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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
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047 アルミニウム製烏口

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第47弾です」

礼子「今回はアルミの烏口ですか? 市販のものがあるのでは?」

仁「うん、それはそうなんだが、アルミ製のものは(多分)存在しない」

礼子「なぜですか?」

仁「烏口とは製図の際に一定の太さの線を引くためのものなんだが、ペンと同様、先が減るんだよ」

礼子「ああ、だから硬い素材で作るんですね」

仁「そう。昔は鋼鉄、今はステンレスだな」

礼子「なら、作者さんはなぜアルミで?」

仁「漆を使って、漆器に線を引きたいんだそうだ」

礼子「ああ、硬いと漆器に傷がつきますからね」

仁「そういうことだな。漆器の表面硬度は6Hとか9Hとかいわれている」

礼子「その単位は?」

仁「鉛筆による引っかき傷テストだな。モース硬度と似たようなテスト法だ」

礼子「引張強さとか衝撃強さとかじゃないんですね」

仁「あくまでも傷のつきにくさ、だな。で、純アルミがそれに近い硬さというか軟らかさのようなんだ」爪よりちょっと硬いくらい

礼子「それでアルミの烏口を自作したんですね」

仁「うん。その使い方も紹介する」

礼子「楽しみです」




挿絵(By みてみん)


仁「まずは図面だ」

礼子「随分とラフな……」

仁「作者はちゃんと方眼紙に実寸で描いたそうなんだが、紛失したらしい」

礼子「あらら」

仁「見つかったら差し替えます」




挿絵(By みてみん)


仁「次は素材だ」

礼子「板と角棒ですね」

仁「板の方が純アルミ、厚さは1ミリ」

礼子「A1050でしたっけ」アイスクリームスプーンで使いました

仁「そうそう。これがA5052なんかになるとやや硬くなって漆器に傷が付きやすくなる」

礼子「角棒は?」

仁「そっちは表記がなかったが多分A6063あたり」まあこっちは何でもOK




挿絵(By みてみん)


仁「で、まずはカット」

礼子「作者さんはバンドソーで切ってます」

仁「金切りハサミでは無理だろうな」

礼子「その場合は糸鋸ですね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、加工その1」

礼子「図面に従って、ヤスリで削るんですね」

仁「根気がいるけどな」あと削り過ぎに注意




挿絵(By みてみん)


仁「穴加工も」ボール盤で垂直に加工です

礼子「さらに片方はM2のねじを切りますので、下穴径はΦ1.5ですね」

仁「両方ねじを切ってもいい」




挿絵(By みてみん)


仁「で、ペン先(?)も加工した」

礼子「この辺はフィーリングですね」

仁「どうしてもそうなる」

礼子「注意すべきは穴位置ですね」2枚とも同じ位置になるよう重ねて穴あけしてます

仁「それから軸の方とも合わせる必要があるからな」一番精度を要求される加工です




挿絵(By みてみん)


仁「で、下側(真っ直ぐの方)には皿ねじ用のくぼみ加工をする」

礼子「頭が出ると不格好ですしね」

仁「手元の方は固定用なので短い」

礼子「先の方は開き方を変えるためのナットを取り付けるので長いですね」




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「組み立てた」

礼子「軸にもねじが切ってあるのでビシッと締まりますね」

仁「裏側もちゃんとねじの頭が引っ込んでいるな」




挿絵(By みてみん)


仁「さて、もう1つ面倒な部品づくりだ」

礼子「調整用のナットですね」

仁「うん。これは1.5とか2ミリ厚のアルミを使うんだが、ちょうどA2017の切れっ端があったのでそれを使った」

礼子「ジュラルミンですね?」

仁「そう。模型を作った際の半端材だ」ハ◯ズで買いました

礼子「M2の雌ねじを切るので下穴径はΦ1.5です」




挿絵(By みてみん)


仁「ねじを切ったら、長いM2ねじで仮止めして丸く削り出す」

礼子「簡易旋盤とルーターですね」

仁「回転体だからこれが一番手っ取り早い」

礼子「ない場合はヤスリで調整してくださいね」真円でなくても十分使えます




挿絵(By みてみん)


仁「で、ロレットというのかな? 滑り止めをつける」

礼子「三角ヤスリで削りました」




挿絵(By みてみん)


仁「で、これを取り付ければ烏口の組み立ては終わり。あとは仕上げだな」

礼子「上の穂先を少し丸みを持たせて下へ曲げてから、先端をスポンジヤスリで薄くし、角を丸めます」水ペーパーでもいいです

仁「そのへんの加減は実物……市販のものを参考に、だな」ネットに使い方も載ってます




挿絵(By みてみん)


