049-1 6分の1模造刀 その1
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第49弾その1です」
礼子「今回は模造刀ですか」
仁「うん。日本刀好きの作者が中学生の頃から手掛けているジャンルだ」
礼子「ある意味ライフハックですね」
仁「それを言うならライフワークだろ」
仁「まずは図面だな」
礼子「小さいですよね」
仁「6分の1だからな。実物は2尺2寸〜2尺5寸くらいだから、メートル法で66センチ〜75センチといったところだ」例外はあります
礼子「6分の1ならフィギュアやドールに持たせられますね」
仁「そうなるな」
仁「素材は2ミリ厚のアルミ合金だ」A2017、ジュラルミンです
礼子「鉄や鋼じゃないんですね」ナイフ用の鋼材も2ミリ厚とかありそうですが
仁「それをやったら銃刀法に触れるからな」
礼子「そうなんですか?」
仁「うん。まずは『刃渡り6センチ以下の刃物』である必要がある」
礼子「これは70ミリ……7センチですものね」
仁「ちなみに『刃渡り15センチ以上の刀・槍・薙刀』もだめだ」
礼子「日本刀の形のナイフも作れないわけですね」
仁「そういうことになる」
礼子「だからアルミ合金(非鉄合金)で、模造刀なんですね」
仁「模造刀であっても『携帯』つまり持ち歩くと『軽犯罪法』違反になることもあるから要注意だな」だから包丁をむやみに持ち歩くと違反になる恐れが
礼子「面倒ですね」
仁「ある意味テロ予防の法律だからな」
礼子「買って帰る、ならいいんですよね?」
仁「ちゃんと梱包されていないとまずいけどな」あと、研ぎに出した場合もちゃんと梱包しておかないとまずい
礼子「皆さん、法律はきちんと理解して遵守しましょう」
仁「気を取り直して、カットするためのけがきだ」
礼子「大まかにカットしてから細いマジックで描いてます」
仁「あと、ボール紙でテンプレートを作って線を引きました」
仁「で、切りました」
礼子「作者さんはバンドソーですね」
仁「糸鋸でも切れるし、ヤスリでひたすら削るというとも可能だ」手間が大変ですけど
仁「まずはおおよその形に成形だ」
礼子「ヤスリですね」
仁「作者はベルトサンダーでやったようだな」
礼子「滑らかな曲線になるよう心掛けてくださいね」
仁「ああ、そうそう、この曲線は懸垂線という2次曲線らしい」
礼子「懸垂線?」
仁「作者が私淑している岩崎氏の著書では『欄の葉が枝垂れたよう』という表現が出てくる」
礼子「単なる円弧じゃないということですね」
仁「そうだな。特に平安〜鎌倉期の古刀だと、手元に近い側の反りがややきつく、先端に行くに従って反りが浅くなる傾向にあるな」
礼子「鞘から抜けなくなりませんか?」
仁「刀身の幅も先細になるから大丈夫だ」
礼子「ああ、なるほど」
仁「刃の厚さも先端に行くに従って薄くする必要があるから、その準備だ」
礼子「ベルトサンダーを使うんでしょうけど、何をやっているんですか?」
仁「そのまま刀身を当てると、どうしてもしなるので、きれいな先細り(テーパー)にならないんだよ」
礼子「あ、だから『当て木』をするんですね」
仁「適当な木切れに両面テープで仮固定するだけだしな」
礼子「手作業の場合は、平らな板の上にサンドペーパーを置いて削るといいです」
仁「で、先端部を1.4ミリくらいに薄くした」
礼子「手元は2ミリそのままですね」
仁「すこーしだけ削れたかもしれんがな」
仁「続いて鎬線の加工、つまり刃付けの準備だ」
礼子「鎬とは何ですか?」
仁「刀を横から見た時に、刃と峰の間にある尾根状の線が鎬だ」
礼子「しのぎを削る、の語源ですね」
仁「うん。あれは刀同士を打ち合い、鍔迫り合いをしてその鎬線同士がこすれるほどの熱戦に例えているわけだ」
礼子「なるほど」
仁「で、同時に万力も準備する」
礼子「何をやっているんですか?」
仁「大きな万力に小さな万力を組み合わせて、加工物(刀身)を水平に咥えられるようにしている」
礼子「水平に咥えないとだめですか?」
仁「だめじゃないが、削りにくいぞ」主に目線の関係で
礼子「テーブルに万力を90度傾けて取り付けられればいいんですよね?」
仁「ああ。別に2台組み合わせるのが目的じゃないからな」
仁「で、こう挟んでヤスリで削っていく」
礼子「なるほど、削った面が見やすいですね」
仁「そういうことだな」ナイフ用のバイスというものがあって、それもこうしてワークを水平に保持できます
仁「ひたすら削っていく」
礼子「削り過ぎに注意ですね」
仁「そうだな。……ジュラルミンは粘りがなくて切削性がいいから楽だった」ナイフ用鋼材は粘りが強いので疲れます
仁「で、加工後」
礼子「おお、刀っぽくなってきましたね」
仁「モノが小さいこともあって、15分くらいで削り終えたな」
礼子「削り過ぎには注意です」大事なことなので2度言いました
仁「今度は拵を作っていく」
礼子「まずは……何ですか?」0.05ミリの真鍮板と低温銀ロウ?
