037 箸
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第37弾です」
礼子「今度は箸ですか」
仁「うん。実は作者は自分で作った箸と箸箱を使っているんだと言ったろう? 箸箱ができたなら今度は箸だよな」
礼子「なるほど。親戚の叔母さんに頼まれたと言ってましたっけ」
仁「そうそう。……それに今はちょっと寒すぎて、あまり複雑な細工はしたくないんだそうだ」
礼子「なるほど?」
仁「なんせ作者の作業場は、冬は氷点下、夏は40℃くらいになるからな……」
礼子「辛そうですね……」
仁「というわけで、始めようか」
仁「まずは素材だな」
礼子「こういう角材ですね」
仁「うん。◯ンズで売ってる、箸用の角材だ」10ミリ角で長さは見てのとおり240ミリ
礼子「箸にはちょうどよさそうですね。材質はなんですか?」
これは『桜』だな」
礼子「花の咲く?」
仁「そうなんだがそうじゃないかもしれない」
礼子「どういうことですか?」
仁「木材としては、『カバノキ』の材が桜に似ているというので、『カバザクラ』という名称で流通しているんだ」
礼子「ややこしいですね」
仁「うん。『ヤマザクラ』という名称なら間違いなく桜なんだがな」
礼子「そんなに似ていますか?」
仁「カバのほうがやや木目が粗い気がする」どっちもそこそこ硬くて弾力があるので箸には向くんだけどな
礼子「それに作者さん、桜好きですものね」
仁「うん。自分用の箸箱は桜材で作っているらしいし」
礼子「箸用の木材ってあとはどんなものがありますか?」
仁「軽いものだとヒノキ、アスナロ(ヒバ)かな。中くらいがサクラ、ケヤキ、クリ、クワ、カエデ、タモなど。重いものはイスノキ、コクタン、シタンなどだ」もちろんまだまだあります
礼子「イスノキて、もしかして示現流の?」
仁「よく知ってるな。そう。示現流はイスノキの棒を振って練習するらしいな」イスノキは九州に多い、硬くて重い木です
礼子「箸の重さって重要ですよね?」
仁「そうだな。作者が私淑している秋岡芳夫先生の本によると、東北は重めの箸、西の方は軽めの箸を好むそうだ」
礼子「サクラは中庸ですね」
仁「うん」
仁「使いやすい長さにカットする」2つをテープでくっつけておいて同じ長さに切るんだな
礼子「22センチですね」
仁「うん。実は、手の大きさと箸の長さは関係している」
礼子「そうなんですか?」
仁「うん。最終的には好みや使いやすさなんだろうけどな。……親指と中指を伸ばして90度を作った時の指先の距離を『咫』というんだが、その1.5倍と言われている」八咫鏡の咫もこれです
礼子「人によって違いますよね?」長さの単位としては不適切なような……
仁「昔はそこまで正確な原器は必要なかったんだろうな」今は箸の長さの話だからいいだろ
礼子「大体、男性用で23〜23.5センチ、女性用で22センチ〜22.5センチくらいですね」
仁「そのくらいだな」さっきも言ったが好みと使いやすさで決めていいと思う
仁「さて、削っていくんだが、2本を同じ太さに揃えるのはなかなか難しい」
礼子「そうでしょうね」
仁「そこで治具の出番だ」
礼子「カンナ掛け用の治具ですね」
仁「うん。本来は同じ幅に削るためのものだが、こういう使い方もできる」
礼子「抑え板を箸の形に斜めに固定しておくんですね」
仁「そう。台にカンナが当たると、そこまでしか削れなくなるわけだ」
礼子「削りたい分だけを治具からはみ出させておく、というわけですね」
仁「そうそう」
仁「実際に削ってる」
礼子「これなら、2本を同じ形にできますね」
仁「うん。ただ、逆目が出ないように、素材は木目が真っ直ぐなものを厳選する必要があるな」
礼子「もし逆目が出るような素材の時は?」
仁「テーブルソーで切ってヤスリで仕上げるしかない」
礼子「なるほど」
仁「削り終えた」先は4ミリ角、元は9ミリ角くらい
礼子「ちょっと太めですね?」
仁「それがそうでもないんだ」このあと面取りするからな
仁「ということで『面取り』だ」
礼子「これも、専用の削り台があるんですね」
仁「治具は大事だぞ」特に同じ形のものをいくつも作るときには便利です
礼子「面取りをすると細くなった感じがしますね」
仁「だろう? 特に先が細すぎると弱くなるからな」
仁「で、サンドペーパーで少し丸みをつけるように削って木地は完成だ」
礼子「いい感じですね」
仁「自分で使うなら、実際に持ってみればいいだろうな」
礼子「その上で好みの形に仕上げるんですね」
仁「そうそう」
礼子「あとは漆塗りですね」
仁「そうだな。……この回がアップされているときには、少し塗りが始まっているはずだ」
礼子「1ヵ月以上は掛かりますものね」
仁「そういうことだ」完成をお楽しみに
* * *
仁「というわけで、今回は『箸』でした」
礼子「加工の際はくれぐれも怪我にはご注意くださいね」
仁「削り屑の吸い込みにも注意です」
礼子「次は漆塗りですね」
仁「うん。乞うご期待。……皆様、お読みくださってありがとうございました」
礼子「1月も終わりですが本年もまた、よろしくお願いいたします」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。




