
仁「スイングアームにナックルを合わせてみた」
礼子「こんどはナックルアーム(ステアリングアーム)を作るんですね」白いのが型紙です
仁「型紙に合わせてけがく」厚さ0.5ミリの真鍮です
礼子「これも同じ形にしないといけませんね」
仁「ナックルアームをカットした」作者はバンドソーです
礼子「怪我にはくれぐれもご注意ください」
仁「左右を同時に加工するため、M2のねじで2つを固定して重ねて削る」
礼子「同じ大きさにするのが肝要です」
仁「はんだ付けするところは写真に取り忘れたけどステアリングナックル完成だ」
礼子「だんだん形になってきますね」
仁「RC用なので、サーボを配置してみる」
礼子「小型のサーボですね」
仁「できれば、駆動軸は中央に持ってきたい」左右に偏ると、ステアリング特性が左右で変わってしまうから
仁「サーボを追加工する」
礼子「取付用の出っ張りを取ってしまうんですね」
仁「いろいろぶつかるからな」
仁「で、改めて配置を確認する」
礼子「らしくなってきましたね」
仁「で、ステリングナックルをアームに取り付けるわけだが、こんな形のアルミを使う」
礼子「サッシ用などでこうした『ハカマ』と呼ばれるアルミ材があります」これはハ◯ズで購入しました
仁「段差が5.5ミリなので、5ミリ角の真鍮で作ったステアリングナックルを止めるのにいいわけだ」今回5ミリ角にしたのはこれを使いたかったからです
仁「で、合わせてみると……」
礼子「あの、スイングアームの形が……」
仁「うん。悲しかった」
礼子「……」
仁「で、スイングアームを作り直した」
礼子「大変でしたね……」さらっと書いてますが
仁「まあな……」
仁「で、取り付けはM1.4のなべ小ねじだ」
礼子「眼鏡などに使われているねじですね」
仁「M2だと重くなりそうでな……」
礼子「作者さんは秋葉原のねじ屋さんで購入しました」タップはハ◯ズで
仁「ずれないように加工する」
礼子「1つ穴を空けてねじを切って、そこにねじ止めしてまた穴を空けて……ですか?」
仁「いや、最初に2つを重ねてテープで止め、M1.4用の下穴、つまり1ミリの穴を空けておくんだ」
礼子「ああ、ねじを切らない方は1,4のドリルで空け直すんですね」
仁「そうそう」
仁「部品完成だ」
礼子「ワッシャ(0.3ミリ厚)を1枚入れるんですね」
仁「高さが5.5だから、5ミリ角+0.3でちょうどいい具合になるんだ」
仁「組み立ててみた」
礼子「いい感じですね」
仁「組み付けてみる」スイングの軸はまだ固定してません
礼子「いかにもユニットですね」
仁「しかし、ここで思わぬトラブルが」
礼子「え!?」
仁「それは次の写真でな」
仁「サーボの筐体がスイングアームと干渉するので、これ以上サーボを動かせないんだ」写真の上方向へ動かしたいのですが
礼子「あらら」
仁「仕方なく、スイングアームをスリム化する」バンドソーで切ってから削りました
礼子「試作あるあるですね」
仁「確認だ」
礼子「今度は大丈夫そうですね」
仁「今度は、サーボ固定用の部品を作る」
礼子「アルミのアングルですね」
仁「厚みが1ミリの軽量なやつだ」ホームセンターで購入しました
仁「取り付け穴は長穴にして、1ミリくらいは左右に調整できるようにする」
礼子「強力な両面テープでアングルをサーボに貼り付けています」
仁「2ミリのさら小ねじでユニットに取り付ける」
礼子「ちゃんと座繰りをしてますね」
仁「ねじの頭が出っ張るとまずいからな」
仁「コネクティングロッド、略してコンロッド(タイロッド)を作る」
礼子「これも 041-1 CTX−5 その1 で作っていますのでそちらを参考にしてくださいね」
仁「今度はサーボホーンを加工する」
礼子「元のままだとM2のねじが入りませんからね」
仁「軟らか目のプラだから、ねじを強引に入れても入りそうだが、こうした丁寧な加工が品質に影響したりする」
礼子「作者さんの実感がこもってますね……」
仁「で、組付けだ」
礼子「M2ナット=サーボホーン=M2大径ワッシャ=3ミリ外径パイプ=M2大径ワッシャ=M2なべ小ねじ、ですね」
仁「そこにタイロッドの3ミリ穴を通すわけだ」
仁「組んでみた」
礼子「形になりましたね」
仁「動作の様子だ」
礼子「独立懸架してますねー」
仁「路面の凹凸にはこれでいいんだろうがな」
礼子「何か問題が?」
仁「車体が傾いた場合にな……」
礼子「ああ、タイヤの接地面はユニット(=シャーシ)と平行ですからね」
仁「実車の場合、タイヤが持ち上がると少し傾くようになっているらしい」その辺はサスペンションの特性にもよります
仁「さて、サスペンションのばねを準備する」
礼子「今回はねじりコイルばねですか」
仁「トーションばねとも言うな」コンパクトに纏めるには絶好ですので
礼子「針金で試作ですね」
仁「ばね線ではなく、本当にただの軟鉄の針金でな」
仁「簡単に作ってみた」
礼子「今回は3ミリの軸に巻き付ければいいわけですね」
仁「そういうことだな」
仁「セットしてみた」
礼子「よさそうですね」
仁「ばね線ではないから非常に弱いが、サスとして働いてくれそうだ」
仁「で、車体側はこうして止めて、強度を調整できるようにするつもりだ」
礼子「サーボの取り付けねじをM2x25にしたんですね」
仁「ナットを下げるとサスが硬くなり、上げると軟らかくなるわけだ」
仁「で、いよいよばね線で作ってみる」
礼子「ステンレスのばね線、0.3ミリ径ですね」
仁「で、調整可能な様子」
礼子「試作ですから調整できるのはいいですね」
仁「まあなあ。作者としては、もう少し実車的な構造にしたかったらしいが」
仁「で、最終的にはステンレスばね線0.6ミリ径で作ることになった」
礼子「ばね線は硬いですよね? どうやって曲げるのですか?」
仁「丸い断面のくちばしをしたラジオペンチで作ったんだ」
※20250727 0.55ミリのステンレス針金で作ると、手で曲げられる(巻いていける)上、ばね強度もそこそこ確保できました。
仁「フロントユニット完成だ」
礼子「ばねの力でスイングアームが押されてますね」
仁「横から」
礼子「ばねの位置がよくわかりますね」
仁「前から」
礼子「ばねの様子がよく見えます」
仁「上から」
礼子「完成ですね、お疲れ様でした」
仁「いずれ、これを使ったCTXー6をご紹介したいです」
* * *
仁「ということで今回は『フロントユニット』でした」
礼子「お疲れ様でした」
仁「作業時の怪我、火傷にはご注意ください」
礼子「フラックスが目に入った場合は流水で洗い流し、眼科へ」
仁「手を切ったら流水で洗い流し、汚れが傷口に残らないよう注意です」
礼子「最近は暑いので、熱中症にもご注意ください」
仁「趣味は楽しく、安全に」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
20250731 修正
(誤)礼子「なるほど、これなら高さも押さえられますね」
(正)礼子「なるほど、これなら高さも抑えられますね」




