012 アイスクリームスプーン
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第12弾です」
礼子「今回はスプーンですか?」
仁「そう。陽気がよくなってアイスクリームの美味しい季節になったしな」
礼子「冬でも暖房をつけて食べますけどね」結局1年中
仁「で、冷凍庫から出したばかりのアイスクリームとかシャーベットって硬いんだよな」
礼子「そうですか?」ほじほじ→スプーンぐにゃり
仁「ほらあ、力任せにやるとスプーンが曲がる」
礼子「アルミニウムのスプーンなら曲がらないんですか?」
仁「いや、曲がるぞ」
礼子「じゃあなんで……」
仁「アルミニウムは熱伝導がいいから、凍って硬いアイスクリームに熱を伝えて先端の当たった部分だけ軟らかくしてくれるんだよ」その分持つ手は冷たくなるけどな
礼子「ああ、そういうわけですか」
仁「で、材料は1ミリ厚のアルミニウム板だ」1.5くらいでもいいかも
礼子「A1050とかA1100って材質ですね」どういう意味ですか?
仁「JIS(日本工業規格)で決まっている呼称だな。Aはアルミニウムで1000番台は純アルミだ」
礼子「1050とか1100の意味は?」
仁「アルミニウムの純度だな」あまり気にする必要はないぞ
礼子「A5052なんていう番号もあったみたいですが」
仁「そっちは合金だな。硬いから鍛造しにくいぞ」5000系は一旦火で炙ると軟らかくなるものが多いけどな
礼子「やけどに気をつけたいですね」
仁「ちなみにA2017というのはジュラルミンだ」硬いから曲げると折れるので鍛造には不向きだ
礼子「いろいろあるんですね」
仁「話を戻すと、今回は鍛造の初歩の初歩をするから軟らかめのほうがいいんだ」
礼子「だから純アルミですか」
仁「そう」
仁「まずは切る準備だ」
礼子「型紙を作ったんですね」
仁「スプーンって、ある程度大きさと形が揃っていないと見苦しいじゃないか」
礼子「確かに」お一人様用ならいいんでしょうけど
仁「言うな」ぼっちじゃないし
礼子「型紙は左右対称にするため、二つ折りにした厚紙を切って開くのがコツです」
仁「それ、俺のセリフな」
仁「切りました」
礼子「金切りバサミでいいんですか?」
仁「いや、この厚さになると糸鋸のほうがいいな」作者はバンドソーを使っています
仁「いよいよ鍛造だ」まずは道具から
礼子「色々面白い道具が写ってますね?」
仁「ああ。こけしみたいなのは『矢坊主』っていって、半球型のものを打ち出す時の雄型だ」
礼子「サイコロみたいなのは?」
仁「そのものズバリ『サイコロ玉台』だな『矢坊主』と合わせて使う」
礼子「丸くなった木槌もありますね」
仁「鍛金用の木槌だな」これでアルミを打ち出す
礼子「スプーン用の木台もありますね」
仁「ああ。ケヤキの厚板を彫刻刀やノミで彫って作った」
仁「で、叩いて打ち出す」だから鍛金
礼子「コツはありますか?」
仁「おっかなびっくりで力を入れないでやるといつまで経っても終わらないな。それと、『加工硬化』っていって、長く叩いていると硬く脆くなるから要注意だ」アルミが割れる
礼子「『加工硬化』を避ける方法ってあるんですか?」
仁「金槌じゃなく木槌でやると幾分起こしにくいな。あとは熱して冷ますとまた軟らかくなる」
礼子「焼きなましですね」やけどにご注意ください
仁「あまり軟らかくするとスプーンとして機能しなくなるしな」礼子の力じゃなくてもすぐ曲がる
仁「で、形ができたら研磨だな」特に縁は念入りに丸めましょう
礼子「サンドペーパーですか?」
仁「スポンジペーパーが便利だぞ」
礼子「ここで丁寧な仕事をすると仕上がりが綺麗です」
仁「ヘアライン仕上げがおすすめだな」鏡面は大変だ
礼子「鏡面にするなら液体研磨剤をお使いください」ピ○ールとかコンパウンドとか
仁「その場合手が黒くなるんだよなー」
礼子「完成ですね」
仁「うん。食品に使うので食器用洗剤で丁寧に洗ってからお使いください」あ、茶匙にも使えそうだな
礼子「それから、金属の切れ端で手を切らないよう、お気をつけくださいね」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。




