050 小型デフギヤユニット
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第50弾です」
礼子「小型デフギヤユニット……デフギヤってなんですか?」
仁「正式には『ディファレンシャルギヤ』という」日本語訳は『差動歯車装置』
礼子「名前はわかりましたが……」
仁「慌てるな。順を追って説明するから」
礼子「はい」
仁「自動車に使われる装置なんだ」
礼子「はい」
仁「自動車というのは、基本的には4つの車輪……前に2個、後に2個付いているんだが、車輪の中心を貫く軸が独立していないといろいろ不具合が出る」
礼子「どのようにですか?」
仁「直進している時はいいんだが、曲がろうとすると、外側の車輪と内側の車輪では、回る速度が違ってくる」半径の違う円弧の周長を考えてみるといい
礼子「そうなりますね」
仁「そうなると、左右の車輪を1本の車軸で繋いでいた場合、外側か内側、もしくは両方の車輪がスリップを起こす」
礼子「確かに」
仁「つまり、カーブでの効率が落ちるんだ」
礼子「そうなりますね」
仁「この辺は『デフギヤ 働き』で検索するといろいろ詳しいことがわかると思う」
礼子「つまりは、それを作ろうというんですね」
仁「ちょっとだけ違う」
礼子「?」
仁「さすがに模型用(20分の1から24分の1用)を1から作るのは無理だったようで、市販品(RC模型用)を改造することになる」ミニ◯駆用のギヤで作ろうとしたこともあったようだが挫折したそうだ
礼子「わかりました」
仁「では、大元になる部品だ」
礼子「MIN◯Z用のデフギヤですね」
仁「うん、そういうことだな。このままだと、専用のホイールしか取り付けられないことと、片輪にギヤが接しそうになるのが嫌なんだとさ」作者が
礼子「なんとなくわかります」
仁「で、それを利用したデフギヤユニットの図面だ」
礼子「ややこしいですね」
仁「左右の幅は作りたい模型に合わせるんだが、作者の場合はおよそ100ミリにするようだな」
礼子「以前作ったCTXー5と同クラスですね」
仁「そうそう」
礼子「しかし複雑ですね」パイプを何段にも重ねているようです
仁「仕方ないな。真鍮ならそこそこはんだ付け性がいいし、加工性もまずまずだから」
礼子「車輪のホイールがはまる部分の径は3ミリになります」
仁「段をうまく作れば2ミリもいけるだろうな」
仁「で、素材だ」
礼子「上4本がパイプで、下2本は丸棒です」
仁「六角ナットは真鍮の電気ビス用です」はんだ付け性がいいので
礼子「2ミリ径のカーボンロッドは、剛性がほしいのでこのチョイスになりました」2ミリ径の真鍮線やピアノ線でもいいです
仁「で、パイプを切るために使う工具だ」
礼子「パイプカッターっていうんですね」
仁「ナイフの刃を立てて、パイプに押し付けて前後にころころさせると切ることができるんだが、それをちゃんとした工具にしたものだな」
礼子「昔の模型製作指南書に、ニューム管(アルミニウムのパイプ、竹ひごをつなぐのに使う)を切るやり方として書かれていましたね」今もそうなのかはちょっとわかりませんが
仁「そうそう」
仁「で、図面にあるような寸法に切って、ちょっと組み合わせてみた例がこれ」
礼子「ちゃんとはまってますね」
仁「だが実際には『嵌め合い公差』の関係で、きついんだよな」入らないこともしばしば
礼子「どういうことですか?」
仁「工業製品には、必ず誤差がつきまとう。その許容範囲を決めたものが『公差』なんだ」JIS(日本工業規格)にあります
礼子「そうしますと、今回の場合は?」
仁「一般的なパイプの場合、『厚み』の公差があって、大抵、『0〜+Xミリ』となる」
礼子「もう少しわかりやすく」
仁「例えば3ミリ径のパイプを例に取ると、外径は3ミリプラスマイナス0.05ミリくらい」つまり2.95ミリから3.05ミリです
礼子「はい」
仁「厚みは0.5ミリプラス0.02ミリマイナス0ミリ、となっていたりする」つまり厚みは最小で0.5ミリ、最大で0.52ミリということです
礼子「そうなりますね」
仁「ここに、外径の公差も含めると、内径は最小で1.91ミリ(2.95ー0.52−0.52)。最大で2.05ミリ(3.05ー0.5ー0.5)となるな」同じ値を2回引いているのは肉の厚みなので、です
礼子「なるほど」
仁「そこに、2ミリプラスマイナス0.04ミリの丸棒やパイプを差し込もうとしたら?」
礼子「入らない場合がありますね」
仁「今回もそんな感じで、入れる側(直径が小さい側)の外径をサンドペーパーやスポンジヤスリで磨いて小さくしたんだ」意外と時間がかかりました
礼子「おつかれさまでした」
仁「ではここで、使用するホイールを見てみよう」
礼子「ミニ◯駆のものですね」
仁「このスケール感がちょうどいいんだ」手に入れやすいし
礼子「前輪用と後輪用があります。今回使うのは後輪用です」
