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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
60/73

044 付け印籠の筆入れ

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第44弾です」

礼子「今回は筆入れですか」

仁「うん。ようやく涼しくなってきたので木工をしたくなったらしいな」

礼子「暑さと何か関係が?」

仁「カンナがけって結構力がいるから暑くなるんだ。あとサンディングとか」

礼子「ああ、なるほど」

仁「前にも書いたが、作者は箱物が好きなんだよな」

礼子「それで筆入れですか」

仁「ちょっと工夫というか、今回は付け印籠いんろうにする」

礼子「それってなんですか?」

仁「待て待て、次で説明する」




挿絵(By みてみん)


仁「まずは印籠の解説だ」

礼子「某副将軍様が持っているアレですね」

仁「まあな。もっとも、江戸時代の武家はたいてい持ち歩いていたらしい」時代劇調べ(ぉぃ

礼子「印籠といいますが、中には丸薬が入っていますよね?」

仁「そうだな。物にもよるが何段かになっていて、胃薬と気付け薬みたいに分けて入れたりもできるらしい」

礼子「で、家紋が入っていますね」

仁「それは注文で作ることが多いな」漆塗りに金蒔絵

礼子「帯からぶら下げるんですよね」で、時々られたりして

仁「そんな考察はもういいだろ。……とにかく、そんな構造に似ているから『印籠蓋』というんだ」図の右です

礼子「確かに」

仁「和竿わかんにも『並継ぎ』と『印籠継ぎ』があるしな」

礼子「ぴったりと蓋が閉まるので見た目にも美しいんですね」もちろん気密性も

仁「そうそう」




挿絵(By みてみん)


仁「前置きが長くなったが、まずは材料だ」ヒノキの薄板です

礼子「ヒノキですか」削ると独特の香りがしますね

仁「文房具にはいいかもな」ホオノキやカツラ、スギなどでももちろん構いません

礼子「お好きな素材でどうぞ」




挿絵(By みてみん)


仁「まずはサンディングだ」

礼子「両面ですね」

仁「いや、片側でいい」

礼子「なぜですか?」

仁「外側は後でいろいろ加工するから、今やっても無駄になる」

礼子「わかりました」




挿絵(By みてみん)


仁「で、寸法どおりに切り出す」

礼子「あの……寸法図が……」

仁「あ」作者も用意するのを忘れたようですm(_ _)m

礼子「申し訳ございません」

仁「上下(蓋と底板)は幅90ミリの長さ270ミリ、厚さ3ミリ」あとで削るので少しだけ大きめにしてます

礼子「側板は幅30ミリ厚さ5ミリの平角材を270ミリ2枚と90ミリ2枚に切り出してます」


仁「で、ケヒキを使ったわけだ」罫引きと書いてケヒキ、ケビキと呼びます

礼子「作者さんは刃の部分をカッターの刃に取り替えてますね」

仁「こういう風に、平行な材を切り出すのに便利だからな」わりケヒキともいいます

礼子「ノコギリに比べて、おが屑が出ない、つまり材料の無駄が少ないのが利点ですね」

仁「だけど薄い材にしか使えないけどな」せいぜい5ミリくらいまで




挿絵(By みてみん)


仁「で、側板の加工をするため、長手方向と妻手つまで方向に分けてマスキングテープなどで仮止めする」妻手というのはこうした箱などの短い側の呼称です

礼子「寸法を同じにするためですね」

仁「うん。別々に作ると、どう頑張ってもコンマミリ単位くらいの誤差が出るからな」印籠蓋には致命的だ




挿絵(By みてみん)


仁「今回は『留組とめぐみ』なので端面を45度に削る」専用治具を使います

礼子「角を直角にするためですね」

仁「そうそう」




挿絵(By みてみん)


仁「削るとこんな感じだ」

礼子「ちゃんと揃ってますね」

仁「カンナの刃が切れないと、軟らかい木ほどささくれる」キリとかスギなんかは難しい

礼子「ホオノキくらいが手頃ですね」

仁「そうだなあ」ケヤキやナラはとても硬いし




挿絵(By みてみん)


仁「で、今度は反対側をテープで仮止めする」

礼子「45度削りの時とは反対側ですね」

仁「うん。『基準面』にテープの出っ張りがあるのはまずいからな」

礼子「45度削りの時は内側になる方をテープで止めましたが、今度は外側になる方ですね」

仁「そう。理由はこの後でだな」




挿絵(By みてみん)


仁「直角に固定する治具だ」作者の自作です

礼子「これを内側に当てるから、テープは外側に貼るんですね」

仁「そうそう」

礼子「でも結局、内側にもテープが見えますが」

仁「……ように見えるが、実は治具が当たる部分には貼っていないんだ」



挿絵(By みてみん)