仁「まずは『はばき』だな」
礼子「はばきとは?」
仁「刀を鞘から抜くと、多くは金色をしている部品があるだろう」
礼子「ああ、なんとなくわかりました」
仁「刀が鞘からすっぽ抜けないようにしているパッキンのような働きをしているんだ」
仁「で、それを0.05ミリの真鍮板で作る」0.1ミリでも作れます
礼子「ハサミで簡単に切れますね」
仁「うん。ちょっと幅を広めに切っておく」あとで削ればいいから
仁「で、それを刀身に巻いて形どる」
礼子「現物合わせですね」
仁「この大きさで誤差が0.5ミリもあったら致命的だからな」一品生産だし
仁「で、それを銀ロウ付するために、からげ線を使って巻きが戻らないよう仮固定する」
礼子「からげ線ってなんですか?」
仁「彫金で使う、軟鉄線だな。表面は多分黒錆コーティングがされていて、銀ロウやはんだが付かないんだ」
礼子「それはいいですね」ステンレス線はたまにはんだが付いちゃいますし
仁「ついでに言っておくと、はんだではなく銀ロウを使うのは、あとでめっきをするかもしれないからだ」
礼子「ああ、はんだにはめっきがノリにくいですからね」
仁「で、ロウ付けをする」片方は少しはみ出てもいい
礼子「そういえば、はんだごてでいいんですか?」
仁「うん。今回の『低温銀ロウ』は、『マ◯リックス・アイ◯』で扱っている、はんだごてで溶ける銀ロウなんだ」融点220度C
仁「で、茎……柄の方から差し込むんだが、多分きついから、少しずつ極小ヤスリで削っていく」
礼子「きれいにはまりましたね」
仁「うん。ロウ付けしたときのはみ出しがストッパーになっていて、これ以上刃先方向には動かないんだよ」
礼子「うまく出来てますね」
仁「次は鍔だな」
礼子「これも真鍮ですね」厚みは0.8ミリです
仁「銅でもいいな」実際は鉄、赤銅、真鍮、銅、銀などが使われているようです
仁「そして楕円テンプレートも用意した」
礼子「今回はシンプルに楕円形の鍔にするんですね」
仁「うん。……ネットで見るといろいろな形があるが、なにせ6分の1だからな」
仁「真っ先にやるのは穴あけだ」
礼子「なぜですか?」
仁「円形ならいいが、楕円形は上下左右があるから、穴が少しでも曲がると刀身に装着した際にみっともないからな」
礼子「わかりました」
仁「ここからヤスリで穴を拡張し、茎に合わせながら削っていく」これも現物合わせで
仁「穴加工が終わったところだ」
礼子「茎の断面に合わせているのがわかりますね」
仁「ここに楕円の形をけがく」
礼子「なるほど、これなら曲がりませんね」
仁「そういうことだ」
仁「で、切り抜いて、成形していく」
礼子「これもヤスリですね」
仁「小さいから、力を入れすぎるとすぐに削りすぎてしまうから要注意だな」
仁「で、磨く」
礼子「スポンジヤスリですね」
仁「鏡面まではしなくていいかな」
仁「で、今回は『古美』にしてみる」
礼子「鍔がテカテカなのはなんとなく不自然ですしね」(個人の感想です)
仁「で、『酸化銅』(正式には酸化第二銅?)の被膜を作るため、トイレ用クリーナー(アルカリ性)に漬け込むんだ」ステンレスの針金で吊るしておきます
礼子「?」
仁「ネットに動画が上がっているが、クリーナーの中の『次亜塩素酸ナトリウム』が酸化剤の役目をして、酸化銅の被膜を作ってくれるらしい」本来の用途ではないので自己責任でお願いします
礼子「強アルカリですので皮膚が溶けます」ぬるぬるするのは溶けているからです
仁「取り扱い時には保護メガネや保護手袋を付けてください」
礼子「くれぐれも事故にはご用心です」
仁「で、気温にもよるが一晩漬けておけば使い古した十円玉みたいな色になる」硫化じゃないので真っ黒にはなりません
礼子「よく水洗いをしてくださいね」その際にも手と目の保護を忘れずに
仁「で、ここまで完成した」
礼子「あとは来月ですね」
仁「結構手間が掛かるからなあ」
* * *
仁「ということで今回は『6分の1模造刀』でした」
礼子「お疲れ様でした」
仁「作業時の怪我、やけど、薬品による中毒にはご注意ください」
礼子「薬品が目に入った場合は流水で洗い流し、眼科へ」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
20250331 修正
(誤)礼子「薬品が目に入った場合は流水て洗い流し、眼下へ」
(正)礼子「薬品が目に入った場合は流水で洗い流し、眼科へ」




