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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
64/73

048 蒔絵

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第48弾です」

礼子「今回は蒔絵ですか」

仁「うん。今月作者は入院して手術までしているからあまり無理ができなかったようだ」作業場は寒いし

礼子「蒔絵でしたら居室でできますからね」

仁「そういうことだな」

礼子「蒔絵って、金粉を使うんですよね?」

仁「本物はそうなるが、練習としては擬似金粉を使うんだ。今金粉は高いし」

礼子「おいくらくらい?」

仁「丸粉(球形の金の粉)だと1グラムで2万5千円くらいだな」昔は4グラムで2万円くらいだったのに

礼子「粉にする加工費も入っているんですね」

仁「そういうことになる」






挿絵(By みてみん)


仁「まずは型抜きだ」

礼子「はい?」

仁「桜好きの作者としては、桜の花を蒔絵で描いてみたいらしい」

礼子「ああ、なるほど」

仁「で、手描きだとどうしても歪むので、こういうパンチを購入した」

礼子「なるほど、そういうことですか」




挿絵(By みてみん)


仁「で、マスキングテープをこのパンチで抜くわけだ」

礼子「剥離紙にマスキングテープを貼ってから抜くわけですね」

仁「そうだ。……剥離紙はできるだけ薄いものがいいな」これは以前買った100均の貼れるちりめんの剥離紙です

礼子「言い方は悪いですが、安物っぽくてペラペラですものね」

仁「そうだな」高級な(?)剥離紙は丈夫なのでパンチで抜きにくいです




挿絵(By みてみん)


仁「手板を用意する」手板というのは漆塗りの小さな板のことで、漆職人はこれを練習に使います

礼子「作者さんは黒いツヤ紙を100均のスチレンボードに貼って使ってます」

仁「3枚ほどマスキングしてみた」




挿絵(By みてみん)


仁「漆の準備だ」下地用の生漆と真鍮粉(疑似金粉)です

礼子「容器はお豆腐の入っていたポリエチレン容器ですね」ほとんどの溶剤に対し耐性があります

仁「真鍮粉は練習用の疑似金粉で、簡単には錆びないよう表面にコーティングしてあるそうだ」




挿絵(By みてみん)


仁「で、蒔絵道具だな」転がらないよう自作の『筆置き』に置いてます

礼子「左からガラスペン、平筆、粉筒ふんづつです」

仁「ガラスペンは、ネットでアクリル絵の具を薄めるとガラスペンで描けるというので試してみた」

礼子「で、どうでした?」

仁「結局駄目だったのでここでは紹介しない」やっぱり前回作ったアルミの烏口の方がいいようです

礼子「平筆はまあいいとして、『粉筒ふんづつ』とは?」

仁「竹とか葦の茎のように中空な筒の両端を斜めに切って、片方には『しゃ』、つまり目の粗い布を貼ったのものだな」ここに金粉を入れて振りかけるようにして使います

礼子「ああ、『ふるい』みたいなものですね」というか超小型のふるいですね

仁「しゃの目の粗さによって粉の粒度も変えていくんだ」だから粗い粉用、中くらい用、細かい粉用など揃える必要があります




挿絵(By みてみん)


仁「で、漆を塗る」少し薄めて、あまり厚塗りしないようにした

礼子「マスキングテープからはみ出さないよう注意です」




挿絵(By みてみん)


仁「実験だから、2つは剥がしてみた」

礼子「なぜですか?」

仁「模型でマスキングテープを使ったことのある人はわかると思うが、マスキングテープと塗料の境界は、表面張力でなのか、ちょっと塗料のエッジが厚くなるんだよ」

礼子「ああ、それで塗ってすぐに剥がしたんですね」

仁「模型用塗料だと乾く前に剥がすと糸を引いたり塗料を引きずったりするが、漆はそれはなかった」

礼子「剥がしたあとも桜の形はちゃんとシャープに残っていますね」

仁「うん。で、1つはそのまま残してある」こっちは漆が乾いてから剥がしてみます




挿絵(By みてみん)