仁「2ミリ穴を3ミリに広げる」3ミリのドリルを使います
礼子「垂直に空けるためボール盤を使っています」怪我にはご注意ください
仁「面倒だが、2,5ミリ→3ミリとした方がより精度よく空けられる……気がする」その分手間が掛かりますが
仁「出っ張りを削る」
礼子「シャフトに固定するためですね」
仁「そうなるな」
仁「で、リュータービットよりも何よりも、彫刻刀が一番使いやすかったなあ」
礼子「ホイールは軟らかいプラスチックですものね」ポリエチレンかポリプロピレン
仁「表側にあったナットを模した出っ張りも削り取ってしまう」
礼子「固定は本物のナットを使いますからね」
仁「最後に、あとで出てくるがシャフトにピンを立ててホイールが空転しないようにする、そのために溝を作っておく」
礼子「これもリューターですね」
仁「極小の彫刻刀があればいいかもな」
仁「さて、金属加工の準備だ」
礼子「MDFにパイプの外径にピッタリの穴を空けて、そこに差し込むんですね」
仁「パイプは万力で挟むわけにいかないからな」つぶれてしまいます
仁「どういう加工かというと……」
礼子「ああ、デフギヤユニットのこの部分にピッタリはまるようにしたんですね」
仁「そういうことだな。平角ヤスリでひたすら削った」削り過ぎにはご注意ください
仁「では、いよいよデフギヤユニットをバラす」
礼子「写真の矢印はEリングですね」
仁「そうだ。外すための専用工具もあるが、この大きさならマイナスドライバーのごく小さいもの(時計用とか)で外せる」外れた際に飛んでいく可能性が大ですのでご注意ください
仁「分解するとこうなっている」
礼子「細かい部品がありますね」
仁「ああ。デフギヤケースの中にある3つの傘歯車とかな」これがデフの肝ですのでなくさないようにしてください
礼子「使うのは、白いプラシチック部品です」
仁「仮組みしてみた」
礼子「ちゃんと組み合わさりますね」
仁「きつい時はヤスリでひたすら削ります」作者も苦労しました
礼子「削り過ぎにはくれぐれもご注意ください」怪我にも
仁「で、部品完成だ」
礼子「1つ目の写真と何が違うんですか?」
仁「はんだ付けしてあるんだ」
礼子「ああ、よく見るとわかりました」
仁「で、ユニットとして組んでみる」
礼子「ちゃんと組み上がりますね」
仁「うん、よかったよかった」
仁「ホイールと組み合わせてみる」
礼子「ぴったりですね」
仁「幅も、100ミリに収まるよな」
仁「で、ホイールが外れないように締め付けるためには六角ナットを使うんだが、そのために軸におねじを切らなければならない」
礼子「そのためのタップですね」
仁「真鍮に切るのは比較的楽でいいな」でも切削油は使ったほうがいいです
仁「で、ホイールが空転しないように、スプリングピンを打ち込むんだが、その位置をマーキングする」
礼子「先ほどホイールに溝を切った、あれですね」
仁「そうそう」
礼子「反対側にナットを適当な位置に取り付けておけば間違えませんね」
仁「スプリングピンは1ミリ径、長さ8ミリ」
礼子「治具を使って3ミリの真鍮丸棒に1ミリの穴を空けます」
仁「これにも公差があって、ピン側は1ミリ径なら最大1.2ミリ、最小1.1ミリなので、1ミリの穴を空ければOK」穴の公差は 1ミリ プラス0.08 マイナス0です
仁「またまた仮組みだ」
礼子「今度は何を確認するんですか?」
仁「実は、左右の端にあたる3ミリ径の丸棒はまだはんだ付けしていないんだ」
礼子「ああ、スプリングピンの穴を空ける必要がありましたからね」
仁「そういうことだな。で、今度はホイールをはめてみて、左右の幅が狙った値になる位置にマーキングする」
礼子「それで最終的な位置を決めたらはんだ付け、ですね」
仁「そうそう」
仁「最終的な仮組みのため、スプリングピンの代わりに竹串を削って作ったピンを差し込んでおく」
礼子「これで結構使えますね」
仁「写真では見えないが、ホイールをナットで軽く止めて仮組み完成だ」
礼子「幅もちゃんと95ミリに収まってますね」
仁「タイヤを嵌めると1ミリくらい出っ張るかもな」それでも97ミリ、100ミリ以内という目標値に入っています
礼子「ですが、このままじゃ……」
仁「そう。左右に引っ張ると、デフギヤの部分で分かれてしまう」
礼子「どうするんですか?」
仁「ギヤボックスを作る際、軸受は4ミリ軸用にして、段差の部分で抑えるようにするんだ」いずれ載せます
礼子「ちなみに6月30日現在、作者さんはまだ手を付けていません」
仁「いずれ、これを使ったCTXー6をご紹介したいです」
* * *
仁「ということで今回は『小型デフギヤユニット』でした」
礼子「お疲れ様でした」
仁「作業時の怪我、火傷にはご注意ください」
礼子「フラックスが目に入った場合は流水で洗い流し、眼科へ」
仁「趣味は楽しく、安全に」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