仁「で、試し書きをしてみた」黒インクです

礼子「ちゃんと書けますね」

仁「うん」よかったよかった




挿絵(By みてみん)


仁「では、漆を使った本番だ」まずは準備

礼子「生漆、薄め液、パレット、小筆ですね」後ろの黒い板が試し書き用です

仁「生漆はだいぶ古くなった上摺(日本産生漆)だ。本来はベンガラを混ぜた絵漆を使うんだが、さすがにそれでは烏口は使えそうにないからな」粘度が高すぎて

礼子「溶剤はガムテレピン、ですか」

仁「松の木などから採った天然のテレピン油だな」通常は石油から合成

礼子「テレピン油を混ぜると、少しだけ漆の硬化が促進されるんですよね」

仁「寒いときにはありがたい効果だな」




挿絵(By みてみん)


仁「まずは普通の紙(と言っても表面がツルツルのもの)で試し書きだ」

礼子「ちゃんと書けましたね」

仁「うん、よかった。ただ、粘度調整と先の開口度は慣れが必要だな」

礼子「漆の薄め具合はカ◯ピス原液ぐらい……で通じるでしょうか」

仁「ちなみに、エアブラシに使う際の塗料の薄め具合は牛乳、と言われてるな」蛇足でした




挿絵(By みてみん)


仁「で、本番の試し書き(?)だ」

礼子「金粉も蒔いているんですか?」

仁「疑似金粉だけどな。アルミの粉を金色に着色したもの……だと思う」

礼子「描いたあと、テレピン油が揮発して漆の粘度が少し上がるのを待ってから蒔きます」

仁「今回は筆の先に金粉を付けてふりかけてみた」

礼子「多めにかけるのがコツです」漆が吸収するので

仁「本物の金粉ではもったいなくてそんな蒔き方できないけどな」いずれ蒔絵の技法もご紹介します




挿絵(By みてみん)


仁「そしてこの状態で漆風呂に入れて乾かす」

礼子「湿度80パーセント、温度摂氏25度くらいですね」

仁「冬はもうちょっと温度を上げてもいいようだ」摂氏30度くらい




挿絵(By みてみん)


仁「で、粉落とし」

礼子「ラーメンですか?」

仁「なんだよいきなり」金粉を払い落とすんだ

礼子「柔らかい筆を使って、そっと払うんですね」

仁「漆が固まっていればそっちは落ちることはない」

礼子「本物の金粉だったらもっと気を付けないといけませんね」

仁「まあな」こうして練習しておくのはいいことだと思う




挿絵(By みてみん)


仁「で、粉を集めてビンに戻す」

礼子「静電気を起こしにくい缶でもいいですね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、これが蒔絵もどき」

礼子「なるほど、それらしいですね」

仁「筆じゃあこの線の滑らかさは出せないんだよなあ」作者の熟練度が低いから

礼子「漆器の職人さんたちは凄いですよね」

仁「うん。その分工夫とアイデアで少しでも近づかないと」もうちょっとだけ線が細ければよかったかな

礼子「なるほど」





*   *   *


仁「ということで今回は『アルミニウム製の烏口』でした」

礼子「お疲れ様でした」

仁「加工時の怪我やにはご注意ください」

礼子「漆かぶれにも要注意ですね」

仁「かぶれた場合は皮膚科へ」

礼子「作者さんはかぶれない体質でよかったですね。ところで……」

仁「?」

礼子「アルミでなくプラスチックでは駄目だったんですか?」硬さという点で

仁「試してはいないが、多分駄目だ」

礼子「それはなぜです?」

仁「『濡れ性』といって、プラスチックは水性塗料を弾く性質があるからな」詳しくはお調べください

礼子「そうすると?」

仁「烏口の先に漆やインクを保持できない……と思う」

礼子「なるほど」

仁「まあ、今回作った烏口は穂先だけ交換できるので試してみるのもいいかもしれないな」

礼子「わかりました」




仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」

 ごらんいただきありがとうございました。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
『無ければ作れば良い』、本職の職人さんの言葉そのものですね。 某テレビ番組に登場した匠クラスの職人さん達も自分のが使いやすい道具を自作してましたけど、普段から物作りするからこそ『市販されていないなら…
>>硬いと漆器に傷が じゃぁ、樹脂で・・・・・ 3Dプリントを導入で何度でも・・・・ >>プラスチックは水性塗料を弾く そこで中性洗剤を・・・・・
ないから自作はちょっと笑ってしまうんだ……いや凄いことですけども!
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