仁「粉筒ふんづつを準備する」

礼子「実験用の薬用さじで真鍮粉を粉筒ふんづつに入れてますね」

仁「静電気が起きにくいからな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、粉蒔きだ」散らばらないよう、ステンレスのトレイ(バット)に紙を敷いて、その上でやってます

礼子「コツはありますか?」

仁「粉筒ふんづつは筆を持つように人差し指・中指・親指で持って、人差し指の爪でコツンコツンと粉筒ふんづつを叩くようにすると少しずつ粉が落ちてくれる」

礼子「要は狙った場所に少しずつ粉を振りかけられればいいんですね」

仁「そういうことだ」あと、粉の種類が混じらないよう、粉筒ふんづつはそれぞれの粉専用のものを使ってください


礼子「このまま、漆風呂(むろ)に入れて乾かす(硬化させる)んですね」

仁「うん。2日間いれておいた」




挿絵(By みてみん)


仁「漆が硬化したらマスキングを剥がすぞ」

礼子「はい」

仁「まずは金粉を、軟らかい刷毛や筆の先で払い落とす」

礼子「今回は真鍮でしたけど、金だと無駄にできませんものね」

仁「くしゃみなんかは絶対できないな」


*   *   *


仁「で、剥がすと……」

礼子「どっちもエッジはちゃんと出ていますね」

仁「そのようだ」ただ、マスキングテープを貼りっぱなしだった方はツヤ紙が波打ってしまったけど

礼子「そっちは蒔絵技法とは無関係ですものね」紙の問題です

仁「金粉(真鍮粉)にムラがあるのは筆で漆を塗った刷毛目だな」

礼子「ちょっと目立ちますね」

仁「この後の本番では対策しよう」



*   *   *


挿絵(By みてみん)


仁「では、もう少しちゃんとデザインした蒔絵の練習に入る」

礼子「まずはデザインというか意匠ですね」

仁「色違い(蒔く粉の色を変える)の桜の花を散りばめてみる」

礼子「色違いの花びらをパンチで抜いて、それをパズルみたいに並べてデザインを決めるんですね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、このデザインに決定」

礼子「躍動感? がありますね」

仁「ただ並べるんじゃ芸がないからな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、それを見本とするため、透明なテープで貼りとって、見やすいように黒い紙に貼る」

礼子「確かに見やすくなりました」

仁「色分けした花に合わせ、蒔く粉の色も変えるつもりだ」




挿絵(By みてみん)


仁「本番はこれに蒔く」

礼子「これは?」

仁「ブローチ用のベースだ」

礼子「ホオノキやカツラを丸く削っています」直径は48ミリ、厚さは4ミリくらいです

仁「そこに漆で下地を付け、黒漆を重ね塗りしている」




挿絵(By みてみん)


仁「まずは1箇所」

礼子「見本で1枚だけ黄色を使った部分ですね」見づらいですが

仁「そうそう」ここを基準に位置決めします




挿絵(By みてみん)


仁「粉の準備だ」

礼子「今度は真鍮じゃないんですね?」

仁「うん。マイカ(雲母)の粉に着色した『パール顔料』というやつだ」

礼子「プラモデルの塗装によく使いますね」

仁「これもそうだな。……だが意外と応用は広い」漆芸用にもパール顔料は売っています




挿絵(By みてみん)


仁「まずは拭き漆」生漆を塗った後軽く拭き取ります

礼子「それで大丈夫なんですか?」

仁「パール顔料は細かいし軽いから十分くっつくぞ」




挿絵(By みてみん)


仁「今回は真綿で蒔いてみた」

礼子「真綿、というと蚕の繭から取った綿ですね」

仁「そうそう。漆塗り専用もあるし、布団綿としても売っている」でも布団綿では多すぎますが

礼子「木綿わたではだめなんですか?」脱脂綿とか

仁「駄目、と言われているな」試したことはないですが

礼子「いつか試してもらいたいですね……」


仁「真綿は繊維が細くて、顔料を優しく保持してくれるんだ」

礼子「なるほど」

仁「パール顔料というのはマイカ(雲母)だから扁平なんだ。それを真綿に付けて、拭き漆した面の上を触れるか触れないかくらいで撫でるように動かすと、平らにくっついてくれる」蒔きっぱなしだと粒子が立ったままになるものがあるようです