仁「2分型エポキシを使って貼り合わせる」プラの洗濯ばさみで軽く押さえて動かないように

礼子「強力なクランプでもいいんですが、木が凹みますので当て木をしてくださいね」

仁「接着剤は木工用でも5分型エポキシでもいいです」

礼子「固まるまでそっとしておきましょう」

仁「そういう点では2分型エポキシはいいな」たまに作業中に固まるけど




挿絵(By みてみん)


仁「で、固まったら直角を確認する」

礼子「大丈夫そうですね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、これでようやく2つを貼り付けていたテープを剥がせる」

礼子「いよいよ側板も大詰めですね」




挿絵(By みてみん)


仁「前回同様、2分エポキシで2つを直角に固定しつつ接着だ」2箇所同時なので5分型のほうがいいかもしれません

礼子「対辺の長さが等しく、4つの角が直角な四辺形は長方形ですものね」

仁「そんな定理があったと思う」中学レベルの数学で




挿絵(By みてみん)


仁「で、固まったら側板同士の微妙なズレを無くすためにサンディングだ」

礼子「平面を出したいので、平らな場所に大きなサンドペーパーを置いて側板の方を動かすんですね」

仁「そうなるな」削り粉を吸い込まないようマスクは必携です




挿絵(By みてみん)


仁「で、ここで上下の板を接着する」接着長さが長いので5分型を使いました

礼子「浮かないよう、ずれないようにテープで仮固定ですね」

仁「そのあと、重しを乗せておいてもいいかもな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、接着後のようすだ」

礼子「少しはみ出てますね」

仁「ここを削れば側板と同面どうつらにできるからな」

礼子「ピッタリの寸法に作っておくと、僅かにズレたときに悲惨ですからね」

仁「うん。削ることはできるが足すことはできないからな」作者も昔、それで苦い思いをしました




挿絵(By みてみん)


仁「で、まずはカンナで削る」

礼子「浅草のお店で買ったカンナですね」

仁「うん。言問通りにあった大工道具屋さんなんだが、どうやら2023年に閉めてしまったらしい」残念です

礼子「あらら」

仁「作者も随分通ったんだけどな」ノコギリとかノミとかカンナとか

礼子「大旦那さんもいろいろレクチャーしてくれましたね」




挿絵(By みてみん)


仁「気を取り直して、側面の仕上げだ」

礼子「サンディングですね」これも粉を吸わないようマスクを忘れずに




挿絵(By みてみん)


仁「そして、割ケヒキで上下を分割する」

礼子「これなら、蓋と身の寸法がずれることはありませんものね」

仁「うん。作者も、これに気付くまで幾つか失敗しているんだ」




挿絵(By みてみん)


仁「参考までに、機械で行う場合」丸のこ盤で

礼子「鋸歯の厚み分、ロスが出ますね」

仁「そうなるな。しかも、3面を切ると、残りの1面は不安定になるから、鋸歯が食い込んだりするんだ」

礼子「切断面がガタガタになりますね」

仁「それを避けるため、まずは長手方向を先に切って、そこに切り込みと同じ厚さのボール紙などを挟んでテープで仮固定すればいい」

礼子「これも作者さん、痛い目見たんですよね」

仁「言ってやるな」




挿絵(By みてみん)


仁「さて、きれいに切り離した」

礼子「蓋と身の高さの比はどのくらいですか?」

仁「付け印籠にするから、蓋があまり浅いのはまずい」今回は蓋4:身6くらい

礼子「比率というより、蓋の深さが付け印籠との噛み合いになるのでそちらを考慮したほうがいいようです」




挿絵(By みてみん)


仁「で、これも合わせ目はきれいに仕上げる」

礼子「丁寧に行ってください」

仁「ここも木の粉を吸わないようマスクを忘れずに」




挿絵(By みてみん)


仁「で、確認」

礼子「きれいに合ってますね」

仁「このやり方だと、側面の木目も一致するんだよな」ヒノキだとあまり目立たないですが




挿絵(By みてみん)


仁「で、付け印籠分を切り出す」

礼子「蓋や底を作った余りですね」3ミリ厚のヒノキ

仁「そうなるな。周りがケヤキとかナラのような硬い木の場合、内容物を傷つけにくいようにキリみたいな軟らかい木を使うという手もある」

礼子「『付け』印籠ならではですね」同じ素材にこだわる必要はないという

仁「そうそう」




挿絵(By みてみん)