礼子「真綿に漆が付きませんか?」

仁「わずかずつでも付くだろうな。だから汚れてきたら新しいものに取り替える」

礼子「なるほどです」




挿絵(By みてみん)


仁「で、マスキングテープを剥がす」

礼子「金色ですね」

仁「このまま2日ほど漆風呂で乾かす」




挿絵(By みてみん)


仁「で、今度は水色の部分をマスキングする」

礼子「散らばった顔料はウエットティッシュで拭き取っています」

仁「今度は2箇所、最初の花を基準に貼る」




挿絵(By みてみん)


仁「今度はアルミの粉でやってみる」ハ◯ズで買いました

礼子「あ、ちなみに真綿を入れてある容器は100均で買った容器です」アクセサリーもしくは旅行用品売り場にあるかと思います




挿絵(By みてみん)


仁「同じような手順で粉蒔きをする」

礼子「また2日ほど掛けて乾かします」

仁「あ、それから、漆でちゃんとくっついているので、マスキングテープを貼ってまた剥がしても下の粉は剥離しない」




挿絵(By みてみん)


仁「3回目の粉蒔きだな」

礼子「今度はイエロー粉ですか?」

仁「うん。だが、黒地に蒔くと金色になることは実験済みだ」前のゴールドより明るくなることを期待してます

礼子「安心しました」

仁「で、また2日乾燥させる」

礼子「この時間がネックですね」

仁「まあなあ……。せめて1日にならないものか」

礼子「重曹を混ぜると早くなりますが黒くなりますしね」

仁「ゆっくり乾かすほど透明感が出るんだよな」漆の不思議なところ




挿絵(By みてみん)


仁「粉固めだ」

礼子「薄めた生漆を吸い込ませ、余分は全部拭き取ります」

仁「これによって粉の定着率が上がって堅牢になる」

礼子「擦っても取れにくくなるんですね」

仁「ただちょっと色が茶色くなったなあ」




挿絵(By みてみん)


仁「また2日乾燥させたら、仕上げとして磨く」

礼子「コンパウンドですか?」

仁「乾いた漆はどんなモノを持ってきても溶けないからな」王水や水酸化ナトリウム溶液やフッ化水素にも

礼子「超仕上げ用でさっと磨いてます」

仁「伝統技法だと『つや』というものを少量の植物油に解いて、指の腹で擦るんだよな」手がぬるぬるになる




挿絵(By みてみん)


仁「で、完成だ」黒い部分はきれいになった

礼子「金色の差があまり出ませんでしたね」

仁「それは残念だった」いっそ銅色にしてみた方がよかったかも

礼子「これはこれで完成ですか?」

仁「一応はな。だが、しべを書き加えたり、余白(余黒?)に雲を書き込んだりすることもある」

礼子「とりあえず今月はここまでですね」

仁「また機会があったら、さらなる技法も紹介します」




*   *   *


仁「ということで今回は『蒔絵』でした」

礼子「お疲れ様でした」

仁「作業時のかぶれや溶剤の吸引にはご注意ください」

礼子「かぶれた場合は皮膚科へ」




仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」

 ごらんいただきありがとうございました。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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>>蒔絵 人名・・・・・・・・ >>擬似金粉 真鍮? >>桜好きの 真宮時? >>振りかけるようにして のり玉? >>絶対できないな ふぇっぷしっ >>せめて1日にならないものか 某社の食洗…
>「乾いた漆はどんなモノを持ってきても溶けないからな」 大正時代に海軍がピクリン酸の下瀬火薬を砲弾に詰めるとき内面を漆で腐食防止したな
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