仁「で、付け印籠用の板の幅をそろえる」

礼子「以前箸を作ったときにも使った治具ですね」

仁「必要な幅にセットしたこの治具にのせて削れば同じ幅になるからな」

礼子「本体の方は、今回は最初から30ミリ幅の平角材を使いましたからね」

仁「うん。幅広の板から木取りする際はこれを使って幅を揃える必要があるな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、これも端面を45度に削って、本体の中に差し込んでいく」

礼子「手作業ですので現物合わせですね」

仁「合わせながら少しずつ削っていく」削りすぎると悲しいことになります

礼子「ゆるゆるだと作り直しですからね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、一とおりできるとこんな感じだ」

礼子「きっちりとまるなら接着しなくてもよさそうですね」

仁「実際、作者は接着してないからな」




挿絵(By みてみん)


仁「で、きっちりとはめ込んで蓋と底を加工する」

礼子「丸みをつけるんですね」

仁「そこは好みだな。作者はなだらかな曲線をもたせたようだ」

礼子「できるだけ木口こぐち(切断面のうち、年輪が見える側。直角側は木端こばという)を見せないよう、斜めに削ってます」




挿絵(By みてみん)


仁「ここもサンディングをして仕上げる」

礼子「サンドペーパーの番手はどのくらいですか?」

仁「180番から始めて、最終的には600番だな」400番くらいでもいいです




挿絵(By みてみん)


仁「本体完成だ」

礼子「まだなにかやるんですか?」

仁「筆入れだからな」




挿絵(By みてみん)


仁「漆を……とも思ったが、普段遣いにしたいので柿渋にした」

礼子「汚れが付きにくくなりますね」

仁「うん。以前使った粉末の柿渋だ」011のペーパーナイフのときです

礼子「乾かしては塗り、で計4回ですね」

仁「外側だけな」中は素木しらきのままにしました




挿絵(By みてみん)


仁「で、完全に乾いたら、600番くらいのサンドペーパーを掛け、仕上げだ」

礼子「今回はワックスですね」

仁「うん。いつものウレタンもいいんだが、たまにはな」

礼子「木工専用の軟らかいワックスを使いましたが、固形の『木蝋もくろう』『白蝋はくろう』(木蝋を漂白したもの)『蜜蝋みつろう』などもあります」

仁「セーム革や、ネルなどの柔らかい布で刷り込む」硬い蝋だとけっこう大変です




挿絵(By みてみん)


仁「最後は内装だ」

礼子「筆入れですからね」

仁「020の箱で使った板目紙と100均ちりめんだな」ちりめんの方は最近サイズが小さくなりました(200x300→200x200(単位ミリメートル))




挿絵(By みてみん)


仁「今回は蓋と底だけにする」

礼子「蓋と底の内寸に合わせて切るんですね」

仁「内寸より1ミリ小さくするのがコツだ」

礼子「ああ、裏面へ回り込んで貼るからですね」

仁「そうしないとギチギチで入らなくなるからな」




挿絵(By みてみん)


仁「角は45度に落として裏へ回して貼ればいい」

礼子「面積が広いのと、ちりめんが意外とふにゃふにゃで張りがないので要注意です」

仁「いっぺんに貼らずに、裏紙を剥がしながら少しずつ貼っていくといい」シワには注意です

礼子「で、底と蓋にはめ込むんですね」

仁「万が一ゆるくなっても、両面テープで貼ったり接着したりすれば大丈夫です」




挿絵(By みてみん)


仁「で、完成だ」

礼子「筆箱じゃなく筆入れだというのがよくわかります」

仁「持ち運ぶためのものじゃなく、机の上に置いて使う物だな」

礼子「大きさを工夫すればいろいろな小物入れに応用できると思います」

仁「だな」名刺入れとかアクセサリーボックスとか



*   *   *


仁「今回は『付け印籠の筆入れ』でした」

礼子「お疲れ様でした」

仁「柿渋は時間が経つと少しずつ色が濃くなっていくのがいいんだよな」

礼子「そういうものなんですね」


仁「何度も言ってますが木の粉や削り屑を吸い込まないようマスクをお忘れなく」

礼子「刃物、工具などによる怪我にはご注意ください」

仁「趣味は安全に、楽しくやりましょう」



仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」

 ごらんいただきありがとうございました。

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印籠 葵の御紋 筆入れ 象がふんでも壊れないが礼子が踏んだらめり込む?
これは工学ではなく数学の話なので、全く関係のない事なのではありますが、 長方形の定義は 「4角全てが等しい」 以上。なのですね。 ただ、この定義をこねくり回す事で、様々な十分条件を出せる訳です。 …
>>箱物が好き 箱物行政・・・・ >>和竿にも 某じいさん・・・・・ >>寸法図が…… 目測でえいやっと? >>クランプ こう言う時の百均の安物・・・ >>筆箱じゃなく筆入れ どっちにしろ今で…
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